マイケルソンの干渉実験

H. A. ローレンツ

The Principle of Relativity (DOVER 出版) 収録の Michelson's Interference experiment, by H. A. Lorentz から、訳 片山泰男
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1. Maxwell が最初に注目したように、そして、非常に簡単な計算から導かれるように、もし 2 点がともにエーテルを従えずに 運動をしているとき光線が A 点から B 点に行くのと A に戻るのに要する時間は、異ならなければならない。 その違いは、確かに 2次のオーダーであるが(訳注)、高感度の干渉方法によって検出されるに十分な大きさである。

その実験は、Michelson によって 1881 年になされた(*)。 彼の装置、ある種の干渉計は、等しい長さで互いに直角なふたつの 水平な腕 P と Q とをもっていた。ふたつの互いに干渉する光線のひとつが腕 P にそって往復し、他は、腕 Q にそって往復した。 全体の機器は、光源と観測のための配置を含めて、垂直軸のまわりに回転できた;そして、腕 P 又は腕 Q が地球の運動方向に 可能な限り近い、ふたつの位置がとくに考慮の対象となる。Fresnel の理論に基づいて、もし、装置をこれらの "基本位置" の ひとつから他へ回転したとき干渉縞の移動があるだろう、と予期された。

しかし、伝播時間によって左右される、そのような移動 ー簡潔さのために我々はそれを Maxwell の移動と呼ぶー の痕跡は、 発見されなかった。そのため、Michelson は、地球が動いているためにエーテルが静止のままでないと結論することによって 自身が正当化されると考えた。この推定の訂正は、すぐに疑問を付された。Michelson は、彼の過失によって、理論に従って 期待される位相差を適切な値の 2 倍に変更していたからである。もし、我々が必要な訂正を行えば、我々は、観測誤差によって マスクされるより大きくない移動に到達する。

(*) Michelson, American Journal of Science, 22, 1881, p.120.


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その後、Michelson は、Morley と共同(*)してその研究を改めて再開した。機器の感度を増強し、各ペンシルでいくつかの鏡の 間に光を何度も往き来させ、それによって以前の装置の腕の長さをかなり長くしたのと同じ利点を得ることができるようにした。 鏡は、重い石の円盤に設置して、それを水銀に浮かして、容易に回転できるようにした。各ペンシルは、今は総距離 22 m を 旅行しなければならないようにして、Fresnel の理論に基づいて、ひとつの基本位置から他へ移したときの移動が干渉縞間の 距離の 0.4 を期待できるようにした。それにも関わらず、その回転は、その距離の 0.02 を超えない移動しか生み出さず、 そして、これらはよく観測の誤差に帰すことができた。

いま、この結果は、我々に、エーテルが地球の運動の一部を担うと仮定する権利を与えるだろうか、そして、それゆえ Stokes によって与えられた aberration の理論が正しいのだろうか。この理論が aberration を説明するのに遭遇している困難は、 私がこの意見を分け持つには大きすぎ、私は、むしろ Fresnel の理論と Maxwell の結果との間の相克を取り除こうとした。 私がある過去に提出した仮説(+)は、そして私はその後に知ったが、Fitzgerald (**) にも起き、我々にこれをすることを可能 にした。次の段落にこの仮説を陳述する。

(*) Michelson and Morley, American Journal of Science, 34, 1887, p.333; Phil. Mag.,24, 1887, p.449.
(+) Lorentz, Zittingsverslagen, der Akad. v. Wet. te Amsterdam,1892-93, p.74.
(**) Fitzgerald は、親切にも彼が長い間彼の講義のなかで彼の仮説を扱って来たという。唯一見出された、仮説の出版された 参照は、Lodge による。"Abberation Problems", Phil. Trans. R.S., 184A, 1893.


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2. ものごとを単純にするため、我々が最初の実験で使われた装置をもち、そしてそのひとつの基本位置、腕 P が地球の運動の 方向に正確に置かれていると仮定する。動きの速度を v とし、L を各腕の長さ、それゆえ 2L が光線が通過する距離である。 理論に従って(*)、装置を90度回転するとき(と比べて) P にそって往復旅行するのに要する時間は、他のペンシルにおいて完全 なその旅をする時間よりも、 \[ Lv^2 \over c^3 \] だけ長くなる。これと同じ差は、運動が影響を与えず、腕 P が腕 Q より ${1\over 2} L v^2/c^2$だけ長いとき起きる。 これは、第2の基本位置においても同様である。

このように、理論から予想される位相差も同様に発生することをみる。もし、装置が回転すれば、最初にひとつの腕、そして次に 他の腕が長いかのようになる。そのことから、位相差は、長さの反対変化によって補償できることがわかる。

もし、我々が地球の運動の方向に置かれた腕が他方と比べて 1/2 Lv^2/c^2 だけ短いなら、そして、同時に Fresnel の理論が それに許すように運動が影響するなら、そのとき、Michelson の結果は、完全に説明できる。

