光速未満の速度で運動する系における電磁現象

H. A. ローレンツ


The Principle of Relativity (DOVER 出版) 収録の electromagnetic phenomena in a system moving with any verocity less than that of light, by H. A. Lorentz (Reprinted from the English version in Proceedings of the Academy of Science of Amsterdam, 6, 1904.) から、訳 片山泰男
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目次

 1. 実験的な証拠、(Trouton & Noble 実験)
 2. 短縮仮説への Poincaré 批評
 3. 動く軸の Maxwell 方程式
 4. 修正されたベクトル (電磁場、電荷密度、力の変換)
 5. 遅延ポテンシャル
 6. 静電場の例
 7. 荷電粒子の例
 8. 対応する状態 (短縮の2仮説)
 9. 電子の運動量 (縦質量、横質量)
10. 光学現象への地球運動の影響 (考察、l の確定、運動方向だけの変形)
11. 応用 (否定的実験結果の理由)
12. 分子運動
13. Kaufmann 実験 (電磁場中の電子偏向による理論の検証)

訳注:章題は、本文にないため、The Principle of Relativity の目次によった。()内は、訳者による補足。


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§1. 運動によって電気的又は光学的現象に働く影響を決定する問題は、地球の年周運動のために起きる全ての系のように、比較的単純 な解答を許すのは、その計算にいれる必要のある項が平行移動速度 v と光速 c の比の最初の累乗に比例する項だけであるときに限る。 2 次のオーダー、すなわち $v^2/c^2$ の量の場合、多分検出可能だろうが、より困難を呈す。この種の最初の例として、Michelson の よく知られた干渉実験があり、その否定的結果が Fitzgerald と私自身を、そのエーテル中の運動によって固体の大きさが微かに変化する という結論に導いた。

いくつかの新しい実験、そのなかで 2 次のオーダーの効果を探すものが最近、出版された。Rayleigh(*) と Brace (**) は、地球の運動 が物体に複屈折を起こしえるかという問題を試験した。一見それは、もしいま言及した長さの変化が許されるなら、期待できそうである。 しかしながら、両方の物理学者は、否定的結果を得た。

次の段階として、Trouton と Noble (+)は、コンデンサーの極板が進行方向とある角度をもつとき、その充電したコンデンサーに作用する 回転させる (対) を検出しようと努力をした (訳注1)。電子の理論は、いくらかの新しい仮説によって修正されるものであるにも関わらず、 疑いもなく、そのような (対) の存在を必要とするようだ。これをみるには、コンデンサーがエーテルには電荷対としてあることを考慮す るだけで十分であろう。速度${\bf v}$(*)で動くどの静電系も、何らかの量の "電磁運動量" があることが示されるだろう。これを方向と大きさ をもつベクトル${\bf G}$で表現するなら、問題の (対) は、次のベクトル積によって決定される(++)。 \[ [{\bf G}.{\bf v}] ......(訳注2) \tag{1} \] いま、もし、z 軸をコンデンサーの極板に垂直に選び、速度 v を任意の方向とし、U を通常の方法で計算するコンデンサーのエネルギー とすると G の成分(+++)は次式で与えられ、正確に 1 次までのオーダーである。 \[ G_x= {2U\over c^2} v_x,  G_y= {2U\over c^2} v_y,  G_z= 0 \] これらの値を (1) に代入して、(対) の成分を得ると、2 次までのオーダーである。 \[ {2U\over c^2} v_y v_z,  -{2U\over c^2} v_x v_z,  0 \] これらの式は、(対) の軸が極板平面内にあり、移動に垂直であることを示す。 a を速度 v と極板の法線との角度とすると、 (対) のモーメントは、U (v/c)^2 sin 2a となるだろう; それは、地球の運動に極板が平行である位置にコンデンサーを向ける傾向をもつ。

Trouton と Noble の装置では、コンデンサーは、ねじりの中心軸位置に固定され、(対) による曲りの上記のオーダーに十分に感度があった。 しかしながら、効果は観測され得なかった。

(*) RayLeigh, Phil. Mag. (6), 4, 1902, p.678.
(**) Brace, Phil. Mag. (6), 7, 1904, p.317.
(+) Trouton and Noble, Phil. Trans. Roy. Soc. Lond., A 202, 1903, p.165.
(*) ベクトルは太字で、その大きさは対応するラテン文字で表示する。
(++) 私の論説を参照:Weiterbildung der Maxwell'schen Theorie. Electronentheorie,"Mathem, Encyclopädie, V, 14, §21, a. (この論説は、"M. E." によって引用される。)
(+++) "M. E.,"§56, c.
訳注1:couple を (対) と訳した。電荷対のもたらすモーメントの意味。
訳注2:外積 G×v と同義。


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§2. 実験について述べた理由は、地球の運動に関連した問題の新しい試験を望むからだけではない。Poincaré(*) は、運動物体のなか の電気的、光学的現象の現存する理論に反対し、Michelson の否定的な結果を説明するためには、新しい仮説の導入が必要であるとし、 光には新しい事実がもたらされる度に、同じ必要性が起きるかもしれないと述べた。確かに、この新しい実験結果毎の特別な仮説の発明 という道筋は、何か不自然である。もし、何か基本的な仮説の手段によって、そして次々の大きさのオーダーの項を無視することなしに、 多くの電磁作用が全体として系の運動とは独立であることを示すことができるなら、より満足するであろう。数年前、すでに私はこの種 の理論の枠組を探し求めた(+)。いまは、その主題をより良い結果とともに扱うことができると信じる。速度に関する唯一の制限は、 それを光速未満とすることであろう。

(*) Poincaré, Rapports, du Congrés de physique de 1900, Paris, 1, pp. 22,23.
(+) Lorentz, Zittingsverslag Akad. v. Wet., 7, 1899, p. 507; Amsterdam Proc., 1898-99, p.427.


