2002年2月15日

 2001年9月17日に、「横浜市立定時制高校の灯を消さない会」(代表 高坂賢一)が、横浜弁護士会人権擁護委員会に提出した「横浜市立定時制高校統廃合に関わる人権救済申し立て書」を資料として掲載します。

横浜市立定時制高校統廃合に関わる人権救済申し立て書

 横浜弁護士会 人権擁護委員会 御中

 申し立て人当事者の表示  別紙当事者目録記載の通り

一、申し立ての趣旨

 1、横浜市教育委員会が計画した市立高等学校再編整備計画の内、定時制高校の統廃合は定時制生徒および定時制に入学を希望する人々の学習権の侵害にあたるので、

 2、2002年度から2005年度にわたって募集停止とされる5校(港高校・横浜商業高校・横浜工業高校・鶴見工業高校・戸塚高校)について、横浜市は速やかに募集再開の措置を講ずるべきである。

 3、今後、横浜市は学習権の侵害にあたる定時制の統廃合を行わず、修学保障の条件整備に努めるべきである。

 私たちは以上の3点について、横浜市長に対し、横浜市立定時制高校の統廃合に関する是正勧告がなされるよう、申し立てた次第である。

二、申し立ての理由

 1、本件統廃合計画の経過と現状

@1998年(平成10年)

 横浜市教育委員会はこの年1222日、横浜市立高等学校再編整備計画(案)を新聞紙上に発表し、同時に「リーフレット」を発行した。それによれば、定時制5校(港高校・戸塚高校・横浜商業高校・横浜工業高校・鶴見工業高校)を廃校とし、横浜工業高校の場所に昼間定時制を設置し、港商業高校は全日制総合学科高校に改編すると計画されていた。

A1999年(平成11年)

 1月16日、教育委員会の学校現場の意見を聞かずに「統廃合」を強行しようとする姿勢に危惧を抱いた職員・職員OB・保護者・生徒・同窓会会員など22名が参加して「定時制教育を考える・港の会」の設立準備会が持たれその発足が決まった。

 2月6日、市主催で「市民フォーラム」が開講記念会館で開催された。続いて2月20日、港高校職員の主催、教育委員会の出席で港高校において再度「フォーラム」が開催された。しかし、いずれも教育委員会側の曖昧で現状無視同然の説明には怒号さえ飛び、出席者のほとんどが計画に反対の意思表示をするというものであった。また「港の会」発足と同時に始められた署名運動は目標40000筆をはるかに超えた。

 教育委員会が再編整備を唱える理由のひとつに少子化問題があるが、1999年5月1日現在の概要によれば市立定時制高校5校の在学生徒数は1504名であり、その3分の1の504名は港高校の生徒であり、ちなみに現在2001年3月の応募者数も定員以上であり、この10年間港高校では定員割れはない。これは少子化以外のもんだいがあり、それが定時制に多くの生徒が入学してくる大きな原因となっているということには教育委員会は一切触れようとしないこの一年間であった。

2000年(平成12年)

 教職員組合の意見書また再編案、署名運動の結果、新聞紙上における投書・意見書さまざまな反対抗議などをことごとく考慮外あるいは無視してきた太田教育長(現教育長と同姓異人)は2月9日《前日夜、組合(浜高教)執行部と対峙》新聞紙上に市立高校再編整備計画の最終案を発表した。ここでは定時制5校並びに港商業高校を段階的に募集停止し、港高校・港商業高校の場所に全日制総合学科高校、横浜工業高校の場所に定時制3部制総合学科高校をそれぞれ開校し、上記6校を2校に統廃合することになっている。

 これはまた、新たな問題を提起した。横浜工業高校の3部制への移行である。その校舎規模、設備、例えば女子トイレの問題、車椅子通学者の問題、そして午前に70名、午後に140名、夜間に70名、計280名を初年度募集するという問題。3年後には840名になるのが現状。全市立校の中で唯一プールが無いという校舎でこれだけの人数がのびのびと勉学ができるのか、どこをどう改善改築するのか、相当な老朽校舎でどう生徒たちの安全が確保できるのか。総合学科高校にも問題は山積している。心理学・福祉保育などなど、今までの高校にはなかった学科が増設され、それぞれが専門的な学科となっている。だが現在の状況では、それらを教えるべき「教師」が不在と聞く。計画そのものが行き当たりばったりという言葉が当てはまるというのが現状であると解釈せざる得ない。

2001年(平成13年)

 前年、港の会は解散したが、身をもって子どもとともに苦闘して港高校に入学してきた保護者の有志が、2000筆余の署名を教育委員会に提出した。しかし、一片の在り来たりの返書しか反応はなかった。市民運動としての集合も計画し発足したが、市民運動に対する解釈が様々という現実に当面し、実を結ばなかったこともあった。だが運動の続行の必要を強く抱く定時制OBが集まり「定時制の灯を消さない会」を5月21日に結成。ひろく弁護士・教諭OB・教諭・保護者・同窓生などに呼びかけ、賛同署名をお願いし4000筆余を集め現在も続いている。

 6月9日、教職員組合主催による緊急シンポジウム「ストップ!!募集停止」が市従会館で開催された。ここでも計画賛成は皆無であった。この会を取材した神奈川新聞は7月5日の「社説」で横浜市の高校再編問題を取り上げ、「何故定時制廃止急ぐのか」「3部制高校は受け皿にはなりそうにない」と主張した。

Dまとめ

 今,最も問題とされるは現実に市立定時制五校に学んでいる1年生から4年生の総数150名の子どもたちは、2002年以降はどこへ行けばいいのかということである。県立もあると言うのは真っ赤な嘘で県立も満杯なのだ。教育委員会は定時制に来る子どもが減るものと頭から決めている節があるが、そんな計算は成立しない。現実を見れば答えは明らかである。

