2004年8月18日

「県立高校改革推進計画 後期実施計画(骨子案)」に対する意見書
  

県立高校を削減するのではなく 、
   希望者すべてにゆきとどいた高校教育の保障を!

かながわ定時制教育を考える会 代表 中陣 唯夫


 「県立高校改革推進計画 後期実施計画(骨子案)」に対し、私は「かながわ定時制教育を考える会」を代表して、意見を述べたいと思います。

高校へいけない子が今以上に増えるので、県立高校を削減してはいけません

 「県立高校改革推進計画」の「前期計画」は2000年度を初年度として2004年度までの5年間に県立高校を14校削減し、単位制による高校を12校(単位制による普通科高校3校、フレキシブルスクール3校、総合学科高校6校)つくり、県教委や校長による学校管理を強化することを主たる内容とするものでした。少子化により中卒者が減少することを理由に県立高校を統廃合し、しかも中卒者の減少分をすべて県立高校の削減で対応しようというのが、「計画」の核心といえます。「計画」は1クラスの定員を40名としたうえで、1学年6〜8クラスを適正規模として、このクラス数を下回らないようにするために県立高校を削減するとしています。

 ところが、県立高校の入学者数を算定する段階で、すでにこの間、問題となっている約2,000名の私学の空枠(入学定員と実際の入学者の乖離)を全く考慮せず、私学枠がすべて埋まることを前提としています。そのうえで、県立高校の入学者が減少していき6クラス以下の学校が生ずるので、県立高校を削減するというわけです。

 この「前期計画」が推進された結果、どういうことが起きたのでしょうか。私学助成が削られ、深刻な不況が長期化する中で公立志向が強まったこともあり、高校へ進学できない多くの子どもたちが生み出されました。特に、一昨年と今年は高校入試で大量の不合格者が出るという混乱が起きました。

 このため、「よこはま定時制父母の会」をはじめ、県内の教育・市民団体が「改革推進計画」の見直しや凍結を求めました。しかし、今回発表された「後期計画」では、こうした事態を招いたことに対する反省もなく、また見直しを求める県民の声も考慮せず、今後5年間でさらに11校も県立高校を削減するとしています。

 一方、中卒者の減少は2006年度がボトムで、それ以降は増加します。県教委自身、2012年を過ぎると中卒者数は約70,000名で推移することになると、当初の予想を約5,000名上積みせざる得なくなりました。

 このように公立志向が強く、2006年度以降中卒者が増加するもとで、「後期計画(骨子案)」によって県立高校が11校も削減されると、高校へ行けない子どもたちが大量に生まれ、3度目、4度目の入試の混乱が起こることが懸念されます。したがって、私たちはこれ以上県立高校を削減すべきでないと考えます。

通信制の課程を集約するのではなく、県内に散在させるべきです

 「後期計画(骨子案)」は、「通信教育においても毎日登校し、綿密な学習指導を受けたいという希望・・・・・に応えることができるよう、再編整備による跡地を活用し、通信制の課程を集約することにより、・・・・・通信制の独立校を設置します。」と記しています。通信制の独立校を新設するので、現在県内に3校ある県立の通信制課程を統廃合するというわけです。 

 しかし、通信制の課程といっても、年に何回かスクーリングといって学校に登校して指導を受けることが必要です。したがって、登校に何時間もかかる場所にしか通信制高校がないというのでは、通うことが困難になり、生徒の学習権を保障できないことになります。
 また、近年通信制の入学希望者が増加し続けており、新1年生についても必ずしも希望者が全員入学できるわけではなく、2、3年への転編入は極めて狭き門となっています。

 こうした状況下で、通信制の独立校をつくるからといって、これまでの通信制の課程を廃課程にしてよいわけがありません。既存の通信制課程はそのまま残し、県内に通信制高校を散在させるべきであると考えます。

 また、通信制という性格からして毎日登校することが本当に必要なのかどうか、また全日制をなくしてまで通信制の独立校が本当に求められているのかどうか、さらに多くの県民の意見を聞いて検討を続けることが必要であると思います。

