一般相対論の計量(メトリック)と不変量についての議論である。
1. ローレンツ変換の不変量
2. 一般の時空での不変量
3. 計量:不変量の式の係数
4. 変換と計量
5. 宇宙とブラックホール外部時空
6. ブラックホール周辺の座標系
7. ブラックホールへの自由落下系
8. 座標変換における不変量
9. 光速は、一定?
10. 空間計量の時間変化
11. 時間的に変化する計量への不変量とは何に対する不変か
12. 座標系、剛体の回転、計量と不変量におけるピタゴラスの定理
s^2 = x^2 + y^2 + z^2 - t^2
固有時、固有長の概念は、"局所現象が変わらない" ための要請のようにみえる。遠方の事象の前後関係は、系によって違って見えてもよいが、 持ち運ぶ時計の時間測定、ひとつの系内の距離測定は、変換によって変わらず、どの系からみても不変でなければならない、という要請である。
ローレンツ短縮と時計のおくれは、見る系と見られる系の相対速度で起こり、観測という行為は、事象に影響しない。 特殊はまさしく相対的であり、短縮を受ける系にとって短縮はなく、逆にその系からも相手の系が短縮して見えた。 短縮は、ローレンツやフィッツジェラルドの考えたエーテルの力学的な圧縮による短縮でなく、時空の座標変換であった。 特殊相対論は、エーテル概念に最終的な無用宣告をしたはずであったが、一般相対論は、新たな媒質を作ったように見える。 媒質は、光の媒質ではなく、時空の基本的性質である時計と物差を与える g_ik の計量場である。 観測が局所の事実に影響しないのは、一般相対論でも同じである。
ds^2 = ΣΣ g_ik dx^i dx^k (i,k= 1〜4)
i k
距離の2乗の和が一定というピタゴラスの式がどうしてこのような式に変化したか。 重力を扱うには局所的変換を使う。系内で、時間と場所によって変換が違う。変換は時空の関数である。固有時、固有長を表す s は、 微分化された ds に変わる。今、x, t だけに制限して、微分可能なグローバルな連続関数 f(), g()を考え、一般座標変換を次のように表す。
x' = f(x, t)
t' = g(x, t)
微小な距離 dx, dy, dz と微小な時間 dt を考え、それらが変換を受けると考えると、微分時空 (dx,dt) の変換は、1次変換になる。
dx' = a dx + b dt
dt' = c dx + d dt
ここで a〜d の定数は、時空の関数である。任意の系 (x,t) からミンコフスキー時空 (x',t') への変換を行い、慣性系の不変量の式 を使って、ds' を書き、それが、元の ds と等しいと考えるのである。つまり、任意の時空点は、不変量を変えずに局所慣性系に移せる。
ds'^2 = dx'^2 - dt'^2
= (a dx + b dt)^2 - (c dx + d dt)^2
= (a^2 - c^2)dx^2 + 2 (ab - cd) dx dt + (b^2 - d^2)dt^2
= g_11 dx^2 + g_14 dx dt + g_44 dt^2
三つの係数 g_ik を使い変換に対応する不変式ができる。a〜d が時空の関数であるから、g_ik も時空の関数である。
ds^2 = g_ik dx^i dx^k (i,k= 1〜4)
微分時空の不変量は、dx^i dx^k に対応する係数 g_ik の積和であり、2 階のテンソル g_ik (i, k が 1〜4 に渡る16個の実数)の成分であるが、 dx^i, dx^k の積の係数であるから、ikについて対称 (g_ik = g_ki)であり、そのうち10 個が独立である。g_ik は、基本テンソル、メトリック、計量、 尺度、又はアインシュタイン自身、重力ポテンシャルともいう。計量 g_ik は、局所時空の性質を示すものになる。
不変量を与える式の係数 g_ik は、グローバルな時空の関数としての物理量、場とする。g_ik 場は、物質とエネルギーの配置によって 重力方程式から計算できる重力の元の場である。それは、アインシュタインの重力方程式を解いて、大局的に求めるものである。
g_ik は、その時空点をみる系に依存する。全ての時空点は、局所慣性系からみるとミンコフスキー時空である。 普通、g_ik は、グローバルな慣性系からみたものである。全ての時空点には、局所慣性系、測地系があり、それは方向と速度によって 無数に存在する。その時空点の局所慣性系のひとつに移ると、その点の重力はつねに局所的に消去できる。そのとき、g_ikは、 特殊相対論の成立する平坦なミンコフスキー時空となり、g_ik の空間微分は、0 になる。
不変式の係数が時空点だけでなく、系にも依存するので、ことは複雑で、何が不変か理解しずらい。しかし任意の時空点の測地線(局所慣性系) は、どの系からみても測地線であるように、ある時空点の性質は、g_ik によって全て記述される。
dx' = a dx + b dt
dt' = c dx + d dt
