膨張する空間への非難

A diatribe on expanding space
J.A. Peacock
訳 片山 泰男 (Yasuo Katayama)

戻る∧

これは、最初に Peacock (2001) によって表されたが、www.roe.ac.uk/japwww 以外には、以前に オンラインで入手可能でなかった分析の拡張である。さらなる詳細の幾つか、特に開いた又は閉じたモデルでの試験粒子の運動の分析的解は、 Whiting (2004) によって、幾つかの関連するさらなる議論は、Barnes 等 (2006) によって与えられた。

目次
1.膨張宇宙の意味
2.試験粒子の運動力学
3.赤方偏移の性質


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

1.膨張宇宙の意味

膨張宇宙という概念は、容易に混乱に導くことができる。そして、このノートは、幾つかの頑強な誤解への反論を試みる。これらのなかの最悪は、 "膨張する空間"という誤謬である。共動座標系で書かれた RW 計量は、間隔が R(t) に比例して増加するような座標系のなかで、どの与えられた 基本的観測者も静止していると考えることができることを強調する。この代数のよくある解釈は、"それらの間の空間が膨張するから"、というよ うなフレーズで、銀河が分離することをいう。これは、自然な解釈にみえるが、我々は、その座標系が何を意味するかについて注意する必要がある、 ふたつの例:空の宇宙と de Sitter 空間とを通して次に見られるように。前者の場合、Minkowski 時空は、R(t)∝ t をもって膨張する開いた RW 計量として書き直される。後者の場合、我々は、de Sitter空間への通常の計量、

c^2 dτ^2= c^2 dt^2 - R^2(t)[ dr^2 + r^2 dψ^2 ];  R(t)∝e^Ht ......(1)

と、de Sitter がそれを最初に導いた静的な形式:

c^2 dτ^2= (1 - r^2/R^2) c^2 dt^2 - (1 - r^2/R^2)^-1 dr^2 - r^2 dψ^2;  R= c/H ......(2)

とを比較できる。第2の式について、何か膨張しているものがあるということは直に明白ではない。そして、歴史的に暫くの間、これが障害に残った。 de Sitter モデルのなかで距離とともに線形に増加する赤方偏移を期待できることが最終的に結論された (Weyl によって1923年に) けれども、これ は時空の一定の曲率半径Rを計測することと解釈された。これは、"膨張"という単語を含まない論文で Hubble が 1929 年に予測される効果を検出す ることを試みたときに、まだ彼が与えた解釈である。しかし、それが計量のなかに R(t) として現れるだけでなくそれ以上で、何かが膨張している ことを証明していてさえ、膨張が明らかに正当に全体的概念である場合がある。これは閉じた宇宙の場合に最も明瞭で、全体の体積がよく定義され た量であり、時間とともに増加し、それゆえ、疑いもなく、この場合は空間が膨張している。

しかし、"膨張する空間"が時空の正しく全体的(global)な記述であっても、その概念は、意味のある局所(local)という対極をもつ だろうか? 私の寝室のなかで膨張している空間、これは何を意味するだろうか? 我々は、それらの間の空間が膨張するのに伴って、地球が太陽から 後退することを期待するのだろうか? まさにその概念は、Newton 的概念によって包括されない、何か完全に新しい物理的効果を示唆する。しかし ながら、現在の地平線よりもずっと小さなスケールにおいて、我々は曲率を無視できなくてはならず、銀河の運動力学が Minkowski 時空のなかに 起きるように扱わなければならない;この方法論は、Friedmann 方程式を導出する間に働く。どう我々はこれを "膨張する空間"に関係付けるのか? Minkowski 時空は膨張しないことが明白でなければならない。ー実際、遠方銀河の運動が局所の運動力学に影響し得るという、その概念自体全く 反相対論的である:等価原理は、我々がつねにそのなかで物理が局所的に特殊相対である接座標系を見出せることをいうのである。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

2.試験粒子の運動力学

そのことをここで明確化するため、明示的な例を考察することが助けになるに違いない。それは、よく整ったパラドックスをなす。我々は、近傍の 低赤方偏移の銀河をとって、その赤方偏移をゼロにするように、それに加速の速度を与えると考えよう。そののち、宇宙の膨張は、その銀河に我々 からの後退を起こし、それが再び正の赤方偏移を得るだろうか。問題を理想化するため、その銀河が一様な宇宙のなかで質量のない試験粒子と想像 しよう。

"膨張する空間"という概念は、試験粒子が実際に我々から後退を開始すべきと示唆するだろう。そして、人はこれを次のように式で証明できると考 えるようだ。Hubble フローに対する固有速度δv を考えよう。完全に一般的な結果として、これが宇宙の膨張に伴って大きさが減少する:

