2009年5月11日

平均倍率1.12倍、不合格者276人は過去最大(定時制後期入試)
   −公立全日制後期入試は1.41倍、8610人もの不合格者(昼間定時2校含む)−

懸念される中学浪人の急増・・・・県知事・教育委員長の責任は重大

       『公立6割』の公私合意を見直し、公立全日制の募集枠拡大を!



 今年の定時制の後期試験では昨年を481人も上回る生徒が殺到し、平均競争率は1.12倍(昨年は0.83倍)、前期入試・後期入試合わせての定時制合格者数は2907人と過去最高の数値となった。

 全日制後期入試の平均競争倍率は1.41倍。昨年の1.33倍を大きく超え、受験者数は昨年比で1491人も増加し、8610人もの生徒が不合格となった。日程の最後に行われた通信制入試では前期・後期合わせて1309人(昨年は1415人)が合格(受検者全員合格)し、昨年の異常事態に比べてやや落ち着きを見せたかに見える。           

表1  定時制入学者の増加

年度 1997年 1999年 2006年 2007年 2008年 2009年
合格者数 ・・・・・・ ・・・・・・ 2764 2881 2612 2907
進学者数 1443 1953 2724 2830 2559

 しかし、全日制希望から定時制・通信制に変更せざるを得なかった不本意入学者はますます増加している。そればかりでなく、中学浪人の増加も懸念される。県は本腰を入れて公立全日制募集枠の拡大に取り組むべきである。


   多くの不合格者を出した後期全日制入試、定時制入試
           大規模・過密化、  定時制の学習環境の悪化も深刻


 3月27日、県立通信制後期入試の合格発表をもって今年度の公立高校入試の全日程が終了し、4月から新学期が始まった。しかし、定時制、通信制では『不本意入学』の割り切れない思いを抱えた新入生が増加し、大規模化・過密化は一層進行している。

 2月の19日と20日にかけて行われた全日制後期入試の平均競争倍率は1.41倍。受験者数は昨年比で1491人も増加し、8610人もの生徒が不合格となった。その結果、3月11日に行われた定時制の後期試験には昨年を481人上回る1675人もの生徒が殺到し、平均競争率は1.12倍(昨年は0.83倍)、前期入試・後期入試合わせての定時制合格者数は2907人と過去最高の数値となった。
 

表2 2009年度公立高校後期入試の結果(県教委発表)

入試
年度
全日制
(昼間定時2校含む)
定時制
募集A 受検B B/A 不合格者 増減 募集A 受検B B/A 不合格者 増減
08 21,581 28,776 133% 7,024 1,440 1,194 83% 154
09 21,391 30,267 141% 8,610 1,586 1,499 1,675 112% 276 122

 2002年以来2007年度まで5度にわたって行われた入試途中における定員拡大や合格枠拡大の結果、神奈川の定時制進学者はいまや10年前の2倍。新入生も毎年増加してきたため、2年生以上の学年の生徒数・クラス数も学年進行で増加している。教員一人あたりの生徒数も全日制を上回り、教室をはじめとする施設の不足や10年来変わらないわずかな予算配当など、定時制の学習環境はますます悪化の一途である。


    ますます熾烈で過酷になってきた入試   気になる不合格者のその後

 今年の神奈川の高校入試はますます過酷なものとなってきている。全日制後期入試では不合格者が8610人と昨年にくらべて1586人も増加している。3月の定時制入試での受検者は昨年比で481人増。昨年の1194人から今年1675人へと1.4倍に急増した。

 全日制不合格者の増加分の約3分の1近くが定時制を受験したことになる。その結果、定時制では昨年0.83倍だった平均倍率が1.12倍と跳ね上がり、不合格者は過去最高の276人にもなっている。


    いまどき、『中学浪人』は許されない

 今まで定時制は前期入試でこそ、倍率が1.4から1.6倍となってはいたが、前期不合格者に対しては「後期試験を受ければ入れるのでぜひ受験してください」とアドバイスして、後期試験では、ほぼ募集定数ギリギリのところで合格できる状況があった。しかし、いまや定時制後期の平均倍率も1.12倍。2倍や1.5倍のところも少なくない。 

表3 定時制後期入試 倍率

定時制 厚木清南 総合産業 川 崎 希望が丘 湘 南 全県平均
倍率 2.12 1.64 1.63 1.51 1.32 1.12

 今年の入試では、前期入試、全日制後期入試、定時制後期入試と、各入試段階で昨年より多くの不合格者を出した。中学側からは、経済困難を抱えたまま私学に進学した生徒や全日制不合格の後、定時制や通信制なども受験せず、来年に期待して中学浪人をする生徒が増えているとの情報も寄せられており、その動向も心配である。


  『公立希望8割なのに公立枠は6割』
  全日制進学率低下と定時制・通信制の急増その背景には
     未曾有の経済困難をも考慮しない   県の公立高校抑制策=『教育改革』


 昨年9月から始まった世界同時不況はますます進行し、生徒・子どもの生活にも大きな影響が出始めている。10月の中学3年に対する希望調査(表4)でも前年比で、公立全日制が1.3%(1608人)増加する一方、私立は0.7%(395人)減少し、私学の高い授業料の家計負担への影響が見られる。 

表4 公立中学卒業者の進路希望調査(中学3年10月に実施)

入試
年度
卒業予定者 公立全日制 私立全日制 定時+通信
実数 増減 増減 増減 増減
07 64,918 1,252 80.1 870 7.2 16 2.6 125
08 64,448 -470 79.9 -504 7.1 -135 2.9 202
09 65,375 927 81.2 1,608 6.4 -395 2.9 -11

 しかし、県知事・県教委は昨年9月の設置者会議・公私協議会の『合意』にもとづき、2008年に60.6%だった公立枠を2009年入試では60.3%に削減した。さらに納得できないのは、その『合意』では『2010年度以降は60.0%に固定し、2009年度はこれについての議論を行わず、当面2年間は見直しをおこなわない』とまで決めていることである。


   公私協議会・設置者会議での議論は 教育者としての見識を欠いている
      解決策は公立募集枠の拡大と私学入学者への個人助成の大幅拡充
  

表5 神奈川県の高校進学率(公立中学卒)

年度 全日制進学率 定時制+通信制進学率 特別支援学校
1997 92.5% 2.5% 0.6%
2000 91.8% 4.5% 0.6%
2008 89.2% 7.2% 1.1%

 「高校入試は全入ではないですよね」という発言が公私協議会の中でくり返されている。しかし高校教育が一部の特権階級のものという時代は遠い昔の話。民主主義社会を支える市民としての必要最小限の教養とされているのが現代である。「本人が望めば誰でも入学機会が与えられ、授業料も無償。」というのが世界の流れでもある。

 「公立枠を縮めれば私学が増える」という力ずくのやりかたが、多くの受験生を路頭に迷わせ、大量の不本意入学や中学浪人さえ生み出してきていることを真剣に反省すべきである。今の不景気の中で、親の経済力にかかわりなく、高校進学の機会を平等に提供することは、県民に責任を負う県知事、高校設置者である県・市教委、公教育に責任を負う私学経営者の義務であろう。

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