 もう一つは、募集停止となったら在校生は落第できないということである。それは即、退学を意味するものである。仕事のため、あるいは病のため望むところに反して登校日数・授業日数が不足したとき、今までは5年6年かけても卒業できたが、それも不可能となる。それを盾にしたオドシまがいの事態さえあるやと聞く。留年する学校がなくなるのだから。

 山ほどある問題点・疑問点に何一つ解決せず、ただひたすら決めたことだからと猪突猛進している教育委員会は、教育をなんだと思っているのだろう。

 社会が大きく変化して能力・適性・関心などが「多様化」していると教育委員会は計画の背景として明記しているが、「多様化」の中にどうして定時制が入らないのか理解できないと言わざるを得ない。

 

2.本件統廃合の問題点

   学習権侵害、適性手続きに関わる一般的・法的問題

@「教育を受ける権利」等に違反

 市立定時制統廃合は、後述する個々の事例に則してみれば、第一に「日本国憲法」第26条(教育を受ける権利)及び「教育基本法」第3条(教育の機会均等)に反し、同第10条(教育行政)の定める教育条件整備義務に違反する。さらに、「定時制通信制教育振興法」第3条が定める地方公共団体の努力義務にも違反する。また、1994年日本が批准・発行した「子どもの権利条約」第28条による中等教育の機会均等の努力義務にも違反するものである。

A「定時制だからこそ」の教育を否定

 現在、定時制高校には多様な生徒が学んでいる。家庭的・経済的な事情により昼間就労する、いわゆる勤労青少年だけではなく、今まで修学の機会がなかった高齢者や外国人、帰国者や帰化した人、中学まで不登校であった子、いじめを受けてきた生徒や全日制を退学した、あるいはさせられた生徒、心身にハンディを負った生徒たちと全日制では見られない生徒が多く在籍している。

 たとえ少人数でも静かな学習、家庭的な雰囲気、教職員の親身な接し方を求めて自ら選んで入学してくるものも多くいる。そこは様々な経験を持った高齢者を頭とする幅広い年齢層の生徒たちによって、日々の学習・部活動・生徒会活動・体育・文化祭などが取り組まれ、協力し活動することを通じて個性が発揮されて、人間形成が行われている。

 今回の統廃合に対して横浜商業高校定時制生徒会は3年連続して抗議し、反対の決議をしているということはその個性発揮・活動のまとまりの現れであろう。市立定時制高校の活動として体育系・文化系を問わず各種の競技発表の大会においての優秀賞などは数えきれぬほどである。

Bこのままいくと修学できなくなる人たちが

 先年、東京都においても定時制高校の統廃合問題が生じ、やはりその強引さが指摘された。東京都の場合は幾つかはその存続が認められたと聞いているが、横浜市の場合は事実上全廃である。教育委員会はそうではない、横浜工業に3部制として夜間70名が残されると主張するが、そもそもこれがおかしいのである。500名を超す応募者がいるという事実を全く無視している。残りの430名余はどこへ行くのか。1年間は鶴見工業高校、数年間は戸塚高校が残るのは単に気休めではないのか。そうと考えるのが極く自然なことで、たとえ70名が夜間に行けることになっているとしても、それは解決にはほど遠いものとしか見えない。

 しかも、計画策定の背景として高校進学率が97%となったとしている。これは中卒者が減りつつあっても高校進学をするものは減らないとするのが正解で、単に中卒者の人数で割り切れるものではないはずだが。このままいけば、高齢者・不登校などなど前述した生徒が集まる定時制切り捨ては正しく、「弱いものいじめ」であると明言できる。

 加えて、横浜市においては小学校就学の児童が増えているという事実をどうとらえればいいのであろうか。どこからどう考えても疑問だらけで不安よりもっと厳しい恐怖のごときものを感じる。

 そしてなぜこんなに急ぐのかという疑問が何度でも持ち上がってくる。受け皿がない。様々な法律に定められているはずの「教育の機会均等」は、どこの国の絵空事か。

C「適性手続き」の面でも問題

 今回の統廃合による募集停止とされた定時制5校では、教職員・保護者・生徒・卒業生などによる同意もなく、むしろ明確に反対を表明し、署名や請願が行われたが、ことごとく素通りの状態である。これは「子どもの権利条約」に照らしても、生徒や就学希望者の意見の聞き取り機会も保障されておらず、この点でも同条約第12条《意見表明権》の趣旨に明確に違反している。

 また、市側は財産困難を引き合いに出してきて定時制の維持が高価であると言ってきていると聞くが、これもまた不思議なことと言わざるを得ない。年間50日使用するかしないかというサッカー場には600億円、国際会議場なるものには170億円の費用をかけて建設し、その維持費がサッカー場の場合だけでも年間9億円かかるという。国際会議場はさらなる維持費と容易に想像できる。このような行政の失政のツケを教育に回してくることは言語道断そのものである。教育を行政経済のみで判断するのは為政者としても失格であろう。

Dまとめ

 以上この度の定時制統廃合はその内容、手続きにおいて重大な問題をもち、それによる学習権の侵害は速やかに募集停止の措置によって是正されるべきである。

 今後とも学習権の侵害にあたる定時制の統廃合を行わず、数多く存在する未就学者のための条件整備にあたるべきである。よって、横浜市長に対し、申立の趣旨記載のとおりの勧告をされるよう、申立に至った次第である。学習権の具体的事例は別紙の通りである。

 具体的事例については、今後掲載予定


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