δv ∝ 1/a(t)

これは、光子のエネルギーに適用するのと同じ法則であって、共通項は、1/a で下降するものは一般的に、粒子の運動量であることである。Hubble フローに伴い動く、より遠方の粒子に逐次的に追い付くのに必要な、累積した Lorentz 変換だけを通して。 そして、無限時間後 t → ∞ に固有速度は、Hubble フローに伴う動きから離れ 0 になろうとする。どのようにでも、それが始まるなら、"膨張する 空間" は、明らかにその仕事をしたのである。

いま、同じ状況を完全に違う方法で見よう。もし、粒子が宇宙論的地平線と比べて近傍であれば、Newton 的な分析が有効に違いない: 等方的宇宙のなかで、Bikhoff の定理は我々に、試験粒子の大きさよりも大きな距離にある全ての質量が無視できて、全ての諸々は粒子と我々 の間の質量だけであることを保証する。原点からその粒子の固有の距離をrと呼べば、我々の初期状態は、t= t0 のとき、r= r0 において r'= 0 であり、運動の方程式は単純に、

r''= -GM(<r|t)/r^2 ......(4)

そして r の内側の質量は単に、

M(<r|t)= 4π/3 ρ r^3 = 4π/3 ρ0 a^-3 r^3 ........(5)

ここで我々は a0= 1 と質量が支配的な宇宙とを仮定する。運動の方程式は、いま書き直されて、

r''= -Ω0 H0^2/2a^3 r ..........(6)

真空のエネルギーの可算は、十分容易で:

r''= -H0^2/2 r (Ωm a^-3 - 2Ωv) .........(7)

真空の寄与の前の -2 は、実効質量密度、ρ+3p/c^2 から来ている。

いま、我々は、この Newton 的な方程式がδv ∝ 1/a から得られたものと同一であることを示す。 我々の現在の記述では、これは次になる。

δv = r' - H(t) r = -H0 r0 / a ...........(8)

初期固有速度は、 Hubble フローを打ち消す -H r だけである。我々はこの方程式を微分して r'' を得ることができ、それは H' を含む。 これは、標準的な関係

H^2(t) = H0^2[ Ωv + Ωm a^-3 + (1 - Ωm - Ωv) a^-2 ] ...............(9)

から、得られる。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

そして、r''の方程式が以前に得たものと同一を示すのは、真直な練習である (H= a'/a を想起して)。

さて、パラドックスである。最初には、Einstein-de Sitterモデルの場合にその方程式を解くことで十分であろう。時間単位を t0= 1 と H0t0= 2/3 になるように選び:

r''= -2r/9t^2 .............(10)

加速は負であり、粒子は、内側に動く。それは完全に、時間とともに粒子が Hubble 膨張を取り出す傾向だろうという、我々の"膨張する 空間"結論への明らかな矛盾である。この矛盾の解決は、方程式の完全な解からくる。微分方程式は、明らかに累乗則解 r∝ t^1/3 又は t^2/3 を もつ。そして、正しい境界条件と結合して、

r(t)= r0 ( 2 t^1/3 - t^2/3 ) ...............(11)

大きい t のとき、これは r= - r0 t^2/3 になる。負の半径の使用は、疑わしくみえるが、我々は r を、原点を通る線に沿う、デカルトCarte的 座標とみることができる。そして、運動方程式 r''∝ r は、r のどちらの符号についても正しい。大きな t のときの r(t) への解は、このように Hubble フローに伴って運動する粒子を記述するが、それは問題を引き起こす。粒子が原点を跨いで反対側にまさに現れることをもたらすからである。

どの意味においても、それゆえ、"膨張する空間"は、機能しているとは言えない:Einstein-de Sitter モデルでは、原点に対して静止した粒子は、 原点に向かって落ちていき、それを越え、漸近的に最初の共動半径を空の反対側で得る。その行動は、量的に Newton 力学だけを使って理解できる。

この分析は、粒子の力学には宇宙の全体膨張から局所効果がないことを示している:分離する傾向は運動学的な初期条件であり、一度それが消さ れると、全ての膨張の記憶は失われる。多分、この点の最も明確な摘出は、スイスチーズ宇宙によって用意される。そのなかの球状の重ならない 空洞のなかの質量がブラックホールに圧縮された正確なモデルである。空洞の中で計量は正確に Schwarzschild であり、宇宙の残りの行動は関係 しない。これは、そこではまだ我々は粒子間の質量の重力効果を考察しなければならない、一様な宇宙にある試験粒子を考察するときにもち上がる、 小さな不満を避ける。いま、その質問にどう答えるかを明らかにしなければならない。"宇宙の膨張は、地球と月の分離を引き起こすか?" そして その答えは、よく耳にする "そうなるだろう、もしそれらが重力で結合していなければ" ではない。