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§3. 電子の理論の基本的方程式から始め(*)、${\bf D}$をエーテル中の対電子変位(dierectric displacement)(電場)、${\bf H}$を磁気力(磁場)、 ρを電子の体積密度、${\bf v}$をその粒子の点の速度、${\bf F}$ を動電力(ponderomotve force)(ローレンツ力)の、単位電荷あたりの力であり、 エーテルによって電子の体積要素に働く。そのとき、座標に静止系を使えば、 \[ \begin{align} div {\bf D} &= ρ, div {\bf H} = 0, \\ curl {\bf H} &= {1\over c} ({∂{\bf D}\over∂t} + ρ{\bf v}), \\ curl {\bf D} &= -{1\over c} {∂{\bf H}\over∂t},\\ {\bf F} &= {\bf D} + {1 \over c} [{\bf v}.{\bf H}]. \tag{2} \end{align} \] いま、系は全体として$x$方向に一定速度${\bf v}$で動くと仮定し、次のように、${\bf u}$をある電子の点に加算される任意の速度とする。 \[ v_x = v + u_x,  v_y = u_y,  v_z = u_z. \] もし、(2) 式が同時に系とともに動く軸によって参照されるなら、次になる。 \[ \begin{align} div& {\bf D} = ρ,  div {\bf H} = 0, \\ {∂H_z\over ∂y} - {∂H_y\over ∂z} &= {1\over c} ({∂\over∂t} - v{∂\over∂x})D_x + {1\over c} ρ(v + u_x), \\ {∂H_x\over ∂z} - {∂H_z\over ∂x} &= {1\over c} ({∂\over∂t} - v{∂\over∂x})D_y + {1\over c} ρ u_y, \\ {∂H_y\over ∂x} - {∂H_x\over ∂y} &= {1\over c} ({∂\over∂t} - v{∂\over∂x})D_z + {1\over c} ρ u_z, \\ {∂D_z\over ∂y} - {∂D_y\over ∂z} &= - {1\over c} ({∂\over∂t} - v{∂\over∂x})H_x, \\ {∂D_x\over ∂z} - {∂D_z\over ∂x} &= - {1\over c} ({∂\over∂t} - v{∂\over∂x})H_y, \\ {∂D_y\over ∂x} - {∂D_x\over ∂y} &= - {1\over c} ({∂\over∂t} - v{∂\over∂x})H_z, \\ F_x = D_x +& {1\over c} (u_y H_z - u_z H_y), \\ F_y = D_y -& {1\over c} v H_z + {1\over c} (u_z H_x - u_x H_z), \\ F_z = D_z +& {1\over c} v H_y + {1\over c} (u_x H_y - u_y H_x). \end{align} \]

(*) "M. E.,"§2.
(訳注) Maxwell 方程式 (2) から、速度 -v の系からみた式を得るには、div, rot はそのままでよく、時間微分だけ考慮を要する。 d/dt は速度 v における方向微分係数 (v・∇) を使って、時間微分と空間微分の和に分け、d/dt = ∂/∂t + ∂r/∂t ∂/∂r = (v・∇)、 c rot H= (v・∇) D + ρ(v+u) = (d/dt - vd/dx) D + ρ(v+u)、c rot D= -(v・∇) H = -(d/dt - vd/dx) H、 ローレンツ力 F = D + (v+u)×H は、v= (v,0,0)、v×H= (0,-vH_z,vH_y) から上式になる。


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§4. これらの式を変数を変えてさらに変換する。 \[ {c^2\over c^2-v^2} = β^2, \tag{3} \] とおき、もうひとつの数量$l$を後に定義するものと理解する。新しい独立な変数をとり、 \[ x'= βlx, y'= ly, z'= lz, \tag{4} \] \[ t'= {l\overβ} t - βl {v\over c^2}, \tag{5} \] そして、新しいベクトル${\bf D}'$と${\bf H}'$を次の式で定義する。 \[ D'_x= {1\over l^2} D_x, D'_y= {β\over l^2} (D_y - {v\over c} H_z), D'_z= {β\over l^2} (D_z + {v\over c} H_y), \\ H'_x= {1\over l^2} H_x, H'_y= {β\over l^2} (H_y + {v\over c} D_z), H'_z= {β\over l^2} (H_z - {v\over c} D_y), \] それに伴い、(3)であるから、次を得る。 \[ D_x= l^2 D'_x, D_y= βl^2 (D'_y + {v\over c} H'_z), D_z= βl^2 (D'_z - {v\over c} H'_y),\\ H_x= l^2 H'_x, H_y= βl^2 (H'_y - {v\over c} D'_z), H_z= βl^2 (H'_z + {v\over c} D'_y), \tag{6} \] 係数$l$については、それが$v$の関数であると考えられ、$v=0$のとき、1であり、$v$が小さい値のとき、1から2次のオーダー の量を超さない違いをもつ。

変数$t'$は、"局所時間"と呼ぶことができる;実際、$β=1,l=1$ではそれは、先にこの名前で示したものと一致する。

最後に、 \[ {1\overβl^3} ρ= ρ' \tag{7} \] \[ β^2 u_x = u'_x, β u_y = u'_y, β u_z = u'_z \tag{8} \] これらの後者の量は、新しいベクトル${\bf u}'$の成分と考えられる。次の形式の方程式をとり、:ー \[ div' {\bf D}'= (1-{vu'_x \over c^2})ρ', div'{\bf H}'= 0, \\ curl' {\bf H}'= {1\over c} ({∂{\bf D}'\over ∂t'} + ρ'{\bf u}'),\\ curl' {\bf D}'= -{1\over c} {∂H'\over ∂t'} \tag{9} \] \[ F_x= l^2 { D'_x + {1\over c} (u'_y H'_z - u'_z H'_y) + {v\over c^2} (u'_y D'_y + u'_z D'_z)}, \\ F_y= {l^2\overβ} { D'_y + {1\over c} (u'_z H'_x - u'_x H'_z) - {v\over c^2} u'_x D'_y},\\ F_z= {l^2\overβ }{ D'_z + {1\over c} (u'_x H'_y - u'_y H'_x) - {v\over c^2} u'_x D'_z}, \tag{10} \] 式(9)の記号 div', curl' の意味は、式(2) の div, curl に類似するが、ただ、x,y,z についての微分が、対応する x',y',z' についての 微分に代る。


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§5. 式(9)は、ベクトル${\bf D}'$ と${\bf H}'$がスカラーポテンシャルφ'とベクトルポテンシャル${\bf A}'$ を使って表せるという結論へ導く。 これらのポテンシャルは、次式を満たす。 \[ ▽'^2 φ' -{1\over c^2} {∂^2φ'\over ∂t'^2} = -ρ' \tag{11} \] \[ ▽'^2 {\bf A}' -{1\over c^2} {∂^2{\bf A}'\over ∂t'^2} = -{1 \over c^2} ρ'{\bf u}' \tag{12} \] そして、それらの表現で${\bf D}'$ と ${\bf H}'$ は、次によって与えられる。 \[ {\bf D}' = -{1\over c} {∂{\bf A}' \over∂t'} - grad' φ' + {v \over c} grad' A'_x \tag{13} \] \[ {\bf H}' = curl' {\bf A}' \tag{14} \] 記号$▽'^2$ は、${∂^2 \over ∂x'^2} +{∂^2\over∂y'^2} +{∂ ^2\over∂ z'^2} $を表す略号である。 また、$grad'φ'$ は、次の成分をもつベクトル。 \[ {∂φ'\over ∂x'},{∂φ'\over ∂y'},{∂φ'\over ∂z'} \] $grad' A'_x $も同様な意味をもつ。

