1998年5月14日


  

「県立高校将来構想検討協議会」の『中間まとめ』に対する意見書



  『中間まとめ』は、「T.県立高校の果たす役割」の「1.これまでの取り組み」と「3.これからの果たすべき役割」において、次のように述べています。

  「県立高校は、これまで子どもたちに広く高校教育の機会を提供し、意欲と希望の ある多くの生徒を受け入れてきた。・・・・・・・・・ 今後も県立高校においては、意欲と希望を持って高校への進学を望む子どもた ちに幅広く進学の機会を確保するように努めるとともに・・・・・・・」

  『中間まとめ』は、まずはじめにこれまでの就学保障に関わる教育行政を評価しています。しかし、これは事実に反します。今年も、多くの「意欲と希望のある」子どもたちが全日制高校に入学できませんでした。

  さらに、定時制においても、相模原のS高校定時制、横浜のK高校定時制などで受検者が定員をオーバーしたため不合格となり、入学できない子どもが出ました。また、通信制はここ数年応募者が多く、転編入希望者のうち100名ほどを不合格にせざるを得なかった学校もあります。

  『中間まとめ』の付録にある97年3月中学校卒業者の進路希望と進路状況調査によると、全日制高校を希望した「意欲と希望のある」中卒者のうち、1719名が全日制に「受け入れて」もらえなかったことがわかります。

  また、定時制や通信制などからも「受け入れて」もらえず、やむを得ず就職した中卒者が217名います。さらに、専修学校進学者は希望者に比べて663名増えており、このなかには高校へ行けなかった子もかなり含まれていると思われます。

  「将来構想検討協議会」は、全日制にいけなかった新規中卒者が1700名ほどいること、そして新規中卒者でない人も含めると、全日制に受け入れてもらえない人がさらに多くなることを十分に検討したのでしょうか。また、定時制では一部の地域、一部の学校で、通信制ではどこでも受検者が定員をオーバーしているため、高校に行けない人が数百人以上いる現状を調査、検討したのでしょうか。

  そうした検討が十分でなく、正しい現状把握ができていないため、「これまで、意欲と希望のある多くの生徒を受け入れてきた」などという誤った評価になったのではないでしょうか。
             

統廃合ではなく、高校進学機会の完全確保を


こうした誤った評価に立ち、「今後も、意欲と希望をもって高校進学を望む子どもたちに進学の機会を確保する」といっても、全く信じられません。それどころか、統廃合を強調する次のような主張をみますと、実は「高校進学の機会の確保」は完全には保障されているのではなく、現状程度の就学保障で進学機会は確保されているという立場に『中間まとめ』がたっていることがわかります。

 「今後も生徒の減少が続く状況を踏まえて、各高校の適正な規模の確保と特色ある高校の適正な配置を図るため、再編成・統廃合等を含めた再編整備を検討する必要がある。・・・・・・・・ 定時制では、・・・・・・定時制の規模・配置の適正化が図られている。」

  『中間まとめ』は、「進学機会の確保」ということで、あたかも「希望者全入」(高校への進学希望者をすべて受け入れる)に努めるかのような幻想を県民にふりまきながら、実際には「進学機会はもう確保できたのだから、次は適正規模と適正配置だ」という論理で、全日制と定時制の統廃合をすすめようとしています。

  特に、定時制については、昨年2月に出された「定時制再編通知」をもとに、川崎工業の廃課程、小田原城東と小田原城内箱根分校の募集停止を評価し、さらに廃課程を推し進めようとしています。

  しかし、中学卒業者の減少が続くこの時期こそ、施設・設備、教職員数などすべての面でその気になれば、全日制希望者は全日制への、定時制や通信制希望者は定時制や通信制への進学を保障できる絶好の機会です。「協議会」は、「高校へ行けない子を生み出さない」「15の春を泣かせない」という「希望者全入」の原点に立ち返り、完全に高校進学の機会を確保する答申を出すべきです。

  そして、そこには現に行われている全日制の学級減を見直し、必要なところは十分な学級増を行い、また定時制については機械的・一方的な統廃合をやめ、相模原地区などに普通科を増設することなどが盛り込まれなければなりません。
    

3年制や単位制ではなく、本来の定時制教育の抜本的な充実を


  『中間まとめ』はまた、「定時制課程・通信制課程の改善」のところと、「特色を生かした適正配置」のところで、次のように述べています。

  「3年間でも卒業が可能となるよう、・・・・修業年限の弾力化を一層進める必要がある。諸制度(定通併修、実務代替、大検、技能連携などがあげられている)の積極的な活用が必要である。・・・・・ 定時制における生徒の多様化の実態を踏まえ、単位制による高校の設置を検討する必要がある。」
 
  この問題を考える上でも原点は、全日制を希望する人は全日制へ、定時制や通信制を希望する人は定時制や通信制へ通えるように、進学機会を完全に確保することです。そもそも、定時制はフルタイムの学校である全日制にたいし、パートタイム(1日4時間の授業)の学校です。

  それを無理やり3年間で卒業させるために、1日の授業時間を増やしたり、通信制との併修、実務代替、大検などを導入したりすると、通学する生徒にとって矛盾や問題が多く発生し、結果的に退学者を増やし、生徒に不利益になってしまうということが、全国的な3年制の状況から明らかになっています。

  神奈川県では、この間県立10校の夜間定時制で指定研究を行い、『中間まとめ』で触れられている諸問題を十分時間をかけて、検討・研究してきました。その結果は、3年制や単位制は夜間定時制にはふさわしくなく、生徒の成長・発達には不適切な制度であるということでした。

  また、先の「定時制再編通知」では、夜間定時制は「夜間で4年が基本である」と触れられています。「協議会」は、今からでも全国や県内のさまざまな資料を時間をかけて検討し、この項については全面的に見直したうえで、これまでの夜間定時制教育の良さをさらに充実、発展させる方向で答申を出すべきです。

  『中間まとめ』が、真に「進学機会の確保」をめざすなら、これまで高校教育を受ける機会を失ってきた多くの県民の立場に立ち、夜間定時制の統廃合ではなく、また3年制や単位制ではなく、本来の定時制教育を早急に充実させることこそが求められています。

  それにはまず、定時制を25名学級(全日制は30名学級)にしたうえで、専任の養護教諭、専任の事務職員を配置するなど、教職員の態勢を拡充することです。また、グランド証明など夜間照明施設の抜本的な改善、専用施設の充実など、ここ10数年来先送りされてきた課題をただちに実現することです。

  以上、「かながわ定時制教育を考える会」(代表 保坂強)は、県民に高校進学の機会を完全に保障すること、3年制や単位制ではなく、本来の定時制教育を抜本的に充実させることを、答申に盛り込むように強く要求するものです。
    
                                                                     

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