de Sitter effect 戻る


1920 年代のド・ジッター宇宙について、 ルービン、サンディジによる (Lubin, Sandage) "The Tolman Surface Brightness Test for the Reality of the Expansion. IV" IV http://arxiv.org/abs/astro-ph/0106566 のイントロからの部分訳である。
1.1 膨張の現実性への早期の批評

ハッブル(1929a) による近傍の銀河の距離の彼の推定とそれらの赤方偏移の相関の公表とともに、観測的宇宙論は、 長い夜の旅の始まりの時代を迎えた。ハッブルの使った赤方偏移は、Slipher によって測定され、Eddington (1923) によって出版され、Humason (1929) によって高い値への厳しい拡張によって追加されたものであった。ハッブルの公表前にである。

しかしながら、膨張宇宙の公表は、とても通常でない主張であるので、他の独立した方法によるその現実性の証明 が不可欠と思えた。たとえ、膨張する宇宙が Friedmann (1922) (Tropp, Frenkel \& Chernin 1993 参照) によって 一般相対論の Einstein 基本方程式のひとつの解としてすでに予測されたものであったとしても。 膨張解はまた後に Lemaitre (1927, 1931) と Robertson (1928) によって詳細が明らかにされ、両者は、Friedmann に謝辞し、入手可能な銀河の観測とそれらの相対距離に関する予示によって Friedmann を超えた進展を行った。

ハッブルが Friedmann (1922) の予測又は理論的であるとともに観測的な、1927年と 1928年の Lemaitre と Robertson の論文 を知っていたかは明らかでない。Robertson は、我々の一人(AS) に、1929年より以前に、膨張する解の存在について 彼がハッブルと議論したと話したのではあるが。(e.g. Sandage 1995, footnote 16 to Chapter 5) ハッブルの 1929 年 の公表の中には、これら 3 人の原理的な理論家についても何も言及がない。

それにもかかわらず、1920年代は、関連する宇宙論的な予測をテストする観測的試みが全く自由とはいえなかった。 Einstein の場の方程式の出版の 1 年後、de Sitter (1917a,b)は、それらについて、ひとつの奇妙な解を発見した。 彼の解は、静止的な計量(そのような解は 3 つしかない;Tolman 1929)であったが、驚くべきことに赤方偏移を示した。 4 次元時空の座標系の計量の係数は、観測者からの距離の関数であった。観測者の原点から 3 次元座標で遠い時計は、 原点にある時計よりもゆっくりと時を刻む。この効果は距離によって変化する赤方偏移として現れる。 de Sitter 計量のなかの赤方偏移する形式的特徴は、"de Sitter効果" と呼ばれる。ひとつの奇妙な付加的な特徴として de Sitter 座標に置かれた任意の試験粒子は、動径(半径) 方向の運動を示すことである。 (Eddington 1923, de Sitter 1933, Tolman 1934)[3] 空間の計量が静的であるにもかかわらずである。(*)

その静止的計量に伴う de Sitter 赤方偏移効果の予測された存在は、1920 年代によく知られていた。その効果を探す 多くの試みが天文学的データ(距離と速度)を使ってなされた。星、球状星団のような天体について、そしてハッブル (1925, 1926, 1929b) が外部銀河の存在を証明する以前に、より広い宇宙を包含したのであるが。 de Sitter 効果の探索に関係する多くの入手可能な論文のなかには、Silberstein (1924), Stromberg (1925), Wirtz (1925), Lundmark (1925) そして疑いもなく他の多くがある。

de Sitter 効果に関して、いまだ奇妙な、ハッブルの1929 年公表の最後の文章の意味するところがある。そこで、彼は書く:

目立つ特徴は、速度-距離関係が多分、ド・シッター効果を表している可能性である。.... そして、この関連において、次のことが強調され得るだろう。現在の議論のなかで見出された線形の関係は、 距離の制限された範囲を表す 1 次近似であることである。

言い替えれば、距離の大きな範囲では線形の関係は現れないだろうと、彼は推測したのである、そこで、彼は明らかに de Sitter 効果の最初の次数が距離の 2 次であって線形でないことを知っていた。(e.g. Sandage 1995, eq. 5.10) 注意深くハッブルは、赤方偏移ー距離の関係を定義するかもしれない彼の議論したデータが、実際には、距離の自乗に よって変わっているという可能性に対してオープンにしておいた。それは、1次近似として線形に、原点の近くの短い 距離には、現れているかもしれない(すなわち、Taylor 級数の最初の項)。ハッブルは、また、疑いもなく、早期の de Sitter 効果の探索、Lundmark (1925) と Silberstein (1924) とが、採用したデータに放物線のフィットを試みた ことを知っていた。

