2011年5月14日


連載  定時制の保健室からC

保健室で育ちあう子どもたち

県立定時制高校養護教諭


 携帯電話に去年卒業したAさんから「短大の友達に囲まれ楽しく過ごしている」と写裏付のメールが送られてきた。

 Aさんは、本校への入学は不本意入学で、入学当初から「来年は違う学校を受ける」と宣言し、保健室で何時も本校での生活の不満ばかりを漏らしていた。クラスは男子が多く馴染めないからと授業時間以外はいつも保健室で過ごした。しかし彼女の実力では来年受験しても希望の学校の合格は難しいと私には見えた。1年間挫けそうになりながらも何とか持ちこたえ、3学期になり再受験を考えるころには、このままここに残り卒業するのが良いとAさんも現状を受け入れて考えられるようになった。

 Aさんの両親は離婚し母と姉の3人家族である。母親は、愛情はあるが支配的な面が強く、何かとAさんと対立した。1年のとき家出をして友達の家から登校してきたとき、母親が授業中の教室まで来て引きずり出し連れ帰ったこともあった。アルバイトをして家にお金を入れ、家事も手伝うなど傍から見ればとっても良い子だったが、何事にもきちんとしなければ気がすまない母親にはルーズさが許せないようで、たびたび一方的に母親の怒りが爆発した。学校で母親から怒りのメールが携帯に入るとそのたびに家に帰りたくないと保健室で泣かれた。居合わせた生徒たちが話を聞いて知恵を出し合い一緒に考え励ました。

 2年になり、保健室でクラスや学年が違う生徒と親しくなり、悩みを相談し助け合う中で良い仲間が出来た。その中の一人1学年下のCさんと夏休みに登校してきて、「化粧品の万引きで警察に捕まった」とびっくりする報告もあったが、この経験を通し自分たちの軽はずみな行為に対する社会の厳しさも学んだ。

 4年生になってからは、女子のまとめ役として周りから信頼されるように成長した。修学旅行に参加したことで、クラスが違い無口なDさんとも、共に行動することでやっと親しくなれたと喜んだ。

 進路については、ネイリストやエステティシャンなど夢を持っていて、専門学校を見学に行ったりもしたが、結局は母親の意見で渋々短大に、AO入試で入学した。

 わたしは、それぞれ問題を抱えている生徒たちの安心できる居場所としてのほかに、始業前や放課後の時間を利用して自由に話せる場としての保健室運営を意識的にしている。初めは私との1対1の関係から、保健室で出会うことで生徒同士が親しくなり仲間意識も育って、お互い心を開き支えあえる関係になって欲しいと願っている。深刻な家庭の問題、恋愛や友達とのトラブル、妊娠、アルバイトのことなど悩みを安心して話せるようになる。聞いている生徒たちも、真剣に話を聴き温かい言葉を掛け励まし一生懸命にアドバイスをしている。私は親の気持ちや大人の考えを代弁し、軌道修正をして見守る。

 3、4年間で卒業を迎えることが出来る生徒は半数の厳しい状況にある。仲間の力を支えに、楽しい思い出を作って卒業していって欲しい。最後に「この学校に入って良かった」と言われる事が私のエネルギーになる。

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