2009年2月22日


 緊急事態:公立全日制後期入試で9810人もの不合格者が?
        −このままでは一昨年の「混乱」を大きく上回る異常事態も−


県は公立全日制の募集枠を増やし、「特別募集」を実施せよ!



 2月13日、公立高校全日制後期入試(定時制2校を含む)の志願状況が発表された。平均競争倍率は1.45倍。昨年の1.38倍を大きく超え、志願者数は昨年比で1867人も増加し、9810人(志願変更前の数字)もの生徒が不合格となる見込みである。このままでは3月に行われる定時制・通信制の後期試験に一昨年を上回る多くの生徒が殺到し、大混乱も予想される。現在の定時制・通信制には、これ以上の受け入れ能力はない。

 県は受験者の「教育を受ける権利」の保障を第一に、定時制後期募集の始まる3月3日以前に、緊急措置として1500人程度の公立全日制の臨時募集定数増を行い、「特別募集」を実施すべきである。


事態の変化は予測を超えている!  2007年の「大混乱」を超える後期入試

 今年の全日制後期試験での不合格者は、9810人も見込まれている。これは、全日制から「あふれた」生徒が定時制・通信制に殺到した一昨年(2007年度)の入試の不合格者8392人(表1:B-A)、それを1418人も上回り、ここ数年でも例を見ない。

 昨年9月のアメリカでのリーマンブラザーズの倒産以来、世界同時不況が進行している。日本においても11月以降、「派遣切り」や「非正規社員・正社員の大幅削減」などが急速に進行し、生徒・子どもの生活にも大きな影響が出始めている。在校生の授業料納入の遅延・滞納も深刻化している。

 10月の中学3年に対する希望調査(表1)でも前年比で、公立全日制が1.3%(1608人)増加し、私立全日制は0.7%(395人)減少している。その後の事態の進行を考えると、この傾向はさらに進行していると思われる。このままでは3月の定時制・通信制入試の受験者が、昨年より1500人以上も上回る恐れもある。

 これらの受験者に対して、十分な就学保障をするのは県の当然の責務である。


きわめて異常な神奈川の入試  「定時制+通信制」7.2%は、全国平均の2倍!
  全日制進学率89.2%は全国最低水準

 「定時制+通信制」の希望者数を見ると、ここのところ、年に0.2%〜0.3%増加している。これをもって、公私協議会などでは「定時制・通信制希望者が増えている」との議論がされているが、これはまったく現状認識を欠いている。

 2002年以来、公立全日制から「あふれた」生徒が急増し、行き場を求めて定期制・通信制へ殺到している。この状態がここ数年くり返されていることで、7月から9月にかけて行われる中学3年になった生徒に対する進路指導にそれが反映され、10月時点での希望者も次第に増えているのである。もともと全日制希望であった受験生のうちのかなりの人数が入試の過程で受験先を変更せざるを得なくなっている。いわば、県の政策によって強いられた『希望』である。


もう、不条理の繰り返しはやめよ!

 さらに、前期・後期入試という複雑な今の入試の仕組みでは、受験者本人に事態の深刻さがわかるのは前期入試が終わり、後期試験になってからである。まさに今、受験生・保護者は悩んでいる。これまでの希望はともかく、授業料が払えて入れる高校があれば藁にもすがる思いで、それまで考えもしなかった定時制や通信制に志願せざるを得ない。

 これが2002年以来、毎年のように続いてきている。この状態はきわめて異常であって、しかも重大な人権侵害であるということをあらためて声高に訴えたい。神奈川県で受験するというだけで、なぜこのような不条理な仕打ちに耐えなければいけないのかと。

 

これ以上、定時制・通信制で受入枠を増やすことは不可能

 定時制では2002年の入試で、合格発表の前日に県教委から緊急要請があり、合格者の枠を拡大して受験者全員を極力合格させるという「緊急措置」がとられた。このように入学試験期間が始まってから合格者の枠が拡大されるという「異常事態」は、後期入試の途中からクラス増を含めて計433人もの臨時募集定数増・合格枠の拡大がおこなわれた2007年までの間に2004年、2005年、2006年と計5回もくり返された。