このように、(銅の棒のような、又は後の実験での石の円盤のような)固体が静止エーテルのなかでする運動は、その物体の長さ に対して、運動の方向に関して物体の方向に従って変わるという影響を働かせる、ということを想像しなければならないのかも しれない。もし例えば、この方向に平行な長さが 1 から 1 + δ に比例して変化し、それと垂直な方向では 1 から 1 + ε に比例して変化するならば、そのとき、我々は次の式をもつべきである。 \[ ε - δ = {1\over 2} {v^2\over c^2} \tag{1} \] そのなかのδとεのひとつの値が未決定に残されている。$ε= 0, δ= -{1 \over 2} v^2/c^2$ かもしれず、しかし、また$ε={1\over2} v^2/c^2, δ= 0$ または、$ε= {1 \over 4} v^2/c^2$ かつ $δ= -{1 \over 4} v^2/c^2 $ かもしれない。

(*) Lorentz, Arch. Neerl., 2, 1887, pp. 168-176 参照。


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3. この仮説を最初にみるときは驚くかもしれない、しかし、それが決して遠くから持ってきたものでないことを、我々は認め なければならない。それらの電気的又は磁気的力と同じく、分子間力もまたエーテルのなかを伝送されることを我々が 想像するとすぐに、この説をいまにも確定的にすることができる。もし、それらがそのように伝送されるなら、運動は、ふたつ の分子や原子の間の作用に、電荷をもった粒子間の吸引や反発と似た方法によって、影響することが非常にあり得る。 いま、固体の形態と長さとが究極的には分子作用の強さによって左右されるから、長さの変化がないということは、決してない。

それゆえ、理論的な側からこの仮説に反論はないだろう。その実験的証明に関しては、問題とする延長または短縮が極端に 小さいことを、我々は、まず注意しなければならない。我々は、$v^2/c^2 = 10^{-8} $であること、そしてそのため、地球の半径の 短縮は、約 6.5 cm の量である。1 m の測定棒は、ひとつの基本位置から他に動かすとき、約 1/200 ミクロン変化するだろう。 そのような小さな量の検出の試みが成功することは、干渉法による手段以外では期待することはほとんどできない。 我々は、ふたつの直交する棒とふたつの互いに干渉する光のペンシルを使って最初の棒にそって光を往復させ、他をもうひとつ の棒にそわせる。しかし、この方法では我々はもう一度、Michelson 実験に戻り、そして装置を回転させ干渉縞の移動がないこと を検出しなければならない。以前の注目と反対に我々は、いま、長さの変化が作りだした移動が Maxwell 移動を補償した、 といってよいかもしれない。


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4. 我々が上で推定したのと丁度同じ長さの変化に導かれたことは、注意する価値がある、もし、第1に分子運動を考慮にいれな いとき、固体のなかで吸引と反発の力はそのまま残り、どの分子もそれぞれの平衡状態を保持すると仮定するなら、そして、 第2に、ー確かにそうする理由がないがー もし、我々が分子間力に別の場所で(*)静電作用に引き出した法則を適用するならば。 なぜなら、もし我々がいま、S1 と S2 によって、以前のふたつの荷電粒子系でなく、ふたつの分子の系を理解するなら、 ー 2番目(S2)が静止し、最初の(S1)が x 軸の方向に速度 v で運動しているー それらの長さの間に前述と同じ関係が残る; そしてもし、我々が両方の系の力の x 成分が等しく、y, z 成分がひとつ(S1)と他(S2)が$\sqrt{1-v^2}$の比率で異なると仮定すると、 そのとき、S1 のなかの力は、S2 でそうである限り、平衡状態であることは明らかである。 それゆえもし、S2 が静止状態で固体物体の平衡状態であるなら、そのとき、S1 の分子は、正確にそれらの位置をとり、運動の 影響の下で持続できるようにする。運動は、自然に分子の自発的な変位を引き起こし、そうして、上に述べた節の 与式に従って、運動方向の 1 対$\sqrt{1-v^2/c^2}$ の比率の短縮の効果をもたらす。これは、(1) 式を満たす次の値を導く。 \[ δ= - {1 \over 2} {v^2\over c^2}, ε= 0 \] 現実のなかで物体の分子は静止していないが、どの"平衡状態"にも定常的な運動がある。我々が考慮してきた現象のなかで、 何が影響力をこの状況に持ち得るかというのは、ここで我々が言及しない問いである;いずれにしても、Michelson と Morley の実験は、避けられない観測誤差の結果、δとεの値にかなりの許容範囲を与える。

(*)Viz., 23 of the book,"Versuch einer Theorie der elektrischen und optischen Erscheinungen in bewegten Korpern."


訳注:移動方向に平行な 2 点間の行きと帰りの時間差は、速度の 1次である。往復時間の方向による違いが速度の 2次である。 この論文、H.A. ローレンツによるマイケルソン実験のヌル結果の説明は、起きるべき現象が起きないことを説明するためだけに 導入された短縮が主題である。そのため、その短縮の程度について現象が丁度起きないだけの大きさである根拠がない。 2. で形態変化の仮説を示すが、運動方向の形態の短縮δとそれに垂直な 2 方向のεの伸長の任意性が残る。 3. でその存在主張と、その極端な小ささの説明、Michelson 実験で干渉縞の移動が検出されない当然の必要性。 4. で平衡状態の移動を使って説明し、任意性を除去しようとする。 また、4. のδとεの2変数をひとつにする根拠は、理解が難しい。エーテルの力学的特性を仮定して、不明な分子間力へ矛盾の しわ寄せをするのは、合理的でもなく誤りでもある。結局それは、力学ではなく座標変換であった。 特殊相対論の "ローレンツ短縮" は、こうして発見されたのである。