2011年5月21日
定時制で3年連続200人以上の不合格、
通信制で初めて31人もの不合格
全日制では8873名の不合格(2011年度後期入試)
今年の高校入試も終わり、公立定時制では3128名(昨年3214)の合格者を発表した。公立全日制への進学希望が8割を超えるなか、公私立高等学校設置者会議では公立全日制の募集定員を昨年と同じ60.0%に決定し強行した。まだ、私学への進学状況や県内中学校からの進学や過年度生の状況などのデータが揃っていないので、全体像はつかめていない。しかし、公立高校入試の状況から推測すると、『全国最低で過去最低の88.2%の全日制進学率』が大きく改善した見込みはない。
脱しきれない「全国最低」の全日制進学率
全日制では522人と過去最大の合格枠拡大をしたものの、設置者会議で定めた「公立6割」の足かせが、8873名もの不合格者を出している。その結果、全日制希望者のうち2000名以上の志願者が定時制・通信制になだれ込み、定時制後期試験で208名、通信制でも31名の不合格者を出すという『あふれ』の状況は続き、中学生にとって、全日制のみならず定時制・通信制も含めて神奈川の入試は相変わらず厳しいものとなっている。
公立中学校卒業者数が昨年より2228人減少したのに応じて全日制募集枠を1273人減らして40369人とした一方、定時制を3105人(22人減)、通信制を1520人(昨年と同数)と、ほとんど同規模の募集定数にしたため、『定時制・通信制への応募者が急増する』といったような『異常事態』は生じなかった。県当局からすれば「波風も立たず、無事に」済んだ、と言うのであろう。
表 2011年度神奈川県内公立高等学校入学者選抜状況(2011年4月19日 県教委資料より作成)
区分 募集定員 募集人員A 合格枠拡大 受検者数B 合格者数 平均倍率B/A 不合格者数 全
日
制前期選抜 40,369人
昨年比
2,228人減18,940 185 40,596 19,125 2.14 21,471 後期選抜 21,431 337 30,524 21,651 1.42 8,873 二次募集 17 0 116 17 6.82 99 計 40,388 522 71,236 40,793 30,443 定
時
制前期選抜 3,105人
昨年比
22人減1,530 35 2,331 1,500 1.52 831 後期選抜A 198 1 353 199 1.78 154 後期選抜B 1,445 16 1,561 1,341 1.08 208 二次募集 111 20 95 88 0.86 7 計 3,284 72 4,340 3,128 1,200 通
信
制前期選抜 1,520人
昨年と
同数
760 575 546 0.76 29 後期選抜 980 649 618 0.66 31 二次募集 367 161 139 0.44 0 計 2,107 1,385 1,303 60
しかし、毎年2000人から2500人の中学生が全日制高校をあきらめなければならず、定時制でも200人以上の不合格者を出し、通信制後期試験でも31名の不合格者を出す入試。88%そこそこの全国最低の全日制進学率。定時制・通信制は巨大規模化し、全国平均に比べても約2倍の進学率。中学3年生の10人に一人が定時制か通信制へ行くのが「あたりまえ」という現在の神奈川の状況は、果たして「正常」と言えるのだろうか。
『進学希望』はつくられる!
『全日制希望の低下、定時制希望の増加』を 県は「進路希望の多様化」というが、
1997年の92.5%をピークに、神奈川県の全日制高校進学率は10年以上も低下を続けている。その結果、毎年10月に行われる中学3年生の進路希望調査での全日制希望率も毎年低下を続けている。これはたいへん深刻なことである。
実際は「全日制をあきらめて、定時・通信を希望」という現実的選択の結果
公立高校無償化も始まり、いまや日本の社会も「全日制高校進学は当然の権利」という状況が生まれている。しかし、その中で神奈川県だけが、ここ10年間全日制進学希望率が低下し続け、全日制進学率の全国平均93.8%(2010年3月)さえ大きく下回る、91.4%(2009年10月調査の希望率)という事態となっている。
表 公立中学3年生の進学希望と卒業後の進路(県教委資料より作成)
調査区分 生徒数 全日制 定時制 通信制 定時+通信制 合計 公立 県内私立 県外 希望 09年10月
希望調査68.679 62,731 55,587 4,155 2,989 1,263 762 2,025 100.0% 91.4% 80.9% 6.0% 4.4% 1.8% 1.1% 2.9% 実績 10年3月
卒業後進路68,711 60,571 41,469 13,307 5,795 2,888 3,064 5,952 100.0% 88.2% 60.4% 19.4% 8.4% 4.2% 4.5% 8.7%
高校入試は受験生にとっては人生に一回の重大事。失敗は許されない。中学生の担任教師は「路頭に迷わない進路指導」を心がけている。そのため、前年度はどうだったかを考えて生徒にとって「最良」と思われる方向へと進路指導を行う。神奈川では2000年から始まった高校改革(県立高校の統廃合)以来、公立全日制募集枠の「絞り込み」が始まり、全日制での不合格者が急増して、希望しても全日制に入れない事態が年々拡大してきた。
そのような中で、中学2年、3年へと進んでいく進路相談の際に、定時制や通信制が現実的な選択として示されて、結果として3年生10月の進路希望調査での「定時制希望の増加、全日制希望の低下」という事態が生じていることはあきらかである。
「公立枠6割」は直ちに見直し、全日制枠の拡大を
もともと教育とは若者に、将来への希望を与えるものでなければならない。それが、逆に希望を奪う張本人となっている。
県知事、教育委員会、公私立高等学校設置者会議??この三者の責任はきわめて重大であり、かつ責任は重い。県知事の主宰する設置者会議の『合意』が一人歩きして、本来責任を持って決定すべき教育委員会での審議を形式的なものにしてしまい、生徒・保護者・県民の立場とはかけ離れたものがまかり通っている。私学助成を「節約」するため公立枠を減らして私学進学へ誘導しようという、設置者(私学経営者、知事・県財政当局・教育委員会)の身勝手なふるまいが、『全日制高校に行きたくても行けない』(他県では行けるのに神奈川では行けない)事態を招いている。
設置者会議では、2007年入試に向けての論議の中で「比率による割り振りの導入」を決め、公立枠を段階的に縮小して当初予定の完成年度2009年には60.0%にすることを合意した。途中で完成年度を2010年に変更はしたが、2007年60.6%、2008年60.6%、2009年60.3%、2010年60.0%、2011年60.0%の公立枠が実施されてきた。設置者会議では「60.0%を3年続けたあとで見直す」としている。
しかし、すでに破綻が明らかになっているのに、なぜ、さらに生徒・受験者に苦難を強い続けるのか。若者を育てるはずの教育が若者を虐げている現実は、大人として恥ずかしい。公私立高等学校設置者会議は即刻廃止して、教育委員会が責任を持って、公開の場で県民に開かれた審議を行い、生徒・保護者・県民の立場に立った生徒募集計画をつくるべきである。