ハミルトン原理と一般相対論

A. アインシュタイン


The Principle of Relativity (DOVER 出版) 収録の " Humilton's principle and the general theory of relativity", by A. Einstein (Translated from "Humiltonsches Princip und allgemeine Relativistätstheorie," Sitzungsberichte der Preussischen Akad. d. Wissenschaften, 1916.) から、訳 片山泰男
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目次

  1. 重力と物質の場の方程式と変分の原理
  2. 重力場の分離した存在
  3. 不変の理論によって条件付けられる重力の場の方程式の特性


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一般相対論は、最近、H. A. Lorentz と D. Hilbert(*) によって特に明確な形式で与えられた。彼らは、その方程式を単独の 変分原理だけから導いたのである。この論文では同じことをする。しかし、私のここでの目的は、その基本的な関係をできるだけ 明快な仕方で、一般相対論の視点から許される限りの一般的な用語によって示すことである。特に我々は、できるだけ少数の特別 な仮説を採ることによって、その主題の Hilbert の扱いと対比を印すだろう。一方では、私自身の最近の主題の扱いとは正反対に、 座標系の選択において完全な自由があるとする。

§1. 重力と物質の場の方程式と変分の原理

重力を記述するのに通常と同じく$g_{μν}$(又は$g^{μν}$)テンソル(+)を使おう;そして、物質には、電磁場を含めて、任意の数の時空の関数 $q_(ρ)$ を使おう。どのようにこれらの関数が不変の理論の中で特徴付けられるかは、我々は関心をもたない。さらに、$H$を次のもの達の関数とする。 \[ g^{μν}, g^{μν}_σ(={∂g^{μν} \over ∂x_σ}), g^{μν}_{στ}(= {∂^2g^{μν} \over ∂x_σ∂x_τ}), q_(ρ), q_(ρ)α(= {∂q_(ρ)\over ∂x_α}) \] 変分原理、 \[ δ∫Hdτ= 0 \tag{1} \] は、我々に $g_{μν} $と $q_(ρ)$ の定義された関数のあり得るだけの微分方程式を与える。もし、$g_{μν}$ と $q_(ρ)$ が互いに独立に変化し、 そして、$δq_(ρ), δg_{μν}, {∂ \over ∂x_σ} (δg_{μν})$ の関数の積分が極限において全て消滅するような方法で。

我々はいま、$H$が $g_{στ}$のなかで線形とし、$g^{μν}_{στ}$の係数が $g^{μν}$だけに依存すると仮定する。我々は、そのとき、変分原理 (1) を我々にとって、より便利なものに置き換えることができる。なぜなら、適切な部分積分によって、次を得るから。 \[ ∫Hdτ= ∫H* dτ + F \tag{2} \] ここで、$F$ は、問題の領域の境界を被うある積分を表し、$H*$ は、$g^{μν}, g^{μν}_σ, q_(ρ), q_(ρ)α$ だけに依り、もはや $g^{μν}_{στ}$ の関数でない。(2) から、我々が興味のある次の変分を得る。 \[ δ∫Hdτ= δ∫H* dτ \tag{3} \] 我々が、変分原理(1)の代わりにでき、より便利な形式である、 \[ δ∫H* dτ= 0 \tag{1a} \] $g_{μν} $と $q_(ρ)$ の変分を実行することにより、我々は、重力と物質の場の方程式として、次の式を得る(++)。 \[ {∂ \over ∂x_α }({∂H* \over ∂g^{μν}_α}) - {∂H* \over ∂g^{μν}} = 0 \tag{4} \] \[ {∂ \over ∂x_α } ({∂H* \over ∂q_(ρ)α} ) - {∂H* \over ∂g_(ρ)} = 0 \tag{5} \]

(*) Lorentz による4論文、Koninkl 出版, Akad. van Wetensche, te Amsterdam, 1915 年と 1916 年; D. Hilbert, Göttinger Nachr., 1915, Part 3.
(+) $g_{μν}$のテンソルの特性は、今回は使用しない。
(++) 簡明さのために総和の記号は式から省略されている。ひとつの項のなかに 2 度現れる添字は、常に総和が取られる。 式 (4) のなかで、${∂ \over ∂x_α} ({∂H* \over ∂g^{μν}_α})$ は、$Σ_α{ ∂ \over ∂x_α } ({∂H* \over ∂g^{μν}_α})$ を表す。


