2011年11月5日

 
   来年も繰り返すのか! 過酷な入試。進学率の低下は必至

2013年度入試での見直しを条件に、公立60%枠破棄を求める請願は「不了承」
2012年度公立高校全日制生徒募集定数 60.0%(40730人)プラス緊急枠120人

知事も教育委員も『違和感』を表明した『設置者会議』は廃止し
       生徒・保護者・県民が参加できる幅広い議論の場を



  2012年度の公立高校生徒募集計画が10月18日の県教育委員会議で決定された。2012年度の県内全日制進学率が88.0%と過去最低、全国でも最下位となる中で、60%枠に加えて「緊急枠」が追加されることになったが、これも120人(0.17%相当)にまで減らされた。

 翌19日には私立全日制高校の募集要項が発表されたが、2012年度に比べて176人減の1万4437人。来年度の公立中学卒業者数は6万7884人と、2011年度比で1363人も増加する。このままでは2012年度も全日制進学率の大幅低下は目に見えている。設置者会議がつくられた2005年度以降も改善どころか悪化の一途。

 生徒にとっては一生に1回の高校入試。目前の生徒の困難をいつまで放置するのか。


2011年の全日制進学率は『88.0%』   全国最下位をまたまた更新!

 8月2日の教育委員会議で2011年春の公立中学卒業生の進路状況が発表され、全日制進学率は88.0%と、昨年の88.2%をさらに下回り、全国最下位を更新する異常な事態となっていることが明らかになった。2010年、2011年と「公立枠60.0%」が強行される中で、「募集枠が減って公立に行けず、経済の悪化で私学にも行けない」状況はますます進行している。

“もめた”公私協議!

 8月10日の公私協議会では、「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」が請願を提出し、「全国最低の全日制進学率」の中で、生徒が進学先を求めて右往左往させられていること、定時制の過大規模化・教育条件悪化が進んでいること、中学生の10人に一人が定時制か通信制に行かざるを得ない神奈川の異常さなどを口頭陳情で指摘すると、最近の公私協ではめずらしく、公立側と私学側との緊張した議論が展開した。
 

60.0%枠は維持したまま   120名プラスで公私合意

 8月23日に開かれた公私協議会では、県教委から「2011年春の調査では公立全日制を希望しながらやむなく定時制に入学した生徒が261名あり、緊急措置としてこの数を公立枠に上積みしたい旨、提案があった。これに対し、私学側は「公立枠60.0%の維持」を強く主張して両者が対立したが、座長(県民部私学振興課長)の斡旋で、「60.0%に120名を上積み」することで決着した。

 公私協を受けて、9月7日には設置者会議が開かれ、「公私協の合意」が提案され、そのまま承認されたが、席上、黒岩知事からは「このような公私協議のあり方に違和感を持たざるを得ない」、との発言があった。

 (設置者会議は知事が主催し、メンバーは、知事を含め、学識経験者@、県民代表@と、私学協会C、横浜市教委@、川崎市教@、横須賀市教委@、県民局@、県教委Bの14名で構成。県民代表は元県会議員の新堀豊彦氏1名。保護者や学校現場の代表参加はない。)

公立高等学校全日制入学定員計画                      県教委資料による
公立中学
卒業者数
定員比率
(60%)による
定員枠
緊急的
措置
県外等から
の入学者
転編入学 入学定員 公立枠
(公立中卒者比)
2012年度 67,884 40,730 120 560 671 42,320 60.17%
2011年度 66,521 39,889 480 632 41,240 60.00%
増減 1,363 841 120 80 39 1,080 0.17%


「公立60%枠」の設定に正当性はない  『枠撤廃』を巡っての10/18委員会論議

 県内の10団体で構成する「かながわ定時制・通信制・高校教育を考える懇談会」は請願を提出、10月18日の教育委員会議で県教委の募集計画案とともに審議された。審議は約1時間半におよんだ。各委員の主な発言(要旨)は以下の通り。

 M委員:「公私協、設置者会議に違和感がある。」
 K委員:「公立60%枠を決めている意味がわからない。経営のためというなら、学校・生徒のためにはならない。」「これは経済的問題。公立落ちても私学に行けないのは明らか。この10年間で(定・通の進学率は)4%から9%にもなっている。」「定時制・通信制への不本意入学者は全日制で受け入れるべきだ。その役割を果たせる全日制高校をつくればいい」「定時制は本来の苦学生(働いている生徒)だけでいいのではないか」

 G委員:「この委員会として(公立60%合意を)変えるということがはっきりするなら(すぐに撤回は無理ということで)請願の(1)は否定せざるを得ない。」

 Hu委員:委員になったときから公私間協議があった。この公私間協議がネックになって公立が拡大できないのはいかがなものか。2010年から3年間(2012年まで)としばられていて今回は難しいが、再来年に向けて検討していくべきだ。

 Hi委員:「(2004年秋の)私学の訴訟のときは、委員会として受けて立つ覚悟でいたが、そのままでは入試ができなくなるというので、松沢知事のあっせんで今の形ができた。」「私たち委員の前に、私学の募集計画や経営などの資料が一切ないというのは困る。」「計画進学率でやっていた頃の事務局の苦労を知っている。それらの経過で、今の『比率による割り振り』が出てきた。『公立60%』の3年間で何が起きているかしっかり検証して『県教委決議』として設置者会議に申し入れることも考えられる。」


