2011年4月30日


定時制の保健室から B 

「妊娠した」と相談を受けたときの生徒への関わり

県立定時制高校養護教諭


 2学期始めの保健室は、性感染症や妊娠という不安を抱えて相談に来る生徒が多い。その中で男子が相談に来ることは少ないが、印象に残っている生徒がいる。

 1年の3学期が始まってまもなくYが2月続けて腹痛と吐き気で保健室に来た。普段はケガ以外で保健室を利用することのない元気で活動的な生徒である。始めは話を聞いても腹痛の原因となるようなことが出てこない。2日目になり、実はと話し始めた。付き合っている彼女が妊娠し、家を追い出されて自分の家に来ている。つわりを起こしていて一緒にいる自分もそれを見てうつっているのかもしれないと話した。Yはまだ幼さが残る生徒である。しかしこの間題については誠実に対応しようと、真剣に悩んでいた。

 私は、彼に感情に流されることなく将来を見据え2人で考えること、そして周囲の大人の意見を聞くことをまず指導しようと決めた。そこで自分たちの気持ちはどうしたいのか、特に彼女はどう思っているのか、産むとなったら回りの援助は得られるのかと、問いかけていった。

 Yの家は父子家庭だが近くに祖母が住んでいる。父親がこのときケガをして働けず経済的に厳しい状態であった。琴女も父親と二人暮らしであり、母親は、外国籍で海外に居る。彼女の父親は今度のことでは怒って、援助は一切期待できない。彼女はそれでも産みたいと言っている。自分もそうしたいとは思うが高校は卒業したいと思っている。Yはそんな立場に置かれ追い詰められていた。

 私と話をしていく中で、父親と祖母に話す決心を固めた。そして気づくとYの症状はだいぶ治まっていた。早速、Yは思い切って父親と祖母に相談し、彼の父親と祖母は「命を大切にしなさい」と産むことに賛成してくれた。彼女の父親にはYと父親が何度か足を運んだが話し合いに応じてもらえず、彼女は父親との和解ができていないまま、Yの家で女の子を産んだ。

 Yは、クラスの仲間にも受け入れられ、時折仲間と保健室を訪れ、携帯の写真やプリクラで子どもの成長を見せてくれた。3年になり、Yの18歳の誕生日を迎え入籍を果たした。出産後しばらくし、彼女もパートで仕事を始めた。Yは子育てとアルバイトをしながら無事高校を卒業した。

 妊娠したと相談に来る子どもたちに、頑張るというだけではどうにもならない子育ての大変さ、生活の厳しさ、家族の支援にっいて冷静に考えさせる。親子関係に問題を抱えていたり、性の問題は気軽に親に話せることではないが、命の大切さや性の問題を親子で正面から考える良い機会ではないだろうか?親に内緒で安易に処置することがないように関わることが大事である。妊娠の相談を機に、安易にセックスをすることの危うさや命の重さを学ばせることも大切である。

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