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§2. 重力場の分離した存在

もし、我々が H が $g^{μν}, g^{μν}_σ, g^{μν}_{στ}, q_(ρ), q_(ρ)α$ に依存するという仕方について、さらに制限する仮定を しないならば、エネルギー成分は、一方が重力に他方が物質に属するという、ふたつの部分に分離できない。理論のこの特徴を 確かにするために、我々は次の仮定を置く。 \[ H= G + M \tag{6} \] ここで、$G$ は、$g^{μν}, g^{μν}_σ, g^{μν}_{στ}$ だけに依存し、$M$ は、$g^{μν}, q_(ρ), q_(ρ)α$ だけに依存する。 式、(4), (5) は、次の式を想定する。 \[ {∂ \over ∂x_α } ({∂G* \over ∂g^{μν}_α}) - {∂G* \over ∂g^{μν}} = {∂M \over ∂g^{μν} } \tag{7} \] \[ {∂ \over ∂x_α } ({∂M \over ∂q_(ρ)α }) - {∂M \over ∂g_(ρ) } = 0 \tag{8} \] ここで$G*$は、$G$に、$H*$の$H$に対する同じ関係をもつ。

もし、我々が $M$ 又は $H$ に $q_(ρ)$ の1階より高階の微分にも依存すると仮定するなら、式 (8) 又は (5) は、他に道を譲るべき ことを注意深く気が付くことである。同様に、$q_(ρ)$ が互いに独立でなく、条件式によって結合しているとすべきことも想像できる。 全てのこれは、次下の式の開発には重要でない。というのは、それらは、式(7) にだけ基づくからである。それは、$g^{μν}$ に関する 我々の積分の変分によって見出される。


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§3. 不変の理論によって条件付けられる重力の場の方程式の特性

我々は、いま、次が不変という仮定を置く。 \[ ds^2= g_{μν} dx_μ dx_ν \tag{9} \] これが $g_{μν}$ の変換における特性を決定する。$q_(ρ)$ の変換における特性については、それは物質を記述するが、我々は仮定を置かない。 一方、$G = G/√-g $、そして $M = M/√-g$ だけでなく、$H = H/√-g$ をどのような時空の座標においても不変な関数であるとする。 これらの仮定から、(1) から導かれた式(7)と(8)との一般共変性が出てくる。さらに、$G$ が(定数の係数を除き)、Riemann の曲率テンソルに 等しくなければならないことが出る;なぜなら、$G$ に要求される特性をもつ他の不変量が存在しないからである(+)。それによって、$G*$ も 完全に決定され、式(7)の左辺も同様である(++)。

一般相対性の仮説から、関数 $G*$ のある特性が出てくることを、我々は、いま、導く。この目的のために、我々は無限小の座標の変換を 次のように置くことで実行する。 \[ x'_ν= x_ν + Δx_ν \tag{10} \] ここで、$Δx_ν$ は、座標値の無限小の任意関数である。$x'_ν$は、新しい座標系のなかの座標値であり、もとの系のなかで $x_ν$ をもつ世界点。 座標値についてと同じく、どの他の大きさ$ψ$についても、次の型の変換法則が成立し、 \[ ψ'= ψ + Δψ \] ここで、$Δψ$は、$Δx_ν$によってつねに表現できなければならない。$g^{μν}$の共変性から、我々は容易に $g^{μν}$ と $g^{μν}_σ$ への変換法則を導く。 \[ Δg^{μν}= g^{μα} {∂(Δx_ν) \over ∂x_α} + g^{να} {∂(Δx_μ) \over ∂x_α } \tag{11} \] \[ Δg^{μν}_σ= { ∂(Δg^{μν}) \over ∂x_σ} - g^{μν}_α{ ∂(Δx_α) \over ∂x_σ } \tag{12} \] $G*$ は、$g^{μν}$ と $g^{μν}_σ$ だけの関数であるから、$ΔG* $を計算することが (11)と(12)の助けによって可能である。 我々は、こうして、次式を得る。 \[ \sqrt{-g} Δ({G* \over \sqrt{-g})}= S^ν_σ { ∂(Δx_σ) \over ∂x_ν} + 2 { ∂G* \over ∂g^{μσ}_α } g^{μν} {∂^2Δx_σ \over ∂x_ν∂x_α } \tag{13} \] ここで、簡明さのために、我々は次のように置いた。 \[ S^ν_σ= 2 {∂G* \over ∂g^μσ g^μν }+ 2{∂G* \over ∂g^{μσ}_α }g^{μν}_α + G*δ^ν_σ - {∂G* \over ∂g^{μα}_ν } g^{μα}_σ. \tag{14} \] これらふたつの式によって、我々は、次下にとって重要なふたつの推量を描く。我々は、$G/√-g$ がどの置き換えに対しても不変である ことを知るが、$G*/√-g $のこれを知らない。しかしながら、後者の量が任意の座標系の線形変換について不変量であることを示すことは 容易である。こうして、(13)の右辺は、全ての $∂^2Δx_σ/∂x_ν∂x_α$ が消滅するとき、消滅しなければならない。結果的に、$G* $は、 次の恒等式を満足しなければならない。 \[ S^ν_σ ≡ 0 \tag{15} \] もし、さらに、我々が$Δx_ν$を与えられた領域の内部においてだけ零と異なるが、その境界の無限に近傍において消滅するならば、そのときは、 問題の変換においても式(2)におきる境界の積分値は変化しない。それゆえ、$ΔF = 0$ そして、その結果として(+++)、 \[ Δ∫Gdτ= Δ∫G* dτ \] しかし、$G/√-g$ と $√-g dτ$ とはともに不変量であるから。式の左辺は消滅しなければならない。結果的に、右辺も消滅する。 このように、考察した(14),(15),(16) を取って、第1段階として次の式を得る。 \[ ∫{∂G* \over ∂g^{μσ}_α} g^{μν} {∂^2(Δx_σ) \over ∂x_ν∂x_α}dτ = 0 \tag{16} \] この式をふたつの部分積分に変換し、Δx_σの選択の自由さを考慮すれば、次の恒等式を得る。 \[ {∂^2 \over ∂x_ν∂x_α} dτ (g^{μν} {∂G* \over ∂g^{μσ}_α}) ≡ 0 \tag{17} \] $G/√-g$ の不変性からの結果であり、それゆえ、一般相対性の仮説に由来する、ふたつの恒等式(15)と(17)から、我々は、いま、結論を描かねばならない。

