2010年5月29日

学費無償化なのに、高校には入れない!

定時制後期入試でも平均倍率1.16倍、不合格者251人

−公立全日制後期入試は1.44倍、9492人もの不合格者(昼間定時2校含む)−

県知事・公私協議会・教育委員会の責任は重大!

 『公立6割』の公私合意を見直し、定時制・通信制の条件改善を!


 今年の定時制の後期試験は、271人もの不合格者を出した昨年を18人上回る生徒が殺到し、平均競争率は1.16倍(一昨年は0.83倍、昨年1.12倍)、前期入試・後期入試合わせての定時制合格者数は3,143人と過去最高となった。全日制後期入試の平均競争倍率は1.44倍。受検者数は昨年比で1811人増加し、9,492人もの生徒が不合格となって、全日制希望から定時制・通信制に変更せざるを得なかった不本意入学者はますます増加している。

 また、「定時制が不足している横浜市内から川崎市内への受検者が増加して、川崎市民が川崎市立の定時制に入れない状況が生まれている」として、川崎市教委は2011年度の入試から市立定時制に学区を設ける事を決めた。来年度以降の入試の混乱が予想される。

 そもそもこれらの問題は、県立全日制高校を高校改革で25校も削減し、公立全日制の募集定数枠を6割に制限したため、定時制・通信制にしわ寄せがきた事から生じている。
 いま定時制・通信制をとりまく現状を以下に指摘し、抜本的な改善の方向を求めたい。

 表1 2010年度公立高校入試・後期入試の結果(県教委発表)
入試
年度
全日制(昼間定時制2校を含む) 定時制
募集A 受検B B/A 不合格 増減 募集A 受検B B/A 不合格 増減
2008年度 21,581 28,776 133% 7,024 1,440 1,194 83% 154
2009年度 21,391 30,267 141% 8,610 1,586 1,499 1,675 112% 279 125
2010年度 22,322 32,078 144% 9,492 882 1,454 1,693 116% 251 ▲26


無償化のチャンスも奪われる子どもたち

 この4月から国の助成による「高校授業料実質無償化」が始まった。公立の授業料を納めなくて良い一方、私学へは学校を通じて助成が行われ、その分授業料等が減免されることになった。今回の入試で、ここ数年の私学入学者の減少傾向に歯止めがかかったのかについては、まだ統計結果が出揃う7月ごろまでは不明である。

 表2 神奈川県における高校授業料実質無償化(年額)
年収250万円程度まで 年収250~350万円程度まで 年収350万円以上
公立 授業料(全日制 118,800円)
定時制32,400円を無償に(不徴収) 
私学 237,600円 178,200円 118,800円
それぞれの金額分授業料を減額(助成)

 「無償化」では「公立」と「私学」の間の経済負担の差が縮まる一方で、定時制や通信制などは全日制に比べてその恩恵が少なく、家計負担増もあると言われている。今後の改善・充実が必要である。

 しかし、この制度の「家庭の状況にかかわらず、全ての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくるため」という理念は見守りたい。何のための「無償化」か。そもそも全日制高校を希望しても入れない事が日常化している事態を早急に改善しないと、無償化の理念も「絵空事」となる。


教室がない、机・椅子もない、教員も不足  まったなしの定時制の教育条件整備

 そもそも、定時制が全日制に併置されてきたのは、定時制の規模が、1学年1クラスや2クラスといった小規模だったので、全日制、定時制それぞれの教育活動に支障がなく運営できていたからである。今の神奈川のように、1学年4クラス140人というのは全日制の規模に等しい。それを定時・全日とも同じ校舎・教室で運営するのは無理というものである。

 教職員の不足は深刻である。非常勤、臨任、再任用など非正規採用職員が30%以上を占めるところも多い。A高校では、15年前に全校在籍者が300人を超えたがその時の教員定数は26人。現在は全校生徒が500人にもなろうとしているのに、教員定数は27人である。授業時間になると、教員が授業に出払い、職員室は空っぽ。何か事が起きても、教頭ぐらいしか対応できないという状態。外国籍、不登校、軽度の障害を持った生徒なども多く、きめの細かい指導は年を追って必要性を増している。
 

定時制の適正規模と適正配置の検討を

 2010年3月、川崎市教委は、2011年度の入試から川崎市立高校定時制に学区を設けることを決めた。横浜など、川崎市外からの入学者は8%に制限されることになる。

 「全日制希望者が定時制へなだれ込む異常事態」の発生以来、川崎市外の入学者が増え、横浜市民の在籍者が平均で25%、多いところは40%にもなっているという。川崎市議会でもとりあげられ、「横浜市立高校定時制の統廃合で定時制が不足している横浜北部などから川崎市への入学者が増えて川崎市民がはじかれている」と問題となっていた。しかし、こうした県教委や各市教委の利害対立の中での一番の被害者は生徒たちである。

 4月20日、「かわさき定時制教育を守る市民の会」が県教委に提出していた「川崎市の定時制への学区導入に関連して、県教委が横浜や川崎に働きかけて、学校配置など定時制の問題を話し合う場を正式に作るよう求めた請願」が審議された。審議では、「県教委と横浜・川崎・横須賀の各市教委との間での協議は必要」「定時制の適正配置などの検討が必要」との意見が出され、請願は「趣旨採択」となった。

 県知事、公私協議会、設置者会議、県教委、各市教委等、責任ある立場の人々がどう発言し、行動するのか注目していきたい。

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