式(11)と(12)の解を単純な形で得るために、空間$S'$の点$P'$の座標として、$x',y',z'$をとり、この点に$t'$の各値に $ρ', u', φ', A'$ の値を帰し、それらは、電磁系$P(x,y,z)$の対応する点に属するとする。4番目の独立変数の確定値 $t'$について、系の点$P$又は空間$S'$の対応点$P'$について、$φ'$と$A'$のポテンシャルが次式で与えられる(+)。 \[ φ'= {1\over 4π} ∫{ [ρ']\over r'} dS' \tag{15} \] \[ {\bf A}'= {1\over 4πc} ∫{[ρ'{\bf u}']\over r'} dS' \tag{16} \] ここで、$dS'$は空間$S'$の要素、$r'$は$P'$からの距離、括弧[]は、要素$dS'$にある$ρ'$と$ρ'{\bf u}'$の4番目の独立変数 $t'-r'/c$における量を表す。

(15)と(16) の代わりに、(4)と(7) を考慮して、次のように書ける。 \[ φ'= {1\over 4π} ∫{ [ρ]\over r} dS \tag{17} \] \[ {\bf A}'= {1\over 4πc} ∫{[ρ{\bf u}]\over r} dS \tag{18} \] いま、積分は、電磁系自体に広がっている。この式のなかで$r'$は、要素$dS$と計算が実行される点$(x,y,z)$との距離で ないことを心に留めるべきである。要素が点$(x_1,y_1,z_1)$にあるとき、$r'$は次式を採らなくてはならない。 \[ r'= l \sqrt{β^2 (x-x_1)^2 + (y-y_1)^2 + (z-z_1)^2}. \] また、$P$の局所時間$t'$の瞬間の$φ'$と${\bf A}'$を決定することを望むなら、$dS$にある$ρ$と$ρu'$は、局所時間$t'-r'/c$の瞬間 のものを採らなければならないことも、想起すべきである。

(*) "M. E.,"§§4 and 10.
(+) Ibid.,§§5 and 10.


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§6. 我々の目的にはふたつの特別な場合を考察すれば、十分であろう。最初のものは、静電系である、つまり、速度$v$ の 移動以外の動きがない系である。この場合、${bf u}'= 0 $そして、それゆえ、(12)から${\bf A}'=0$である。また、$φ$は$t'$から 独立であるから、(11),(13)そして(14)は、次に還元される。 \[ \begin{align} ▽'^2φ'&= -ρ'\\ {\bf D}'&= -grad'φ'\\ {\bf H}'&= 0 \end{align} \tag{19} \] これらの式を手段としてベクトル${\bf D}'$を決定した後、また我々は、その系に属する電子に働く動電力を知ることができる。 式(10)と${\bf u}'=0$から、 \[ F_x= l^2 D'_x, F_y= {l^2\over β} D'_y, F_z= {l^2\over β} D'_z \tag{20} \] 結果は、動く静電系$Σ$を、我々が関係するもうひとつの静止静電系$Σ'$、そのなかの$x$軸に平行な長さが$β$倍され$y,z$軸 は$l$倍される系と比較すれば、単純な形式になる。その変形は$(βl,l,l)$が適切な象徴である。この新しい系では上記の 空間$S'$に置かれると考えることができ、$Σ$と$Σ'$の体積要素のなかの対応する電荷が等しい、対応する電子が同じであるこ とから(7)によって決まる密度値$ρ'$を与える。そのとき、もし、最初に$Σ'$の対応する力を決め、次にその$x$軸方向の成分 を$l^2$倍し、それに垂直な方向には$l^2\over β$倍するならば、動く系$Σ$のなかの電子に作用する力を得る。 これは、次式によって便利に表すことができる。 \[ F(Σ)= (l^2, {l^2\over β}, {l^2\over β}) F(Σ') \tag{21} \] さらに注目すべきことは、式(19) によって ${\bf D}'$ を見出した後、動く系のなかの電磁運動量、又はむしろその動く方向の成分を 容易に計算することができることである。実際、次式、 \[ {\bf G} = {1\over c} ∫ [{\bf D}.{\bf H}] dS \] は、次のことを示す。 \[ G_x = {1\over c} ∫(D_y H_z - D_z H_y) dS \] それゆえ、式(6)によって、 ${\bf H}'= 0$ であるから、 \[ G_x = {β^2 l^4 v \over c^2} ∫(D_y'^2 + D_z'^2) dS = {βlv\over c^2} ∫(D_y'^2 + D_z'^2) dS' \tag{22} \]


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§7. 2 番目の特別な場合は、粒子が電気的モーメントをもつ場合、すなわち、小さな空間$S$に全電荷$∫ρ dS = 0$だが、 積分、$∫ρx dS, ∫ρy dS, ∫ρz dS $が 0 と異なる値をもつ密度分布をもつ場合である。 $ξ, η, ζ$ を座標値として粒子の固定点 A に相対にとる。A は、中心といってよく、 電気的モーメントを、その成分が次式であるようなベクトル${\bf P}$とする。 \[ P_x=∫ρξdS, P_y=∫ρηdS, P_z=∫ρζdS \tag{23} \]

そして、 \[ {dP_x\over dt}=∫ρu_x dS, {dP_y\over dt}=∫ρu_y dS, {dP_z\over dt}=∫ρu_z dS \tag{24} \] もちろん、$ξ, η, ζ$が無限に小さいと扱われる場合、$u_x, u_y, u_z$も同様でなければならない。 我々は、これら6つの量の2乗と積は無視すべきである。

我々は、いま、荷電した粒子外部の有限の距離にある$P(x,y,z)$について、この点の局所時間が確定的な$t'$について のスカラーポテンシャル$φ'$を決定するために、式(17)を適用しなければならない。それをするのに、記号$[ρ]$を (17)では$dS$の局所時間が$t' - r'/c$であるときに関する値であったものとは、少し違った意味を与えなければならない。 $r'_0$を中心Aの$r'$の値として区別し、$[ρ]$をAの局所時間が$t'- r_0/c$である瞬間$t_0$の$(ξ,η,ζ)$の要素$dS$ にある密度値として理解しなければならない。

