2003年11月22日

 傍 聴 記  

 10月28日(火)、午後1時半より教育文化会館で教育委員会定例会議が開かれ、「定時制高校を守る市民の会かわさき」(以下「市民の会」)から10月7日付で出されていた請願書(「設置する定時制高校の学校数を、『定時制課程検討委員会』の協議内容に独立した諮問事項として加え、他の諮問事項を協議する前に検討してください」請願第10号)に関する意見陳述が行われました。傍聴者は10余名でした。

 これは、10月14日(火)の教育委員会臨時会議において行われた、「市民の会」が『定時制検討委員会(仮称)』(以下『検討委』)の公正な運営を求めて委員構成に生徒か卒業生1名と保護者1名の増員を求めた請願(請願第8号)の意見陳述と採択に引き続くものです。

 この日は「市民の会」を代表して、元川崎市立定時制高校教諭であったTさんが、約15にわたり意見陳述をしました。Tさんは、別掲のように夜間定時制高校が現実に果たしている役割とその意義を教師経験をもとに謹々と陳述され、『検討委』が『教育振興計画(案)』にいう「夜間定時制高校を5校から2校にする」スタンスで審議が展開されることがないよう、「公明正大な構成で、納得できる審議を行える場になるよう」にとの請願の本意を示して終わりました。審議は次回から行われる予定です。

 傍聴しての実感は、これまで同様、傍聴者はもとより教育委員の方々にも深い感銘を与える陳述であったということでした。ぜひ、意見陳述の全文をお誌みください。

 


川崎市教育委員会議での意見陳述


 私は川崎市立の中学校に30余年、同定時制高校にこの3月末まで5年間勤めておりましたTと申します。本日はこのような、発言の機会を与えていただき有り難うございます。先ず、私が何故このような請願の審議を求めてきたのかを述べたいと思います。

昨年も全国で131千余人の児童・生徒が小・中学校で不登校であったという、文部科学省の学校基本調査が出されました。これまで、調査を始めた1991年以降で、初めて全国で約7500人減少したそうです。しかし、その中で神奈川県は増加が続き、神奈川県の中学生で約7000人、川崎市の中学校では、1485人で、そのうち3学年が一番多く597人となっています。この597人は市立高校定時制の総募集数385人よりずっと多くなっています。

今の日本の社会で、小・中学校の段階で、他の子どもが通っている学校に行けなくなった子どもの苦しみやその家庭の苦しみは、「生きるか死ぬか、殺すか殺されるか」というような、極めて深刻な親子関係になるケースも多いと聞きますし、私も中学・定時制高校の教師として、'幾組ものそのような親子を見てまいりました。

そんな親子が、悩み!こ悩み、苦しみの長い葛藤の末に、藁をもつかむ思いでたどり着くのが、今の定時制高校であると思っています。また、何らかの理由で高校を中退した生徒たちも、毎年全国で10万人を越えていますが、彼らが「再び学校に戻ろうと考えたとき、同年令ばかりの全日制には戻りにくく、定時制に入ってきます。

また、全日制を希望したが不合格となって、経済的理由などから私学には進めず、定時制に来る生徒もいます。さらに、心身に障害のある生徒や中高年の学習希望者、在日外国人の生徒も学んでいます。

いわば、現代の学校教育で傷ついたり、失敗したり、受け入れられなかったりした人たちが、再出発を望んだとき、その思いを受け入れている学校教育のセーフティネット。それが、現代の定時制高校の役割だと思っています。そして、その役割はますます高まってい来ています。わたしはそんな生徒たちを励まし、支え、再出発を心から願う立場で教飾をしてきまし.た。

生徒たちは「こんな学校、来たくなかった」、「ここしか入れる学校はなかった」とか、「入ったらいつでも辞められる」思いで入学してきますが、ここで人間関係を作り直し、自分に自信を回復し、前回、この場で(川崎市教育員会議)で定時制高校4年生のKさんが発言されたとおり「この学校で学んで良かった」「もう一度、高校を選べといわれたら、定時制を選びたい」というように、入学時と卒業時では学校に対する考え方が変わる『逆転のドラマ』である学校であると思っています。

ところで、そのような生徒や保護者、そして教師たちの思いは、それを支えるはずの行政に届いているでしょうか。

昨年319日、「川崎市立高等学校教育振興計画()」が発表されたとき、わたしは、今述べたような定時制高校の大切な役割を考えたとき、その「計画案」のなかに『現在5校ある定時制を2校に再編成する』とあるのを見て、これでは「今の定時制が無くなってしまう。改めてもらおう」と考えて、市民説明会、学校説明会等で、何度も質間をし、意見を言ってきました。

