2009年12月30日
生徒・保護者の不安をよそに、公立全日制募集枠の削減“60.3%→60.0%”を強行
—定時制は過去最大!現状無視の2010年度生徒募集計画—
このままでは定時制も全日制も09入試を上回る大量の不合格者は必至
10月29日、2010年度募集計画が記者発表された。県内公立中学卒業者68670人に対し、公立全日制の募集枠は42440人。中学卒業者が前年比3248人も増加する中で、2009年度は60.3%だった『公立枠』が60.0%にまで縮小され、『公立60.0%、私学その他40.0%の公私比率』という公私立高等学校設置者会議・公私協議会の『合意』を追認し強行した。定時制は昼間定時制「相模向陽館高校」の開校もあり、昨年比247人増、過去最高の3147人募集となる。
小泉改革、リーマンショック以来の雇用環境の深刻化が続き、子どもを巡る経済環境は日増しに悪化している。10月に行われた「公立中学校卒業予定者の進路希望調査」(下表)によれば、定時制の希望率は昨年の1.4%から今年は1.8%にまで増加しているという。この時期、定時制の各学校で行われている学校説明会にも昨年の1.5倍から2倍もの参加者が押し寄せている。表 公立中学校卒業予定者の進路希望調査(県教委資料)
調査年月日 生徒数 全日制 公立全日制 私立全日制 県外私学等 定時制 通信制 進路未決定 2009年10月 68,679 91.2% 80.9% 6.0% 4.2% 1.8% 1.1% 3.0% 2000年10月 71,728 94.0% 82.9% 7.5% 3.7% 0.5% 0.8% 2.4% いま全国的に見れば、希望する高校(全日制)への進学がほぼ達成される中で、「子ども手当」「高校無償化」など教育費負担軽減政策が世間の注目を集めている。「全日制進学率が全国最低の88.7%、定時制+通信制進学率7.8%は全国の約2倍」という神奈川のきわめて異常な現状の改善は急務の課題。私学進学者への学費助成の大幅増額や公立全日制募集枠の臨時拡大などの緊急対策が必要である。
実態を見ない「公立枠6割」の強行
9月11日に行われた公私立高等学校設置者会議で「2010年公立全日制生徒募集計画」の原案が決められた。今年の公立募集枠60.3%を、60.0%にする(公立中学卒業者比で)というきわめて乱暴な決定である。
松沢知事も参加した会議の中では「6:4完成、いい制度ができた。」(松沢知事)や「進学実績向上、これからが正念場」(県教育長)など現実の深刻さがまったく眼中にない発言が相次ぎ、矢内委員(国大教授)から「低い進学率の向上に知恵を絞る必要」「子どもたちの希望にどれくらいあっているのか」等の発言があっても、それについての意見交換もしないというありさま。定時制入学者の約7割が全日制希望という不本意入学の実態(県教委の調査)や全校生徒500人近くにもなり、常勤教員の不足、予算不足で悩んでいる定時制高校の過密で劣悪な教育環境の実態を議論することもなく、当事者抜きの「公私談合の場」といわれても仕方のないやりかたで、受験生の人生を左右する重大決定がされている。
相模向陽館開校、今なぜ昼間定時制
来年度から座間市内の、2009年3月に閉校したひばりが丘高校の跡地に「相模向陽館高校」が開校する。神奈川県立初の昼間定時制制単独高(4年制)で、午前部4クラス140人、午後部4クラス140人の計280人を募集する。この280人は公立中学卒業者の約0.4%に相当する。県は、この開校によって、公立全日制の募集枠を09年度の60.3%から60.0%に縮小しても「昼間通学できる学校への進学率(昼間進学率)」は変わらないとしている。『6:4の公私合意』を守るために、受験生の希望の強い全日制を閉校して昼間定時制を開校するというのは本末転倒である。
公立は「希望8割」なのに「入学枠6割」
定時制の不本意入学の拡大と教育環境の悪化に終止符を!
12月1日の神奈川新聞では、「全日制、40年ぶり低水準 私立校も最少」「定時制を希望する生徒が急増」と、県教委発表が報道されている。
「定時制人気が高まっている」との県当局者の発言や新聞報道が、このところたびたび行われているが、そもそも定時制は全日制と全く性格が異なり、同列において選択すべきものではない。しかし、中学や塾で定時制を薦められ、やむなく全日制受験から定時制受験へ変更している。「公立枠を減らせば、私学進学者への助成を増やさなくても私学が増える」という乱暴な政策の下で、生徒・保護者が苦しんでいる。
2000年度から始まった高校改革(全日制25校の削減を含む)の前と現在とを比較すると、全日制進学率は、99年の92.0%から2009年には88.7%にまで落ち込み、そのかわりに、定時制と通信制を足し合わせた進学率は、3.8%から7.8%へと倍増している。
しかも深刻なことは地域格差が進行していることである。旧横浜西部学区の「旭区・瀬谷区・泉区」では全日制進学率が84.5%にまで落ち込み、「定時制+通信制」は11.4%(9人に一人)にまでなっている。全日制に入れないという状況が年々くり返され深刻化する中で、それに対して順応せざるを得ない状況が生まれている。
定時制の教育条件の悪化は甚だしい。10年前の約2倍の生徒を受け入れ、一方で教職員の人数はほとんど変わっていないため、教員一人あたりの生徒数が、全日制を上回る学校も多い。「全国一異常な神奈川」をどのように改善し、生徒・保護者の権利を保障するのか。緊急に、しかも根本的な対応が求められている。