(5)から、この時刻が(17)の分子をとらなければならないので、次の単位時間だけ先行することを示すことができる。 \[ β^2 {vξ \over c^2} + {β(r'_0 - r') \over lc}= β^2 {vξ \over c^2} + {β \over lc}(ξ{∂r' \over ∂x} + η{∂r' \over ∂y} + ζ{∂r' \over ∂z}) \] この最後の表式では、微分係数に点Aのそれらの値をいれることができ、

(17) で、[ρ] を次で置き換える。 \[ [ρ] + β^2 {vξ \over c^2}[{∂ρ\over ∂t}] + {β\over c} (ξ{∂r'\over ∂x} + η{∂r'\over ∂y} + ζ{∂r'\over ∂z})[{∂ρ\over ∂t}] \tag{25} \] ここで再度、$[{∂ρ\over ∂t}]$は、$t_0$ に関するものである。いま、計算が実行される$t'$の値は、すでにこの時刻$t_0$に選ばれ、 それは、外部点Pの$x,y,z$座標の関数である。[ρ]の値は、それゆえ、次のように、これらの座標値に依存する。 \[ {∂[ρ]\over ∂x}= - {β\over lc} {∂r'\over ∂x} [{∂ρ\over ∂t}], etc. \] それによって (25) は次になる。 \[ [ρ] + β^2 {vξ \over c^2}[{∂ρ\over ∂t}] - (ξ{∂[ρ] \over ∂x} + η{∂[ρ]\over ∂y} + ζ{∂[ρ]\over ∂z}) \] 再度、もし、ここから我々は、今まで $r'_0$ と呼ばれたものを $r'$ によって理解するなら、係数 $1 \over r'$ は、 次によって置き換えなければならない。 \[ {1 \over r'} - ξ{∂ \over ∂x}({1 \over r'}) - η{∂ \over ∂y}({1 \over r'}) - ζ{∂ \over ∂z}({1 \over r'}) \] そうして、結局、積分(17)のなかで要素 dS に次を乗算する。 \[ {[ρ] \over r'} + {β^2 vξ \over c^2r'} [{∂ρ \over ∂t}] - {∂ \over ∂x} { ξ[ρ] \over r'} - {∂ \over ∂y} { η[ρ] \over r'} - {∂ \over ∂z} { ζ[ρ] \over r'} \] この式は、元の式よりも単純である。なぜなら、括弧に包含された量についてとられる $r'$ も時刻も、$x,y,z$ に依存しない からである。(23)を使って、そして$∫ρ dS = 0$ を思い出して我々は次を得る。 \[ φ'= {β^2 v \over 4πc^2r' } [{∂P_x \over ∂t}] - {1 \over 4π} {∂ \over ∂x} {[P_x] \over r'} + {∂ \over ∂y} {[P_y] \over r'} + {∂ \over ∂z} {[P_z] \over r'} \] この式のなかで、全ての括弧された量は、粒子の中心の局所時間が $t'- r'/c $ である瞬間にとる。

我々は、その成分が次の新しいベクトル${\bf P}'$の導入によって結論へ行かなければならない。 \[ P'_x= βl P_x, P'_y= lP_y, P'_z= lP_z \tag{26} \] 同時に$x',y',z'$を独立変数として渡し、最終結果は次である。 \[ φ'= {v \over 4πc^2r'} [{∂P'_x \over ∂t}] - {1 \over 4π} {∂ \over ∂x'} {[P'_x] \over r'} + {∂ \over ∂y'} {[P'_y] \over r'} + {∂ \over ∂z'} {[P'_z] \over r'} \] ベクトルポテンシャルの表式(18)については、無限小のベクトル${\bf u}'$を含むために、その変換は、より単純である。 (8),(24),(26)そして(5)を参照して、私は、次を見出す。 \[ {\bf A}'= {1 \over 4πcr'} {∂[{\bf P}'] \over ∂t} \] 荷電した粒子が作りだす場は、いま全て決定された。表式(13)は、次を導く。 \[ {\bf D}'= -{1 \over 4πc^2} {∂^2 \over ∂t'^2 } {[{\bf P}'] \over r'} + {1 \over 4π} grad' {∂ \over ∂x'} {[P'_x] \over r'} + {∂ \over ∂y'} {[P'_y] \over r'} + {∂ \over ∂z'} {[P'_z] \over r' } \tag{27} \]

そして、ベクトル${\bf H}'$は、(14)によって与えられる。我々は、さらにもとの表式(10)の代わりに、方程式(20)を使うことができる、 荷電した粒子によってある距離に置かれた他の同様の粒子に働く力を考察することを望むなら。実際、2番目の粒子のなかでは、 1番目だけでなく、速度${\bf u}$は無限小に保ってもよい。

注目すべきは、平行移動のない系の表式は、上記の式に含まれることである。加速のある系の量は、加速のない系の対応する量と 一致する;$β= 1$と $l= 1$においても。(27)の成分は、同時にひとつの荷電粒子から他のそれへ働く電気的力のそれである。


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§8. ここまで我々は、基本的方程式だけを新しい仮説なしに使用した。私はいま、静止状態で半径 R の球であるとした電子が、 平行移動の効果によってその大きさが変化し、運動方向に大きさが βl 倍に、垂直方向には l 倍に小さくなること を想定する。(訳注:運動方向に$1/β$倍、垂直に$1/l$倍)

この変形のなかで、$(1/βl, 1/l, 1/l)$によって表されるだろう各体積要素がその電荷を保存すると理解される。

我々の仮定は結局、速度$v$で動く電気的系Σのなかで全ての電子はその短軸が運動方向である平坦な楕円体になる、というのである。 いまもし、6章の定理を適用するためには、その系に$(βl, l, l)$の変形を施して、再び半径$R$の球形の電子を得なければならない。 このため、もし、$(βl, l, l)$の変形を適用することでΣ内の電子の中心の相対位置を変更するなら、そしてもし、こうして得られた これらの点のなかで、電子の中心を静止に保つなら、6章でそれについて述べた、想像上の系$Σ'$に一致する系を得るに違いない。 この系のなかの力とΣ内のそれらは、互いに式(21)で表される関係を維持するだろう。