しかし、『開かれた高等学校づくりの推進』が掲げられたこの計画案で、返ってくる答はいつも同じで、「現場や生徒の意見を聞いて、それを反映したよりよいものにしよう」とする姿勢は感じられませんでした。このままでは「意見は聞きました」という実績づくりに利用され、現場や生徒・保護者の生の声や思いは反映されないと考え、多くの人たちと相談した結果、「会」を作り、強制力を持つ請願を教育委員会や川崎市議会に提出して審議して戴くことになりました。

 請願の趣旨は、ご承知のとおり

@現在の定時制5校を減らさないで下さい。
A「計画案」を広く知らせ、意見をしっかり聞き、生かして下さい。というものです。

こうして、請願・署名を始めて、毎回、教育委員会議の傍聴や市議会総務委員会の傍聴を続けて参りました。そこでは、現場の実感と教育委員会事務局のとらえ方の大きなズレを感じました。

教育は「生きた1人ひとりの生徒を、その子に寄り添いながら自立に向けて支えていくものだ」と考えてきましたが、教育委員会事務局の「案」には、1人ひとりの生徒や保護者の思いは配慮されず、「計画案」に都合のよい数字だけを並べ、「計画案」を原案どおり進める方向ばかりが目立ちました。

例えば、「中学校での定時制の志願者は、101日の希望調査では、毎年5060人しかいない」という数字が、定時制の学校数を減らす根拠として使われています。しかし、現在の定時制高校の生徒の半数以上を占めている不登校経験者は、今日はもう1028日ですが、中学3年生のこの時点で進路先を決めていたでしょうか。これまで、(「会」代表の)Aさんが何度も話されましたが、不登校の生徒たちの大部分は、まだとても進路を決める段階にはなっていなくて、請願提出の締め切りのころになって「受けるか、受けないか」を悩みに悩みながら、「ようやく、とにかく願書を出すだけは出しておこう」というようなケースも多いのです。わたしは定時制高校に来る前、中学校で進路担当を長くやっていて、不登校の生徒たちの進路にも関わってきましたので、よく知っています。

だから、1人ひとりの生徒のそんな思いは、101日の調査では「未定」としか出せないのです。しかし、「計画案」では「定時制希望者は5060人」という「数字」でしかなく、悩みに悩んで決めた受験者は、その『数』に入らないのです。

また、中学校で希望調査しても、これも現在の定時制高校生の20%くらいを占めている高校中退者は、中学校にいないわけですから数字には現れません。こうして、実態とは違った数字、都合のよい数字が出され、夜間定時制高校を減らす理由とされていました。しかし、実際は中学卒業生が減ってきているなかで、定時制志願者は、前に述べた不登校の生徒の増加ともつながり、増えているのです。ですから、いま5校を減らさなければならない理由は、今でも分かりません。

話をもどして、請願審査その後はどうなったでしょうか。請願審査では、原案に数多くの疑問が出され、「5校を2校にする」根拠は明らかにされませんでした。結果として、原案の「5校を2校に再編成」は、修正・削除され、仮称「定時制課程検討委員会」で、設置学校数などは協議するということになり、教育委員会議では、「請願は『議決しない』と議決した」いつ私たちにははっきりしない結果となりました。こうして、定時制の学校数問題は定時制課程検討委員会に移りました。

そうして設置されることになった定時制課程検討類会は、公正に市民や生徒に開かれわかりやすいものになるか説きたいしましたが、その「委員の構成」と「検討事項」に問題を感じました。

 まず、「委員の構成」では、総委員数を13人として、その中にハッキリした定時制関係者は定時制高校教員1名と全日制・定時制兼任の校長1名のみでした。これでは、教委事務局が繰り返し述べてきた、「今ある定時制の良さを引き継ぐ」貼を引き継ぐ」改革はできないと考えて、前回、請願を出し、定時制2名の増員を採択していただいたところです。

 つぎに、もう一つの「検討事項」の問題についてです。いま、請願の要旨と請願理由が読み上げられた通り、「『5校を2校に再編成する』を削除して、定時制課程検討委員会で協議する」されていた「設置すべき学校数」が定時制課程検討委員会の「諮問事項」に入っていませんでした。そこで、今回の請願を提出して、審議をお願いしています。