しかしながら、すぐに ハッブルと Humason (1931) は、赤方偏移ー距離関係は、事実、1929 年に得られたよりも、 ずっと広い赤方偏移の範囲まで線形であることを証明した。このため、そして他の理由のため、de Sitter (1933) は、 次のように書いた:”我々はいま、観測された膨張のために、実際の宇宙が非静止モデルのひとつに対応するに 違いないことを知っている ... 静止モデルは、いわば、学問的興味だけのものである。”

[3] de Sitter 静止計量の導出とその特性は、Tolman (1934,§136) にある。より最近の de Sitter 計量の赤方偏移 特性の概要は、Sandage 1975 §2.2 にある。

(*) 訳者注: de Sitter 宇宙解は、時空の一様性という宇宙原理から解かれ、時空間的一様性をもつことから静的解 と言われるが、"空間の計量が静的" というのは補足が必要である。g_11, g_22, g_33 の分母側には -(x^4)^2 がある ため時間の関数であり、虚数時間 (x^4= ict) であるから双曲線的運動をする宇宙である。過去にこの宇宙が収縮して きて現在反発し、未来に膨張する宇宙を表している。また計量の時間係数、g_44 は、時間の関数である。 δ_ik との偏差には分母側の空間の距離に関係するだけでなく、分子に時間の項 (x^4)^2 が含まれる。


1.2 膨張の現実性へ反対するその後の試み

しかしながら、膨張宇宙の概念は、多くの批評家にとって、余りに怪奇であったので、すでに 1929 年に真の膨張からでなく大きな赤方偏移 をつくり出す代替方法を見付けるのを開始させるほどであった。これらの試みは今日まで続いている。

最初の代替の示唆は、Zwicky (1929) によってなされた。そこで彼は、光子が遠方の源から我々まで来る途上にエネルギーを失うという提案をした。 結果として、そのエネルギー分布の連続的な放射と、赤方偏移測定に使われたフランホーファ線との両方において、赤方偏移を示すだろうことを示した。 1 次のオーダまで赤方偏移効果は距離に線形であろう。なぜなら 1 + z = e^(HD/c) の Taylor 展開の最初の項が、D に線形であるから。 ここで、H はハッブル定数、D は、距離である。この示唆とともに Zwicky (1929) は、"tired light" という概念を導入した。

20 世紀の半ばという遅い時期にさえ Zwicky (1957) はその仮説が価値を保守した。しかしながら、Zwicky もその他のこの仮説の支持者 (Violette 1986, Pecker \& Vigier 1987)も、光の "疲れ" について確信できる物理的理論を与えていない。批評家がいまだに指摘するように、 赤方偏移に必要な、光子のビームから散乱媒体へのエネルギー伝達を伴うどのような散乱過程も、必然的にビームを広げる(散乱する)のである。 この効果は、遠方銀河の像をそれらの近傍の対照と比較してぼやけさせるだろうが、それは、現実にはないのである。


1.3 ハッブルの沈黙

多分、膨張の現実性への最も興味深い攻撃は、ハッブル自身が赤方偏移が "自然の未知の法則による"ものでなく、本当の膨張を表すと信じることを ためらっていたことであろう。ハッブルの気遅れには、多くの書物が書かれたが、大多数は、間違っている。幾らかの批評家は、現実のフリードマン 膨張の幾つかの解釈に含蓄する "創造" のできごとへの想定される嫌悪に関係した、哲学的又は宗教的理由を示唆しさえした。

しかし事実は、ハッブルの理由が還元主義的立場をとる科学者のものであることである。彼は、どのように赤方偏移が "距離" によって変わるべきか ということについての間違った理論と結び付けて、彼の観測データとその正確さの解釈だけを (すぐ分かることだが、間違って) 信用した。

彼の "距離" についての方程式は、現代的な Mattig (1958) の方程式において、正当性をもたない。この話は、そしてなぜハッブルの結論が、 現代の理論的方程式によって分析された現在のデータを使うものに、到達しえなかったかは、詳細に他に(Sandage 1998) 述べられる。

概略を言えば、ハッブルの議論は、次のようなものである。1930年代の半ばまでに、ハッブル(1934; 1936a,b)は、彼の銀河計数のプログラムを完了して いた。その目的は、空間の曲率を計測することであった。彼はまた、ウィルソン山の 100インチ反射鏡の限界までの、見掛けの光度に対する赤方偏移の ハッブル図式(ダイアグラム)の拡張 (Hubble 1936; Humason 1936) を完了していた。見掛けの光度への赤方偏移の効果のために、これらのプログラム の各データは、較正されなければならなかった。もし、膨張が現実であるなら、ハッブルは、観測された放射光度(又は等価だが、K 項の選択された部分 によって観測され矯正された光度)は、2.5 log(1+z) の 2 乗の係数によって明るくないといけない; しかし、もし赤方偏移が膨張でなく、 "自然の未知の法則" によるものであれば、ただ 1 回その係数が観測された光度に適用されるべきである。