次の段階として、次を想定する。そのような粒子や電子間の力だけでなく、荷電されていない粒子の間の力も、電気的な系での 電気的力と全く同じように、平行移動の影響を受けるだろう ということである。別の言葉で言えば、重さのある物体を構成 している粒子の性質が何であれ、それらが互いに相対的に動かない限り、移動なしの系$Σ'$の作用する力と、移動ありの系$Σ$のそれら との間には、(21)に示した関係を持たねばならない。もし、粒子の相対位置に関して、$Σ$から$Σ'$が変形$(βl, l, l)$によって得られ、 $Σ'$から$Σ$が変形$(1/βl, 1/l, 1/l)$で得られるならば。

このことから、$Σ'$のなかの粒子に結果の力が0であるなら、同じことが$Σ$の対応する粒子についても真でなければならないことをみる。 結果的に我々は想定する。もし、分子運動の効果を無視するなら、固体の粒子は、その近傍から働く吸引と反発の作用のもとの平衡にあり、 そしてもし、平衡の構成はひとつしかないことを当然と考えれば、我々は次のような結論を描いてよいだろう。 $Σ'$系は、もし速度$v$がそれに与えられれば、 自らの 変化をして、$Σ$系になるだろうという結論を。 言葉を代えれば、移動は、変形$(1/βl, 1/l, 1/l)$を作りだすのである。

分子運動の場合は、12章で考察されるだろう。

Michelson実験に関連して、以前に開発された仮説が、いま述べたことのなかに含まれることは、容易にみることができるであろう。 しかし、現在の仮説は、より一般的である。なぜなら、運動に課せられた唯一の制限は、その速度が光の速度より小さいことであるから。


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§9. いま、単独の電子の電磁的運動量を計算する段階である。単純さのために、電荷$e$が静止している限り、電子の表面に均一に分布すると仮定する。 そのとき、同種の分布が、我々が(22)の最後の積分に関係した、$Σ'$系にも存在するであろう。こうして、 \[ ∫(D_y'^2 + D_z'^2) dS' = {2 \over 3} ∫D'^2 dS' = {e^2 \over 6π} ∫_R^∞ {dr \over r^2} = {e^2 \over 6πR} \] そして、 \[ G_x= {e^2 \over 6πc^2R} βlv \] その$βl$積が$v$の関数であること、そして対称性の理由からベクトル${\bf G}$が移動の方向をもつことを観察しなければならない。 一般に、$v$によって運動の速度を表わし、次のベクトルの式を得る。 \[ {\bf G}= {e^2 \over 6πc^2R} βl{\bf v} \tag{28} \] いま、系の運動のどの変化も対応する電磁運動量の変化を課するから、何らかの力が必要で、その方向と大きさは次式が与える。 \[ {\bf F}= {d{\bf G} \over dt} \tag{29} \] 厳密にいえば、(28)式は、直線的な移動の場合にだけ適用されてよいものである。この状況を考慮すると、ー(29)は、つねに正しいがー 電子の急速な運動の変化の理論は、非常に複雑になる。さらにそうであるのは、8章の仮説は、変形の方向と量が連続的に変化すること を意味するからである。電子の形態が考慮する瞬間に存在する速度だけで決定されるということは、確かに、ほとんどありそうもない。

にも関わらず、運動の状態の変化が十分にゆっくりであれば、我々は、(28)を使ってどの瞬間も満足な近似を得るに違いない。 (29)を Abraham (*)が呼ぶ、そのような準静的移動に適用することは、非常に単純である。${\bf a}_1$を経路方向の加速とし、 ${\bf a}_2$を垂直な加速とする。そのとき、力${\bf F}$は、これらの加速の方向をもつふたつの成分で構成され、次で与えられる。 \[ {\bf F}_1 = m_1 {\bf a}_1, {\bf F}_2= m_2 {\bf a}_2, \] もし、 \[ m_1= {e^2 \over 6πc^2R} {d(βlv) \over dv}, and\hspace{2mm} m_2= {e^2 \over 6πc^2R} βl \tag{30} \] このゆえ、運動の方向の加速があるときの現象には電子は、質量$m_1$をもつかのように振舞い;加速が経路に垂直であるとき、$m_2$で あるかのように振舞う。これらの量、$m_1$と$m_2$とは、それゆえ、適切に、電子の電磁的質量の "縦" と "横" と呼ばれる。 私は、 それ以外に "真の" 又は "物質的な" 質量というものはない と推量する。

$β$と$l$が1から違いは、$v^2/c^2$のオーダーの量によるから、我々は非常に小さな速度について、次を見出す。 \[ m_1= m_2= {e^2 \over 6πc^2R} \] これは、移動なしの系で、電子の小さな振動運動があるとき、我々が関心をもつものである。もしそうでなく、$x$軸方向に速さ$v$で 動く物体のなかでこの種の運動が実行されるなら、その軸に平行な振動には、(30) の与える$m_1$を、OY, OZ に平行な振動は、$m_2$を 質量としなければならないだろう。それゆえ、短い言葉では、動く系を添字$Σ$で参照して、$Σ'$で静止に留まるものを参照し、 \[ m(Σ)= ({d(βlv) \over dv}, βl, βl) m(Σ') \tag{31} \] (*) Abraham, Wied. Ann. 10, 1903, p.105.


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§10. 我々はいま、透明な物体の系のなかの光学現象への地球の運動の影響の検証に進むことができる。この問題を議論するのに 系の粒子又は"原子"のなかの可変な電気的な運動量に注意を固定する。これらの運動量に対して7章で述べたことが適用できる。 単純さのために次のように仮定する。各粒子のなかで電荷は、幾つかの数の分離した電子に集中しているとする。同じ原子の境界のなか に起源をもつ"可塑的"な力がそれらの内のひとつに作用し、電気的力と共同して、その運動を決定するとする。

平行移動のない系にどのような運動状態が与えられても、それから、同じ系が平行移動が与えられた後の存在できる対応する状態に還元 できることを示す。その種の対応性を以下に記述する。

(a)$A'_1, A'_2, A'_3$等を平行移動なし($Σ'$)の粒子の中心とし;分子運動を無視して、これらの点が静止に留まると仮定する。動く系 $Σ$のなかでの粒子の中心が形成する点の系、$A_1, A_2, A_3$等が、$A'_1, A'_2, A'_3$等から変形$(1/βl, 1/l, 1/l)$によって得られるとする。 8章に述べたことに従って、もし始めに平行移動の前に$A_1, A_2, A_3$等を取った中心は、それら自身の位置$A'_1, A'_2, A'_3$等をとる。