現段階での撤回は否決するも  『2013年度入試・公立6割の見直し』を教育委員会議で確認

 教育委員会議では、請願の7項目のうち、(4)項は教育委員会の所管でないということで、県民部へ送り、残りの6項目について審議・採決を行った。(1)項については、2013年募集に向けては抜本的に検討することを前提に不了承とするという委員長提案に対して、賛成4、反対1(倉橋委員)で可決した。「抜本的見直し」については、年度内の1月、2月にも勉強会を開いて検討を始めることも確認した。

 残りの5項目については、全員一致で委員長提案の「不了承」を可決しているが、時間が全く不足しており、委員の現状理解の不足は否めない。


 このままでは全日制進学率87%に  定時制・通信制の不本意入学者は増えるばかり
 効果のある緊急的措置として 学費補助大幅増額と追加募集を


 下の表はこのたび発表された公立高校および私学の募集計画より来年度の全日制進学率を推定したものである。推定では2012年度の全日制進学率は87.2%、「ダントツで全国最下位」と県も認めた今年の88.0%を大きく下回る。前期入試・後期入試で全日制を落ちた生徒が定時制、通信制へ殺到する事態がさらに拡大することも予想される。まだ6ヶ月の期間がある。公立・私立の全日制で受け入れる数を増やす方策を考えなければならない。

県内公立中学校卒業者の進学率の実績と予想     県教委資料をもとに作成
年度 公立中学
卒業者数
県内公立全日制
への進学者数
県内私学全日制
への進学者数
県外(私学
国公立等)
全日制進学率
2012 67,884 予想 40,850 12,816 5,514 87.2%
計画 40,850 *14,437
2011 66,521 実績 40,164 12,972 5,403 88.0%
計画 39,889 *14,613
  *は県内私学の募集人数(計画)は、県外からの受験者も含む数
  県内私学、県外の予想人数は2011年度の実績(%)をもとに計算

 残された道は2つ。その第1は私学入学生に対する学費助成の大幅増額である。下に今年度の県の学費補助の基準を示した。今年度は所得区分2(住民税非課税世帯)まで年額合計42万円の授業料補助(私学授業料の最低額)が受けられているが、これを、所得区分3,4あたりまで合計42万の補助を受けられるように県が措置すれば、私学入学者を1000人から2000人増やすことが可能となる(680人で進学率1%に相当)。

神奈川県の私学生徒への学費補助(2011年度)
                   (神奈川県教委資料および神奈川私教連資料より作成)
家計所得区分
(年収の概算)
対象生徒の
構成比
(参考)*
県の学費補助 国の就学支援金
授業料
授業料支援額
の合計
軽減される
入学金
軽減される
授業料
生活保護世帯 0.3%(220人) 99,000円 182,400円 237,600円 420,000円
非課税世帯⇔ 4%(2,653人) 99,000円 182,400円 237,600円 420,000円
350万円未満 17.2%
(1,1266人)
99,000円 89,400円 178,200円 267,600円
500万円未満 99,000円 96,000円 118,800円 214,800円
797万円未満 99,000円 74,400円 118,800円 193,200円
797万円以上 78.5%
(51,489人)
118,800円 118,800円
  *生徒の構成比は08年度受給者数と09年度県内私立高校在籍数(65,628人)から算定
  ⇔非課税世帯とは、住民税所得割額が非課税の世帯(年収250万円未満程度)


 第2は、公立全日制での生徒受け入れを可能な限り行うことである。募集計画は決まってしまったが、「県外からの入学者560人」や「転編入学671人」の枠を使って、県外からの入学や転編入に空きがあれば、「追加募集」などして県内受験生をできるだけ受け入れることも考えられる。なお、受け入れた学校には職員定数や非常勤講師の時間を増やすことなどはもちろん必要である。

 来年春に「10年前には大丈夫だったのに、なぜ、いま入れないの?」という生徒の声が出ないようにするために、我々大人は最大限の努力をしなければならない。特に行政には直接責任が問われている。

設置者会議は機能不全  設置者の都合で決めるのではなく
      生徒・保護者・県民の立場に立ち 公開で透明性のある新しい議論の場を

 2005年2月に設置された設置者会議は、「生徒の視点に立った定員計画を策定」「全日制進学率の向上」「生徒一人ひとりの希望と適性に応じた進路を確保」とうたっているが、この間、これらの目標とは正反対の方向に事態を加速させてしまった。「目標」、「視点」とは全くかけはなれた、「私学経営の都合」がすべてを支配している。「設置者」だけで構成する会議の限界が見えている。機能不全に陥った設置者会議は廃止し、生徒・保護者・県民の立場に立った新しい議論の場を作る必要がある。

 全日制進学率が低下を始めた2000年以来この10年間に全日制への進学機会を失われた生徒の数は累計で少なくとも2万人ほどになる。これほど多くの若者の人生にダメージを与えてしまった責任は誰がとるのか。「悪(あく)」とわかったら、即刻改めるのが筋というものである。黒岩知事は公私協議のあり方に「違和感」を発言した。県教委会議でも委員から「設置者会議で定員計画を決めてしまうことには各委員共通に違和感をもっている」との発言がでた。「違和感」で終わるのではなく、責任ある立場の人間は行動で示さねばならない。このままでは生徒が救われない。
 

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