2002年5月17日


 神奈川高校教職員連絡会が発行している『新たな前進 92号』(2002年5月1日付)に、今年度の定時制入試に関わる、個人署名の記事が掲載されました。関係者に了承を得て、資料として以下に紹介します。

父母、市民との共同した運動で、      

「再編計画」の見直しと就学保障の運動を


 
今年度の定時制入試は、試験後に入学定員枠を拡大したり、募集定員を超えて受検者のほぼ全員を合格させるなど、全国的にもおそらくかつてない異例の措置がとられた。これが実現したのは、これまでは希望すれば入学できた定時制で、大量の不合格者が生み出される事態となり、定時制の父母や生徒、退職教員、女性団体など広範な市民、県民が、「15の春を泣かしてはいけない」と立ち上がったからである。

  その経過を簡単に振り返ると、まず全日制と同じ日に行われた横浜総合高校の第1回入試で、約600名の不合格者が出て、国会でも問題とされた。また、定時制の第1次入試で平均競争率が1.27倍と今までにない高倍率となり、500名ほどの不合格者が見込まれる事態となった。

 「よこはま定時制父母の会」は、横浜市教委に入学定員枠の拡大を求める請願を行い、また、「横浜市立定時制高校の灯を消さない会」や教職員連絡会、新婦人の会などが県教委と市教委に全日制の2次募集で入学定員増を行うこと、定時制の定員枠を拡大することなどを強力に要請した。こうした働きかけにより、ようやく県教委も重い腰を上げ、川崎市教委とともに定時制1クラスの定員を35人から40人に引き上げ、全県で225人の定員を拡大するという異例の措置を決定した。志願変更後の決断であったため、受検生には取り返しのつかない不利益をもたらしたが、父母をはじめとする道理ある訴えと県民の世論という後押しがあれば、すでに発表した募集定員も変えることができることを示した。

  一方、横浜市教委は定員枠の拡大を拒否し、夜間定時制についてのみ受検者全員を合格させることで、ことを済ませようとした。市教委がこのような対応をとったのは、港高校など定時制3校を強引に募集停止とした責任が追求され、「市立高校再編整備計画」の見直しが迫られることを回避するためであった。戸塚高校は、公平な入試の実現と「父母の会」などのクラス増による再募集という要求を考慮し、特例措置で別途新たに70名の再募集を行った。戸塚高校の教職員は、市教委の失政のツケを押しつけられ、2クラス分の生徒が増加するにもかかわらず、父母や市民の切実な声に応える決断を下した。

  こうした措置によって、354名分の入学枠が拡大され、定時制を志願したかなりの子どもたちが不合格とならなかったことは、画期的なことである。しかし、横浜から小田原や平塚まで通わなければならなくなったり、少人数クラスを望んでいたのに40人学級に詰め込まれるなど、今回の入試は多くの痛みを子どもたちに負わせることになった。教育条件が悪化した定時制の現場に対し、県教委、市教委は最大限の人的・物的支援を行うべきである。

  さらに、入学枠が広がったことによっても、結果的に13名を不合格とせざるを得なかったことを忘れてはいけない。この13名のほかに、何度も試験に落とされたことにより高校進学をあきらめた人や中学浪人となった子もいる。県教委と横浜市教委がこれらの人の学習権を侵害したことは明らかである。

  こうした異例の事態をひきおこした根本の原因は、県教委の「県立高校再編計画」と全日制の入学定員策定、さらに横浜市教委の「市立高校再編整備計画」による定時制3校の募集停止にある。県教委は、計画進学率を94%に据え置いたうえで、決められた入学定員枠を2000名以上も下回った私学に対して、前年よりわずか100名だけを減少させた入学定員(17,300名)を保障し、その分公立高校の入学枠を、「再編計画」の統廃合対象校を中心に大幅に減少させた。

  横浜市教委は、ここ数年横浜市内の普通科の定時制が定員をオーバーし、10〜30名の不合格者を出していることを知りながら、3校の定時制を募集停止とし、定時制全体の入学定員を140名も減少させた。また、この3校に替えて新設した横浜総合高校が全日制的性格の定時制であったため、全日制で学ぶはずの子がこの高校を志願し、経済的理由や不登校の子が定時制から閉め出される事態を招いた。

  このような根本原因を解決することなしには、また来年度も今年と同じ事態が生ずることは明らかである。したがって、今後の私たちの運動は、まず県に「前期再編計画」の見直しを行わせ、30校にわたる県立高校の統廃合をやめさせることである。また、全日制の入学定員策定については、計画進学率を上げるだけではなく、私学枠を実績に見合ったもにし、公立の学級減に歯止めを掛けることである。さらに、定時制については今年度のように、県や市の失政を定員増という形で現場に押しつけるのではなく、市立定時制の募集停止を見直し、港高校と横浜商業定時制の募集再開を行わせることである。

  今回の入学枠を拡大させる運動には、高校教職員連絡会や「かながわ定時制教育を考える会」の会員が積極的に関わり、誓願や陳情の傍聴、交渉に参加してきた。特に、「考える会」は、昨年来「父母の会」と緊密な連携をとり、運動をバックアップしてきた。1月には、「父母の会」とともに県内で初めて「定時制・通信制進学説明会」を成功させた。この活動のなかで、父母や生徒とのつながりがいっそう強固なものとなり、さまざまな運動を共同して行うようになった。

  こうした父母や市民との共同の輪が、さらに広範な父母や生徒、卒業生、退職教員、市民へと広がり、今回の全国的にも異例な措置を行わせることができた。私たちの運動は、ここから多くの教訓をくみ取り、今後の活動に生かしていくことが求められている。

トップ(ホーム)ページにもどる