1996年8月5日


「かながわ新総合計画第一次計画素案」に対する意見書



 第一次計画素案、多様で柔軟な高等学校教育の推進」という項目の定時制教育に関して意見を述べたいと思います。素案では、次のようにかかれています。
 
 「生徒の多様化や生徒数の減少が進む定時制高校については、社会人の学習ニーズへの対応など新しい視点も踏まえながら魅力ある定時制教育への再編をはかります。」
            

4年間、ゆっくり学ぶことのできる夜間定時制


 
魅力ある定時制ということで、3年卒業制や定通併修制が考えられているのならば問題です。というのは、これが魅力にならないことが全国的な状況からすでに明らかになってきています。そのため、この3年間(93年4月から96年3月)県立8校の定時制で行われた指定研究の検討では、多くの学校が、3年卒業制や定通併修制は現在の定時制には合わないという報告を提出しています。

 現在の定時制は、学力不足や不登校などで全日制に入学できなかった生徒が多数を占めています。このような生徒は、1日4時間で、4年間というゆっくりとしたペースで授業や学校生活で自信を取り戻し、立派に成長し卒業していっています。これを3年間で卒業させるために、昼間から登校させたり、通信制との併修で単位を取らせることは、生徒に加重の負担をかけ、結果として不登校や退学を増加させてしまうことにつながります。

 また、定時制は夜間に授業があることから、さまざまな年齢、仕事、境遇、国籍も違う生徒が集まっているため、集団の中で異なるものを排除する傾向がなく、不登校の生徒も通いやすい学校となっています。そして、入学当初は働いていなかった生徒も、半年、1年とたつと仕事を始め、働く中で成長し、学ぶ意欲も芽生えてくるようになります。
 4年間、ゆっくり、夜間で、さまざまな人たちと、少人数で学ぶことができるという定時制の魅力をさらに充実・発展させるような総合計画にしてほしいと思います。
            

統廃合ではなく、社会人の学習ニーズへの対応を


 素案には、「社会人の学習ニーズへの対応」ということが書かれています。社会人の学習ニーズへの対応については、定時制教育は当然社会教育ではなく、後期中等教育という学校教育であることを踏まえることが基本です。

 ここ数十年、高校に入学できなかった人、入学したもののいろいろな事情で退学してしまった人は毎年、約5千名から8千名ほどいます。こうした人の学習ニーズは、やはり高校教育を受け、高卒をはじめとする資格を取りたいということです。すでに社会人であるが、何らかの理由で高校教育を全く、あるいは十分に受けてこなかった人の学習ニーズに、定時制が応えることが、「社会人の学習ニーズへの対応」の基本です。

 そのうえで、さらにすでに高校を卒業した人が、もう一度3年生に編入して、専門教科を学習する制度(東京では、すでに社会人編入制度として実施されている)は、既存の定時制で可能であるので、ただちに実施できるように施設や人的な面での行政の援助を望みます。

 また、高卒者や社会人が安価な費用でさらに高度な専門教育を受けることができるようにするために、定時制高校に夜間専攻科を併設することを検討し、実現に向けて動き出すべきです。定時制の工業高校や商業高校には、かなりの施設、設備があります。これをさらに充実させるならば、働いている県民の学習や資格取得に利用することも可能となります。そのための良い方法が、夜間専攻科の設置ではないでしょうか。

 
このような社会人の学習ニーズに対応していくためには、職場や家庭のすぐ近くに夜間定時制高校が存在している必要があります。つまり、地域に根ざした定時制である夜間高校が残っていてこそ、「社会人の学習ニーズへの対応」が可能です。定時制生徒数の減少を強調し、統廃合を促進していくことと「社会人の学習ニーズへの対応」とは両立できません。県が、定時制教育に「社会人の学習ニーズへの対応など新しい視点」ということを求めるのならば、川工定時制の募集停止の強行に現れたような県行政の姿勢、つまり入学者数が何年間、何人以下であったので即募集停止というような姿勢は今後とるべきではないと思います。
 

学びたいという気持ちがあれば誰でも入れる学校としての定時制を


 映画『学校』の監督である山田洋次さんは、夜間中学の魅力を「学びたいという気持ちがあれば誰でも入れる学校であり、疲れた体をひきずって登校してきても、教室に入るとバッーと気持ちが開放できる学校」(『寅さんの学校論』)と語っています。

 夜間定時制の魅力も、夜間中学のこうした魅力と基本的には変わらないと思います。そして、県民もこうした定時制を望んでいると確信します。

 こうした点からみて、今年(1996年)もまた厚木地区、相模原・県北地区等で定時制の応募者が定員を超え、不合格者がでたことはきわめて大きな問題です。学びたいという気持ちがあれば誰でも入れる学校として、定時制は県民の就学保障を担ってきました。しかし、この定時制にも通えない子どもたちを毎年何人も出しているということは、行政の責任が問われることであるといえます。

 県は、総合計画で「魅力ある定時制」や「生涯学習のニーズ」ということを掲げるのならば、まず完全な就学保障を実現することこそがその前提となるはずです。そのためには、これらの地区における全日制の学級減の見直しと定時制の臨時的な学級増、そして相模原地区に定時制普通科を新設することが必要であり、その実現を強く望みたいと思います。
                                                                     
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