系$Σ'$の空間の点$P'$をとればそれは、上述の変形によって変位したものとして、$Σ$の確定点$P$に対応するものと考えることができる。 ふたつの対応点、$P'$と$P$は、対応する瞬間に定義し、ひとつが$P'$に属し他方は$P$に属し、最初の瞬間に真の時間が局所時間に等しく、 次の瞬間(5)によって$P$のために決定されたようにいうことによって。ふたつの対応粒子の対応時間によって、これらの粒子の中心 $A'$と$A$に注意を固定すれば、時間と対応というべきものを理解する。

(b) 原子の内部状態に関して、ある時間の$Σ$のなかの粒子$A$の構成を、変形$(1/βl, 1/l, 1/l)$によって、$Σ'$の対応する粒子$A'$ のそのように対応する時刻の構成から導くことができよう。この仮定が電子自身の形態に関係する限り、8 章の最初の仮説に含まれる。

明らかに、$Σ'$の系の現実に存在する状態から開始すれば、いま、動く系Σの完全に定義された状態をもつ。しかしながら、この状態 が同様に可能かどうか、という問題が残る。

これを判定するために、最初の段階として、動く系に存在すると仮定し$P$によって記述した、電気的運動量が、粒子の中心$A$の$x,y,z$ の、又は粒子の座標と時間$t$の、ある確定した関数であろうことに注目しよう。$P$を一方とし$x,y,z,t$を他方にする関係を表す式は、 (26)で定義するベクトル$P'$と(4),(5)で定義する$x',y',z',t'$を含む他の式によって置き換えられる。いま、上の$a, b$の仮定に よって、もし、動く系のその座標が$x,y,z$である粒子$A$のなかに電気的運動量を時刻$t$又は局所時間$t'$に見出すならば、(26)に よって与えられるベクトル$P'$は、他の系のなか真の時間$t'$にその座標$x',y',z'$をもつ粒子に存在する運動量であろう。この方法で 次のことが明らかになった。$P',x',y',z'$の間の式は、両方の系で同じであり、違いはただ、移動なしの$Σ'$系のこれらの記号が運動量、 座標、真の時間であるのに対し、動く系についてはそれらの意味が異なり、$P', x',y',z',t'$が(26),(4),(5)で表す仕方で運動量$P$ 座標$x,y,z$一般的な時間$t$に関係することである。

式(27)が両方の系に適用することは、すでに述べた。ベクトル$D'$は、それゆえ、対応する場所と時間に比較する限り、$Σ'$と$Σ$で同じ である。しかしながら、このベクトルは、ふたつの場合で同じ意味をもたない。$Σ$ ではそれは電気力を表し、$Σ$では(20)に表される力 に関係する。それゆえ、動電力の作用は、$Σ$と$Σ'$とで対応粒子、対応時刻に、互いに(21)の決める関係を保つと結論する。仮定(b)のおかげで、 8章の第2の仮説と関連し"可塑的"力との間に同じ関係が存在するだろう; 結果的に、式(21)は、対応電子の対応時刻に作用する、力全体の間の関係を表しているとみてよい。

もし$Σ$と$Σ$'のなかで、質量と電子の加速との積が互いに力と同じ関係をもつなら、動く系のなかに存在すると仮定した状態が現実に可能 であろう。すなわち、もし、 \[ ma(Σ)= (l^2, {l^2 \over β}, {l^2 \over β}) ma(Σ'), \tag{32} \] いま、加速度には次を得、 \[ a(Σ)= ({l \over β^3}, {l \over β^2}, {l \over β^2}) a(Σ'), \tag{33} \] (4),(5)から導かれ、そして(32)と結合して質量には、 \[ m(Σ)= (β^3l, βl, βl) m(Σ') \] (31)と比較すれば、移動と垂直方向の振動を考慮するとき$l$の値が何であれ、みなすべき質量に関して、 その条件をつねに満たすことは明らかである。それゆえ、$l$に課するのは、 \[ {d(βlv) \over dv} = β^3 l \] しかし、(3)を計算にいれて、 \[ {d(βv) \over dv} = β^3 \] そのため、次になる。 \[ {dl \over dv}= 0, l= const. \] すでに$v= 0$には$l= 1$を知るから、定数の値は、1でなければならない。

我々は、それゆえ、次の仮定に導かれる。 平行移動の (分離した電子の、又は質量のある物体全体としての) 大きさへの影響は、 運動方向のそれに限定され、これらは、静止状態にあるときより$β$倍に小さくなる。 (訳注:$1/β$倍になる) もし、この仮説を すでにした仮説に付加すれば、ひとつは動く系のなかに、もうひとつは同じ系のなかで静止した、ふたつの状態が、上述したように 対応して両方とも可能であろうことが確かになる。さらにこの対応は、粒子の電気的な運動量に限定されない。両方ともエーテルの なかに位置する対応点には、対応する時刻に粒子間に又はそれを囲む重さのある物体に、同じベクトル$D'$と、容易に示せるように、 同じベクトル$H'$とを見出す。次のようにいってまとめられる:もし、平行移動のない系のなかに運動状態があって確定した場所の $P, D, H$の各成分が時間のある関数としてあるとき、その同じ系が運動状態にされた後、(それゆえ変形されたとき) その対応場所の $P', D', H'$の各成分がその局所時間の同じ関数であるような、その運動状態の座席にいることができる。

さらに考察を要する点がある。準静止運動の理論から演繹された質量$m_1, m_2$の値は、急速な光の振動の場合それらを考慮にいれた 正当化ができるかという質問が持ちあがる。いま、より詳細な検討によって、その直径を光の波が通過するのに要する時間の間に変化 が非常に小さいなら、電子の運動が準静的とみなせることが分かる。電子の直径は光の波長と比べて非常に小さいから、この条件は、 光学現象において満たされる。


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§11. この提案する理論が多くの事実を説明できることは容易に見て取れる。

最初の段階として、平行移動のない系で、その幾らかの部分で持続的に${\bf P}= 0, {\bf D}= 0, {\bf H}= 0$であるような場合をとろう。そのとき、 運動する系への対応状態として、対応する部分に(又は、言い替えれば変形した系の同じ部分に)、${\bf P}'= 0, {\bf D}'= 0, {\bf H}'= 0$をもつ。 これらの式は、 (26), (6) によって見られるように、${\bf P}= 0, {\bf D}= 0, {\bf H}= 0$を意味し、系が静止した場合に暗い部分は、運動を与え られた後もそうあり続けるということを表す。それゆえ、地上の光源によって構成され、そのなかで光と暗さの幾何学的分布を 観測する、どの光学実験も地球の運動の影響を検出することは、不可能であろう。多くの干渉と回折の実験がこの分類に属する。