 その結果、2001年に1975人だった県内定時制進学者は、2007年には2830人にまで増加し、定時制在籍者総数はいまや8000人にも達する勢いである。全校生徒が450人を超え、16クラスや17クラスの全国に例を見ない、超大規模夜間定時制が3校も出現している。1クラス30人を越えるクラス編成をせざるを得ないケースや、急激な生徒増で教員配置が間に合わず、常勤教員の不足で1年任期の臨時任用の教員がクラス担任を持たなければならないケースも急増している。

 また、県立の夜間定時制すべてが全日制との併置校であるため、施設の利用にも限界が来ている。全日制の教育活動・生徒との競合・トラブルも頻発している。生徒の学習環境も年々悪化の一途、夜間ゆえの安全確保も心配である。

 通信制も「満杯」である。2008年春開校した修悠館高校は「平日登校講座」の人気もあって、全日制志向の受験生が殺到し、大混乱となっている。定時制と通信制を足し合わせた進学率が全国平均の2倍にまでなっている異常な事態を県当局・公私の学校関係者は重く受け止めるべきである。


生徒の希望は全日制。全日制枠の拡大を

 2007年から県教委が実施している「公立高等学校定時制課程志願動向調査」および「入学理由調査」を見ても、定時制後期試験受験者の「全日制希望率」は82.7%(2008年)にもなっている。前期・後期試験を含めた定時制入学者全体でも定時制希望率は46.3%までしかない。現在の定時制入学者の半数以上が、入試に翻弄されて、生活スタイルの全く違う定時制への通学を余儀なくされている。これが、2002年ごろから毎年くり返され、年々ひどい状況になっている。

 公立高校入試は現在進行中である。進行中に募集定数などの入試の枠組みを変えてしまうのは「ルール違反」であり、通常なら認められるものではない。しかし、これは受験生の未来の人生を左右する事柄である。だから、定時制入試では「最後の砦」として2002年以来、5回もの県による「異常措置」に甘んじてきた。でも事態は年々進行し、もはや定時制・通信制のみで矛盾を吸収できる余地は全くない。

 受験生の希望は全日制である。受験者の教育を受ける権利を守るためにも、公立全日制の生徒募集定数を全県で1500人程度緊急に拡大し、定時制の後期入試受付が始まる3月3日より前に「特別募集」を行うことが必要である。入試途中でのこのような措置は異例のことであろう。しかし、そもそもいまの一連の困難を招いたのは、募集計画、高校統廃合などの県の政策にある。


設置者会議・公私協議会合意の『公立6割・私学他4割』は非現実的

 来年4月、県は、2009年3月に閉校するひばりが丘高校の跡地に「座間方面多部制定時制高校(午前部・午後部の昼間定時制)」を開校しようとしている。「表2」の中学3年生の進路希望調査にもあるように、8割以上の生徒が公立全日制を希望している。そんな中で、全日制高校を廃止して、昼間定時制をつくろうというのである。

 今、どうしてこんなことが起こるのか。ここに設置者会議・公私協議会合意のからくりがある。県知事の主宰する設置者会議・公私協議会は公立・私立の学校設置者が生徒募集計画について協議する場として2006年3月に設置された。今年度の協議の中で、2008年9月に「2009年4月の公立全日制高校募集枠は公立中学卒業者の60.3%とする。2010年4月にはそれを60.0%にする。」と取り決めた。もともと現実にはそぐわない、私学経営者の都合、県当局の教育リストラ(財政改革)を優先した決定であったが、その後の国内外の情勢は大きく変化している。「100年に一度」ともいう未曾有の経済危機が人々の生活を直撃している。いまや、非人道的な人権侵害ともいえるこの「合意」は即刻廃棄しなければならない。


『教育を受ける権利の保障』の原点に戻り『未曾有の事態』に即した募集計画を

 最後に私たち大人が心せねばならない事がある。それは、受験生にとって、高校受験は人生で初めての大きな試練だということである。県知事をはじめ県教委や公私の学校関係者にとっては毎年の出来事であるが、受験生本人にとっては人生にたった一度の重大事件である。「未曾有の事態」から子どもを守るのは時の大人の責務であろう。

以上

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