さらに二つの場合を考察する価値がある。空っぽの宇宙のなか運動方程式が r''= 0 である。それゆえ、宇宙が直線的に a∝ t で膨張する間、 粒子はr= r0 に留まる。この場合、 H= 1/t であるから、δv= -H r0 であるように、それは 1/a のように下降する、求められるように。 最終的に、真空のエネルギーをもつモデルは、もっと興味深い。Ωv >Ωm/2 の限り、r'' は初期値が正で、粒子は原点から実際に離れていく。 これは評価基準 q0<0 で加速膨張である。この場合には、粒子は、原点から遠ざかる傾向があり、これは真空の反発力による。純粋な de Sitter 空間(Ωm=0, Ωv= 1)では粒子の軌跡は、

r= r0 cosh H0(t-t0) ......(12)

それは、もし我々が最初の場所の粒子をずっと擾乱させなければ、適用されたであろう r= r0 exp H0(t-t0) の半分に向かって漸近的に近付く。 真空の支配的なモデルの場合、真空のエネルギーの反発力の効果は、それらの初期の運動に関わらず、大きな時間ののちには粒子の全ての部分 を分離させる。この行動は、多分、"膨張する空間"と正当に呼ばれてよいものである。それにも関わらず、この行動は、真空の反発力の明らかに 物理的原因からくる効果に由来し、宇宙が膨張するという事実から純粋に起きる新しい物理的影響はない。前の例は、"膨張する空間"が膨張宇宙 について考えるのに一般に危険な欠陥のある方法であることを証明した。


≪=BACK TOP∧ NEXT=≫

3.赤方偏移の性質

最期に、赤方偏移の性質への膨張空間の概念に関連するものについて幾らかの意見である。小さな赤方偏移については Doppler シフト (z= v/c) であると解釈することは正常である。たとえ、"膨張する空間"の概念がそのような見方に挑戦的であるかもしれなくても、 それは、1+zという尺度がそれによって光子の放出と吸収の間に宇宙が膨張した係数という一般的な概念と、完全に結合している。 我々が光子を送出し、光子はそれが距離 d= c δt にある、もうひとつの観測者に会うまで、δtの時間、旅行する。この銀河の後退 の速度は、δv= H d である。そのため分数の赤方偏移がある。

δν/ν= δv/c = -(Hd)/c = -Hδt ...........(13)

いま、H= R'/R から、これは次になる。

δν/ν= -δR/R ...............(14)

それらは集約し、主要な結果: ν∝ 1/R を与える。以上のように、同様な推論が、この1/Rスケールが全ての粒子の運動量、相対的で あれそうでなくとも、に適用されることを証明する。量子力学を考えれば、 de Broglie 波長は、λ= 2 π h_bar / p であり、それゆえ、 これが宇宙の側のスケールを決め、膨張する箱のなかに閉じ込められた定在波と一般的なアナロジーをもたらす。

赤方偏移は、こうして、光子が観測者から観測者に渡されるように、無限小の Doppler シフトの列の累積であり、そして、この解釈は、 z≫1にも厳密に成立する。しかしながら、これは、赤方偏移がどれだけ速く銀河が観測銀河から後退しているかを示すということとは 同じではない。一般的で、しかも、正しくない見方は、次の特殊相対論の Doppler 式を使うことである。

1 + z = √((1+v/c)/(1-v/c)) ..............(15)

実に、それは全てあまりに一般的に、最近の高赤方偏移のクエーサーを "光速の95%で後退している" ように書かれる。赤方偏移はこの方法 で解釈できない理由は、ゼロでない質量が重力周波数シフトを起こさざるをえないからである。重力と Doppler とのシフトを結合して、 我々は、次のように書く。

1 + z = √((1+v/c)/(1-v/c))(1+ΔΦ/c^2) ...........(16)

ここでΔΦは、光子放出と受容点の、重力ポテンシャルの違いである。もし、我々が観測者が半径rの球の中心にいるとし、放出銀河が その球の端にいるとすると、重力シフトの方向は、青方偏移である:半径rの半径方向の加速は、a= GM(<r)/r^2= 4πGρr/3 であり、 そうしてポテンシャルは、ΔΦ= -4πGρr^2/6 = - Ωm H0^2 r^2/4。簡単化のために非相対論的物質だけを考慮した。重力の項はこの ようにrの2次であり、Doppler シフトの1次項を越えていくときに考慮すべきである。宇宙論的な赤方偏移を考察に Doppler と重力の 結合したシフトとして考えるのは、2次のオーダーまでで、それは厳密に正しい。(Bondi 1947 と "宇宙論的物理"の問題 3.4 をみよ)

参考文献(省略)