次の段階として、もし、系のなかの 2 点に同じ偏光状態の光線を同じ方向に伝播させ、これらの点の振幅の間の比は、平行移動に よる変更を示さないであろう。後者の批評は、そのなかで視野内の隣接の部分の強度が比較される実験に適用される。

上の結論は、以前の同様な思考の列、しかしながら、そのなかで 2 次のオーダーの項を無視したもの、から得た結果を確認する。 それらは、またも、Michelson の否定的結果の説明を含む。以前に与えたものより一般的な、そして何か異なった、そしてそれらは、 Rayleigh と Brace がどうして地球の運動によって作られる複屈折の印を見出せなかったかを示す。

Trouton と Noble の実験については、8 章の仮説を受け入れれば、彼らの否定的結果は直に明確になる。これらから、最後の仮説 (10章)、平行移動の唯一の効果は、コンデンサーとビームと張力バランスの紐を構成する、電子と他の粒子の全体の系の短縮である ことから推測できる。そのような短縮は、方向の感知できる変化を引き起こさない。

現代の理論が全ての支払いが予約されたように、これからも通用するとは、とても言えない。私にはそれは、全てのよく確立した事実 を説明するが、実験のテスト結果をまだ付けられない幾つかの結末を導くように見える。これらのひとつは、Michelson の実験の結果 が、もし光の干渉光線を重さのある透明物体のなかを通して旅させるならば、否定的を続けなければならないことである。

我々の電子の短縮に関する仮定は、それらしいとか許容できないとか、それ自身いえるものではない。電子の性質について我々の知る ことは非常に少なく、我々の方法を先に推進する唯一の手段は、ここで私が作ったような仮説をテストすることであろう。もちろん、 困難はあるだろう。例えば、電子の回転について考察を始めるとすぐに。多分、その現象のなかに、平行移動がなければ球形な電子は 直径の辺りを回転しているだろうが、動く系のなかの電子の点は、他の場合に記述される円形経路に対応して、10 章に記述された仕方で、 楕円経路を描くであろう。


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§12. 分子運動について言うべき言葉を少し残した。物体はそのなかでこれが検知できる影響をもつ又は優勢でさえありえる、 粒子系と同じ変形を一定のその相対位置にだけ受けると考えられてよく、今まで述べた。実にふたつの分子系、$Σ'$と$Σ$、始めのは 平行移動なし、2 番目は平行移動ありのなかで、我々は分子運動を互いに次の方法で対応するものと想像してよい。もし、$Σ'$のなか 粒子がある確定的瞬間にある位置をもつならば、$Σ$のなかの粒子は、対応する瞬間に対応する位置を占める。これを仮定して、(33) の関係を、分子運動の速度が$v$と比べて非常に小さい全ての場合に、加速度の間に使うことができる。これらの場合、分子間力は、 分子運動の速度とは独立に相対位置によって決められるとしてよい。もし、最終的に我々がこれらの力を粒子が互いに作用する そのような小さな距離に限定すると仮定するなら、局所時間の違いは無視されてよく、粒子のひとつとその吸引反発の球のなかに あるものとを含めて、頻述した変形を受ける系をなすであろう。8章の2番目の仮説のおかげで、我々はそれゆえ、結果の粒子に作用 する分子間力に式(21)を適用できる。結果的に力と加速の間の固有の関係は、ふたつの場合に存在するだろう。もし我々が次を仮定 するなら、 全ての粒子の質量の平行移動による影響は、電子の電磁質量と全く同じ程度であること。


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§13. 電子の縦質量と横質量に私が見出した (30)の値は、以前に Abraham によって得られた値と同じでない。この違いのもとは、 彼の理論のなかでは電子が不変の大きさをもつ球として扱う環境だけにあると思われる。いま、横質量については、Abraham の結果 は、最も注目すべき方法によって確認された。Kaufmann による電磁場中のラジウム線の曲りの測定である。それゆえもし、私の提案 理論への最も重大な反論がないなら、その測定が Abraham の結果と同じく、私の値にも合致を示すことが可能でなければならない。

Kaufmann (*)によって 1902 年に出版されたふたつの測定のシリーズを議論することから始める。各シリーズから、彼はふたつの量、 $η$と$ζ$とを演繹し、"縮小された"電磁偏向という、それは、次のように$γ= v/c$に関係する:ー \[ γ= k_1{ζ \over η}, Ψ(γ)= {η \over k_2 ζ^2} \tag{34} \] ここで$Ψ(γ)$は横質量が次で与えられる関数である。 \[ m_2 = {3 \over 4} {e^2 \over 6πc^2R} Ψ(γ) \tag{35} \] 各シリーズで$k_1$と$k_2$は一定である。

(30)の第2番目の式から私の理論も同様に(35)の形の式を導く; Abraham の関数$Ψ(γ)$を次に置き換えなければならないだけである。 \[ {4 \over 3} β= {4 \over 3} (1 - γ^2)^{-{1/2}} \] ここから、私の理論は、(34)の$Ψ(γ)$をこの値で置き換えても、これらの式がやはり成立することを、必要とする。もちろん、よい一致 を得るため$k_1$と$k_2$に Kaufmann の値とは他の値をとること、それぞれの測定毎に速度$v$又は比$γ$に適切な値をとることは正当化される。 新しい値に$s k_1, {3/4} k'_2, γ$ と書いて (34)を次の形にする。 \[ γ'= s k_1{ζ \over η} \tag{36} \] と \[ (1 - γ'^2)^{-{1/2}} = {η \over k'_2ζ^2 } \tag{37} \] Kaufmann は、$k_1$を選び、(34)の手段で$γ$と$k_2$とを計算し、後者の数が各シリーズで実際に一定になることで彼の式をテストした。 この一定性が十分な一致の証明であった。

私も同様な方法だが、幾つかの数は Kaufmann の計算を使った。私は各測定に次の式の値を計算した。 \[ k'_2 = (1 - γ'^2)^{1/2} Ψ(γ) k_2, \tag{38} \] それは、(37) と (34) の第2式から得られる。$Ψ(γ)$と$k_2$は Kaufmann の表から取り、$γ'$には彼の見出した$γ$に$s$を掛けたものに 置き換えた。後者は、(38)の一定性を得るように見て選ばれた。結果は、Kaufmann の論文の表 III と IV に対応して次頁の表に含めた。