定時制を統廃合するのではなく、横浜市立定時制の再開を

 「後期実施計画(主な取組)」には、「定時制・通信制のニーズを踏まえた配置の適正化」が記されています。この間、不登校の問題が深刻化するなかで、初めから定時制を希望する子どもたちが少しずつ増えてきています。また、公立全日制の入学定員が極めて少なく抑えられているため、結果的に定時制への志願者も増加し、今年度は3次募集をせざる得ない事態となりました。特に、横浜市内は市立定時制高校の募集停止のため、定時制に入学できない多くの子どもたちを生み出しました。

 したがって、適正配置を言うのならばまず、横浜市内で市立の定時制を再開させるよう横浜市教委に働きかけることが必要です。また、川崎市立定時制についても、その他の地区においても、安易に定時制を統廃合すべきではありません

「前期計画」の総括をしっかり行い、すべての学校でゆきとどいた教育を

 「前期計画」では「単位制による高校」が12校つくられましたが、「後期計画(骨子案)」においても、9校(単位制による普通科高校4校と総合学科高校5校)新設するとされています。「骨子案」は、新タイプ校の新入生やその保護者へのアンケート結果から大半が満足していること、また7割を超える単位制高校の新入生が「幅広い選択科目が選べる」ことを志望理由としているので、単位制による高校をさらに新設していくとしています。

 しかし、アンケートは新入生だけでなく3年間を終えた卒業生やその保護者、そして教職員、県民などに幅広く行うべきです。また、すでに全国的に明らかになってきている単位制による高校の問題点(ホームルーム活動が十分できないなど)が検証されなくてはなりません。また、「前期計画」でつくられた単位制による高校が、既存の神奈川総合高校(単位制による普通科高校)や大師高校(総合学科高校)のようには予算と人員をかけられず、苦しいやりくりを求められていることなどをしっかりと総括すべきです。

 さらに、「前期計画」でそれぞれ3校つくられ、「後期計画」では触れられていない「フレキシブルスクール」や「専門コース」についても、詳しい総括がなされる必要があります。私たちは、新たな学校間格差を生じさせる「フレキシブルスクール」と高校入学時に進路を固定することになる「専門コース」はもうつくるべきではないと考えます。
 また、「骨子案」は県立の中高一貫教育校を2校つくるとしています。私たちは、中高一貫校は前期中等教育の段階に差別と選別を持ち込み、進学競争に拍車をかけることにつながる点から、その新設に反対します。

 県立高校に求められているのは、新タイプ高校という目新しい高校をつくることではなく、すべての高校を30人以下学級として希望者すべてにゆきとどいた高校教育を保障することです。

県教委や校長による学校管理の強化は是正されるべきです

 「前期計画」のもとで、管理運営規則の「改正」にもとづく職員会議の位置づけや校長のリーダーシップの確立、県立学校評価システムの導入、教職員の人事評価など、県教委と校長の学校管理強化が押し進められました。その結果、これまで教職員と管理職の信頼のもとに積み上げられてきた学校運営が切り捨てられ、学校は上意下達の管理主義的な場へと急速に変わりつつあります。教職員は多忙化と管理強化のため、健康を害することが多くなり、また教育への情熱や志気も落ちてきているというのが実状です。

 にもかかわらず、「後期計画(骨子案)」でも、校長のリーダーシップ、従来の校務分掌等の見直し、校長・教頭を補佐する職のあり方の検討、人事評価結果の人事・給与上の処遇への活用など、教職員の分断と管理をさらに強める方向を打ち出しています。

 子どもたちにゆきとどいた高校教育を保障するためには、このような管理強化を抜本的に是正し、教職員が教育者としての誇りと喜びをもって仕事に取り組むことができるような支援を行うことが必要です。

 最後に、私たち「かながわ定時制教育を考える会」は、県教委が県民の意見を真摯に聞き「骨子案」を根本的に見直し、県立高校を削減していくのではなく、教育の機会均等にもとづき希望するすべて人にゆきとどいた高校教育を保障することを「県立高校改革推進計画 後期計画」の基本とすることを強く求めるものです。

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