 私たちか、さまざまな困難を抱えながら、再出発しようとしている生徒たちの、大切な学びの場である定時制の、『5校を減らさないで下さい』と、前の請願で求めたのは、学校数が減ることによって、学ぼうとする生徒たちの通学距離が長くなり、そのことで生徒たちの通学が困難になることが予想されるからです。今読み上げられた「請願の要旨」にも述べられているとおり、「通える場所に学校がなければ、学ぶ意志があっても通えない」からです。その例として、こんなことがありました。

 私たちが麻生区の新百合ヶ丘駅前で街頭署名を行ったとき、50歳台くらいの女性の方が「私も近くにあったら、定時制に通いたいのだけれど・・・・・・」と話しかけて、署名に協力してくださったことがありました。

市教委制作の「振興計画Q&A」のQ13では、「定時制の生徒の通学区域は、川崎市内が86%で、そのうち、川崎区、幸区、中原区、高津区が76%です」とのべています。しかし、これらの4つの区はいずれも定時制高校の存在する区であって、いかに学校の設置場所が定時制生徒にとって、重要な意味を持つかをしめしています。

通学距離が長くなることは、特に夜学の場合、単に通学区域が長くなるだけの問題ではありません。安全の問題もあり、部活動や放課後の活動が制約されてしまいます。帰りは夜9時を過ぎていますから、乗り物の本数が少なく、間隔が長くなり登校時より時間がかかり、疲れもたまります。さらに、当然、通学のための費用がかさみます。その上、この不況のなかで、大部分の生徒は何らかの形で働いています。先の「Q&A」の資料では、13年度の調査として、『75.8%の生徒が正社員・アルバイト・家業などで働いている』としています。しかし、通学距離が伸びるとアルバイトなどで働く時間が減ることになります。つまり、「出費がかさみ、収入が減る」のです。高校生にとって、この負担の増加で、金銭的に学校を追われる生徒がでることも予想されます。このことは考慮されているのでしょうか。

実は、私が担任した生徒で家計が苦しくなり、修学旅行の積立金を払戻し、更に日銭を得るために、学校を休んで「ティッシュくばり」をつづけ、「もう学校続けられないかもしれない」と言ってきたケースがありました。こんな時、教委へ尋ねても奨学金も緊急融資もありませんでした。

私たちが「定時制5校を2校に再編成」の見直しを求めてきたのは、最初から「学校数」の問題でした。繰り返しますが、「学校がどんな場所に、何校設置されるか」によって今、通えている生徒たちが、通えなくなる恐れがあるのです。学校数の問題は、学ぶ意欲のある生徒たちの学習権を保障するかどうかという人権問題でもあります。現に、横浜では市教委が横浜市立高校5校を現在は2校にしました。さらに17年度には、3部制高校1校にする計画です。そのため、横浜弁護士会から「入学希望者の学習権の侵害」憲法の保障する「教育を受ける権利の侵害」にあたるとして、再検討を求める勧告が出されています。同じことを川崎で繰り返すことがないように、どうか「設置する学校数」の問題を、定時制課程検討委員会の検討項目に、加えていただきたいと思います。

このように、その設置される学校数で、生徒の通いやすさが変わり、学習潅の保障の中心課題であることを考えれば、定時制課程検討委員会では、まず「何カ所に、何校学校が必要か」を十分検討されるべきだと考えます。そして、その「学校数」という中心の「外枠の配置」を決めたのち、その学校に設置する「学科やその学校の特色を持った教育課程」などの「中身の問題」が検討されるべきだと思います。教育課程や設置学科を先に論議しても、生徒の学習権の保障の観点が抜けてしまえば、ある定時制生徒が言ったことば、「定時制の再編計画で、教科が沢山の選択科目のなかから選べるようになっても、学校が選べなくなるのでは意味がない」は、ことの本質をズバリと言い当てていると思います。

定時制検討委員会が、まず全市的な視野から、設置学校の数と配置を検討され、さまざまな困難を抱えながら、再出発をめざしている生徒たちが、少しでも通いやすい定時制高校をつくる、大きな役割を果たす場になることを期待しております。

教育委員のみなさん、6か月にわたって審議していただきました、「5校を減らさない下さい」という私たちの思いは、検討委員会の審議に委ねられることになりました。教育委員のみなさんは、「5校を2校に」の理由は、お分かりになられたのでしょうか。では、検討委員会そのものが、公明正大な構成で、私たちも納得できる審議を行える場になるように、この請願の審議をお願いしたします。以上で発言を終わります。ありがとうございました。

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