                   III.  s= 0.933
+---------+----------+----------+----------+-----------+
|    γ   |  Ψ(γ)  |   k_2    |    γ'   |   k'_2    |
+---------+----------+----------+----------+-----------+
|  0.851  |  2.147   |  1.721   |  0.794   |   2.246   |  
|  0.766  |  1.86    |  1.736   |  0.715   |   2.258   |
|  0.727  |  1.78    |  1.725   |  0.678   |   2.256   |
|  0.6615 |  1.66    |  1.727   |  0.617   |   2.256   |
|  0.6075 |  1.595   |  1.655   |  0.567   |   2.175   |
+---------+----------+----------+----------+-----------+

                   IV.  s= 0.954
+---------+----------+----------+----------+-----------+
|    γ   |  Ψ(γ)  |    k_2   |    γ'   |   k'_2    |
+---------+----------+----------+----------+-----------+
|  0.963  |  3.28    |  8.12    |  0.919   |   10.36   |  
|  0.949  |  2.86    |  7.99    |  0.905   |    9.70   |  
|  0.933  |  2.73    |  7.46    |  0.890   |    9.28   |  
|  0.883  |  2.31    |  8.32    |  0.842   |   10.36   |  
|  0.860  |  2.195   |  8.09    |  0.820   |   10.15   |  
|  0.830  |  2.06    |  8.13    |  0.792   |   10.23   |  
|  0.801  |  1.96    |  8.13    |  0.764   |   10.28   |  
|  0.777  |  1.89    |  8.04    |  0.741   |   10.20   |  
|  0.752  |  1.83    |  8.02    |  0.717   |   10.22   |  
|  0.732  |  1.785   |  7.97    |  0.698   |   10.18   |  
+---------+----------+----------+----------+-----------+

$k'_2$の一定性は、ただふたつの測定から決めた$s$の値の場合、$k_2$のそれより満足は小さくなく大きい。その係数は、ふたつの測定から 決められた。表 III では最初と最後から二つめの測定から、表 IV では最初と最後からである。$k'_2$の値は、$k_2$のそれらに比例すべき である。

次に Kaufmann (+)のより最近の出版からふたつのシリーズについて考察を行う。Runge (++)による計算の最小自乗法によって、$k_1$と$k_2$ が次の方法で決定される。各観測によるζから Kaufmann の(34)によって$η$が計算され、$η$の観測値にできるだけ近くなるようにする。

同じ条件で、同様に最小自乗法を使い、次の$a, b$の定数を決定する。 \[ η^2 = a ζ^2 + bζ^4 \] それは、(36), (37) から導くことができる。a, b を知ることで次の関係を手段として各測定のγを見出す。 \[ γ= \sqrt{a} {ζ \over η} \] Kaufmann は、ふたつの表のために電磁偏向を測定した。結果は、次に示す。偏向は cm で与えられる。

私は、Kaufmann の論文の他の表を計算する時間がなかった。それらは、Plate 15 の表のように、観測から導出されたものと Runge による 計算とのηの値の間にむしろ大きな負の差をもって始まる。我々は、我々の式との満足な一致を期待してよい。

              Plate No.15. a= 0.06489, b= 0.3039.
+---------+----------------------------------------------------+-------------------+
|   ζ    |                          η                        |        γ         |
|         +-----------+----------+---------+----------+--------+-------------------+
|         | Observed  |Calculated|  Diff.  |Calculated|  Diff. |   Calculated by   |
|         |           |   by R.  |         |   by L.  |        |   R.    |   L.    |
+---------+-----------+----------+---------+----------+--------+---------+---------+
| 0.1495  |  0.0388   |  0.0404  |   -16   |  0.0400  |  -12   |  0.987  |  0.951  |
| 0.199   |  0.0548   |  0.0550  |   - 2   |  0.0552  |  - 4   |  0.964  |  0.918  |
| 0.2475  |  0.0716   |  0.0710  |   + 6   |  0.0715  |  + 1   |  0.930  |  0.881  |
| 0.296   |  0.0896   |  0.0887  |   + 9   |  0.0895  |  + 1   |  0.889  |  0.842  |
| 0.3435  |  0.1080   |  0.1081  |   - 1   |  0.1090  |  -10   |  0.847  |  0.803  |
| 0.391   |  0.1290   |  0.1297  |   - 7   |  0.1305  |  -15   |  0.804  |  0.763  |
| 0.437   |  0.1524   |  0.1527  |   - 3   |  0.1532  |  - 8   |  0.763  |  0.727  |
| 0.4825  |  0.1788   |  0.1777  |   +11   |  0.1777  |  +11   |  0.724  |  0.692  |
| 0.5265  |  0.2033   |  0.2039  |   - 6   |  0.2033  |    0   |  0.688  |  0.660  |
+---------+-----------+----------+---------+----------+--------+---------+---------+

              Plate No.19. a= 0.05867, b= 0.2591.
+---------+----------------------------------------------------+-------------------+
|   ζ    |                          η                        |        γ         |
|         +-----------+----------+---------+----------+--------+-------------------+
|         | Observed  |Calculated|  Diff.  |Calculated|  Diff. |   Calculated by   |
|         |           |   by R.  |         |   by L.  |        |   R.    |   L.    |
+---------+-----------+----------+---------+----------+--------+---------+---------+
| 0.1495  |  0.0404   |  0.0388  |   +16   |  0.0379  |  +25   |  0.990  |  0.954  |
| 0.199   |  0.0529   |  0.0527  |   + 2   |  0.0522  |  + 7   |  0.969  |  0.923  |
| 0.247   |  0.0678   |  0.0675  |   + 3   |  0.0674  |  + 4   |  0.939  |  0.888  |
| 0.296   |  0.0834   |  0.0842  |   - 8   |  0.0844  |  -10   |  0.902  |  0.849  |
| 0.3435  |  0.1019   |  0.1022  |   - 3   |  0.1026  |  - 7   |  0.862  |  0.811  |
| 0.391   |  0.1219   |  0.1222  |   - 3   |  0.1226  |  - 7   |  0.822  |  0.773  |
| 0.437   |  0.1429   |  0.1434  |   - 5   |  0.1437  |  - 8   |  0.782  |  0.736  |
| 0.4825  |  0.1660   |  0.1665  |   - 5   |  0.1664  |  - 4   |  0.744  |  0.702  |
| 0.5265  |  0.1916   |  0.1906  |   +10   |  0.1902  |  +14   |  0.709  |  0.671  |
+---------+-----------+----------+---------+----------+--------+---------+---------+

(*) Kaufmann, Physik. Zeitschr., 4, 1902, p.55.
(+) Kaufmann, Gött. Nachr. Math. phys., Kl., 1903, p.90.
(++) Runge, ibid., p.326.