ハッブルは、ハッブルの図式(赤方偏移の対数に対する見掛けの光度)は、厳密に線形と信じ; さらに、彼の銀河計数に対する彼の"較正" された光度 によって意味される空間曲率の半径が "余りに小さく" あってはいけないと信じた。結果的に、彼は、唯 1 回の 2.5 log(1+z) が適用されるべきと 確信した。もしそうであれば、膨張は現実的なものではないだろう。ハッブルは、書く:

もし、赤方偏移が基本的に速度シフトによるものでなければ、...[そのときは、] 速度-距離関係は、線形であり;星雲の分布は均一である;膨張の証拠は、 なく、曲率の跡はない、時間のスケールに制限はない... 予想外の、そして、本当に驚くべき特徴は、赤方偏移が後退を計測しているという追加的仮定 によって導入される。速度-距離関係は、前提とされる後退の正確な量だけ、線形から離れる。分布の均一からの離反は、後退の量に一致している。 その出離は、後退の正確な量と等価な曲率によって補償される。同期性は、多くの要素の間の、背後にある必要な関係の証拠であるにもかかわらず、 それらは、その解釈の蓋然性を実質的に毀損している。膨張モデルの小さいスケール、空間と時間の両方の、は新奇であり、その受容には、さらなる決定的な 証拠を必要とするだろうようなものである。

その、"さらなる決定的な証拠" は、現在、Tolman 銀河表面輝度試験とは独立した、少なくとも 3 つの現代的な実験によって得られている。


1.4 膨張が現実であることの他の最近の証拠

1.4.1 時間遅延テスト

Tolman (1930) 表面輝度 (1+z)^4 の効果は、膨張の現実性の唯一のテストであった、Wilson (1939) が Type Ia 超新星の光のカーブの形態が 時計を用意していることを示唆するまでは。この仮定は、Baade (1938)によって発見され、Minkowski (1964) によって歴史に呼び戻された、 光のカーブの均一な形態に基づいている。Wilson は、もし高い赤方偏移の SNe Ia の光のカーブが観測されれば、異なる赤方偏移のそのような 時計が特殊相対論の時間の遅れを計測することになることを理由づけた。赤方偏移の増大に伴う、光のカーブの伸長は、現在すでに、観測された。 そのデータは、時間の遅れの驚くべき確認を与える (Goldhaber et al. 1997, 2001)。

1.4.2 赤方偏移の関数としての始源的黒体放射の温度

膨張する容積の黒体放射が Planckian の形態を保ちながらも、T(z) = T(0) (1+z) で赤方偏移によって温度を減少すること(Tolman 1934, eq. 177.7; Bahcall \& Wolf 1968)。高赤方偏移のスペクトルの中の星間分子の Boltzman 温度の観測は、困難な実験によって Keck 10m 望遠鏡 によって明白に測定されている(Songaila et al.1994)。 重要な確認が Ge et al. (1997) そして、Srianand, Petitjean \& Ledoux (2000) によってされた。それまで、上限しか与えられなかったが (cf. Meyer et al. 1986) それはしかし、このテストを開拓するのは高度に重要だった。

1.4.3 Alpha-Herman 始源的黒体放射、化学ポテンシャルの測定

初期の黒体スペクトルの形が膨張する容積の中で Plankian であり続けるが、垂直の正規化(つまり、光子数)は、赤方偏移が (1+z)^4 によって その正規化が減少するときにだけ Plankian を保持する。この事実は、単位周波数あたりの周波数ではなく、単位波長間隔あたり、波長あたり エネルギーフラックスによって表された Planck 方程式から、トリビアルに導かれる。(もちろん、両者の表現は、dν= c dλ/λ^2 において 波長間隔と周波数間隔の関係を考慮すれば、等価である。)

それゆえ、Planck 方程式が表面輝度を定義するので、Tolman 表面輝度効果のテストは、空の単位表面領域あたりの光子数の変化の測定 と、Planck 方程式自身によって与えられた正規化と観測を比較することによって、等価である。Planck 方程式からのデータの逸脱は、 "化学ポテンシャル" と呼ばれる。とりわけ、波長の変移は、初期宇宙の Compton 散乱によるものである。

観測の中で 10^4 分の 1 になるような偏位はなかった。COBE によって 9 x 10^-5 (Mather et al. 1990; Fixsen et al. 1996)のこの限界の 中で、完全な Planckian 形の始源的放射が測定された。この素晴しい結果から描くべき結論は、この思うにスペクトルエネルギー分布の完全な 正規化は、Tolman 表面輝度要素の決定的な証明であり、それゆえに、決定的な膨張の現実性の証明である。我々は、この仮定を後に 4 章で採用し、 我々の表面輝度信号を理論的 (1+z)^4 の Tolmann 信号と結び付け、その差異について、高度赤方偏移の見かえす時間の光度の進化によると解釈 するだろう。