我々は、まず、重力場の方程式 (7) に $g^{μσ}$ を混合乗算することで、それを変換する。我々は、そのとき、(添字$σ$と$ν$を交換して)場の方程式(7) と同等な次の式を得る。 \[ {∂ \over ∂x_α} (g^{μν} {∂G* \over ∂g^{μσ}_α})= - (T^ν_σ + t^ν_σ) \tag{18} \] ここで、我々は、次のように置いた。 \[ T^ν_σ= - {∂M \over ∂g^{μσ}}g^{μν} \tag{19} \] \[ t^ν_σ= -({∂G* \over ∂g^{μσ}_α } g^{μν}_α +{∂G* \over ∂g^{μσ}}g^{μν}) = {1\over 2} (G*δ^ν_σ - {∂G* \over ∂g^{μα}_ν} g^{μα}_σ) \tag{20} \] 最後の $t^ν_σ$ のための式は、(14), (15) によって立証されている。$x_ν$ に関する(18)の微分によって、そして $ν$について総和し、 (17) の視点から、次が出てくる。 \[ {∂ \over ∂x_ν } (T^ν_σ + t^ν_σ) = 0 \tag{21} \]

式 (21) は、 運動量とエネルギーの保存を表している。我々は、$T^ν_σ$ を物質のエネルギー成分と呼び、$t^ν_σ$ を重力場のエネルギー成分と呼ぶ。 式 (20) を考慮すれば、重力の場の方程式 (7) から、$g^{μν}_σ $を乗算し、$μν$に関する総和を取れば、 \[ {∂t^ν_σ \over ∂x_ν} + {1\over 2} g^{μν}_σ {∂M \over ∂g^{μν}} = 0 \] 又は、(19)と(20)の視点から、 \[ {∂T^ν_σ \over ∂x_ν} + {1\over 2} g^{μν}_σ T_{μν} = 0 \tag{22} \] ここで、$T_{μν} $は、量 $g_{νσ} T^σ_μ$ を表す。これらは、物質のエネルギー成分が満たすべき 4 つの方程式である。

(一般共変の)保存の法則 (21) と (22) は、重力の場の方程式 (7) から導かれ、一般共変性(相対性) の仮説 だけ の関連において、 物質現象の場の方程式 (8) を使っていないことは、強調されるべきであろう。

(+) このなかに一般相対性の仮説がなぜ確定的な重力の理論を導くかの理由を見出すべきである。
(++) 部分積分を実行して、我々は次を得る。 $G* = √-g g^{μν} [ \{μα, β\}\{νβ, α\} - \{μν, α\}\{αβ, β\} ]$
(+++) $H, H* $の代わりに$G, G* $の量を導入することによって。