g_ik 計量は、平坦時空への時空の変換を与えるが、その値がそのまま一般座標変換を与えるわけではない。 遠方の平坦時空からみたその点の g_ik は、不変量の式の係数であり、一般座標変換の係数ではない。 g_11 は、a^2 そのものではなく、a^2 - c^2 である。g_44 は、-d^2 ではなく、b^2- d^2 である。 しかし、それらが近似するときそれで代行でき、g_ik が平坦時空への一般座標変換の近似をするのである。
座標変換から計量を作るのは一意である。それは、次の式になる。しかし、逆に g_ik から a〜d を求める場合、 g_11, g_14, g_44 から、4個の a〜dを求めるのには、方程式がひとつ足りない。
a^2 - c^2 = g_11
2(ab - cd) = g_14
b^2 - d^2 = g_44
その理由は、平坦時空も無数にあり、どの局所慣性系に変換するかを指定しないため、慣性系間の並進速度による ローレンツ変換の分が不定だからである。変換時にこの時空点を静止にする局所慣性系に変換するには、 dx'/dt = 0 または、dt'/dx = 0 を満たせばよい。bc = 0 であればよい。
c= 0 を使うと、a^2= g_11, 2ab= g_14, b^2 - d^2 = g_44から、a= √g_11, b= g_14/(2 √g_11), d= g_14^2/(4 g_11) - g_44 になる。
b= 0 を使うと、a^2-c^2= g_11, -2cd= g_14, -d^2= g_44 から、d= √-g_44, c= -g_14/(2√-g_44), a= √(c^2+g_11)
b= 0 と、c=0 の両方が成り立てば、変換前後とも静止系であり、静止した剛体球がどう変形して見えるかを考えることができる。
局所慣性系への変換の空間の変換係数は、a= √g_11 であり、時間差の変換係数は、d= √-g_44 である。一般に静止系の 時空点の計量があるとき、空間方向の微小差 dx^i を √g_ii (i=1〜3) 倍し、時間の微小差 dx^4 に√-g_44 倍すれば、 静止した局所慣性系に変換される。g_ik があって標準値から外れているとき、その部分の物差しは、短縮、伸長している。 計量は、一般座標変換のその時空点における局所慣性系への微分的な線形座標変換を表しているのである。
ブラックホールの周辺時空では、遠方の平坦な時空から眺めたとき、半径方向の g_ik が大きく、時間方向が小さい。そして、 そこからの光が赤方変移する。江里口良治著、"時空のゆがみとブラックホール" (丸善)では、そこでは半径方向の距離が延びて いると説明されている。私は、逆にブラックホールの周辺では全てが平べったく短縮するとみるべきだと思う。g_ik は、不変量の式 の係数であるから、大きなg_ikは半径方向に短縮したのを拡大することであり、時間方向には、延びて長いものを縮小することである。
特殊相対論のローレンツ短縮と時計のおくれでは、空間は短縮、時間は伸長であること、それと時空に対称なローレンツ変換と の関係の問題を以前説明した。このブラックホール周辺時空では、時間の係数 g_44 は小さく、短縮である。時間短縮がどうして、 赤方変移につながるかと考えれば、この扱いが理解できる。
変換では時間方向の短縮は、動作の高速化、青方変移にあたる。事実としての重力井戸からの光の赤方変移を受け入れるには、 g_ik が不変式の係数であることを思い出さないといけない。この係数がかかって正常にもどして平坦系に変換するから、その もとの dt^2 は大きく、時間の経過が延びていてゆっくりであることを表している。
半径方向の大きい g_ik も、引き延ばされてはじめて正常に戻るのであり、その元はひらべったくブラックホールに張り付いた 紙のようになっていると考える。ブラックホールの周辺に踏みとどまった系、その時空点に静止する平べったい人にとっては、 半径方向の空間が引き延ばされて穴の中のようであり、事象の地平線は近いはずがいつまでも遠方であり、近付いても近付いても遠いということになる。
このことをさらに確信できる話がある。重力は、中心天体の質量に比例し距離の2乗に反比例するが、事象の地平面は、距離の1乗に 反比例する。質量も巨大で、半径も巨大なブラックホールでは、事象の地平面の近辺の重力を弱くできる。そこで、地上の 1 g の 重力程度の事象の地平面のブラックホールがあるとしよう。そこに梯子か階段が用意されている。それくらいなら、元気な人は、その梯子を 十分な体力を保存しながら登ることができる。そうしたら、いつかは、事象の地平面は、外側に突破可能ではないだろうか。 その疑問に対して一番明確な答えは、上の事象の地平面近辺での無限の平坦化と、逆にそこから見た世界の縦長さである。 それに伴なう時間経過の無限緩和もあるが、この物差しと物体の薄膜化を受け入れないかぎり、この疑問は融きがたいのではないだろうか。
ブラックホール周辺の時空を g_ik が半径方向に大きく、時間方向に小さいとみるのは、中心との相対速度のない遠方の静止系からみたときである。 赤方変移は、ブラックホール周辺に踏みとどまっている系からの光であり、それと速度をもった自由落下系からの光がそうであるわけではない。 自由落下系はそこでは光速に近い速度を持っているだろうか。いや、踏みとどまった系からみると、自由落下系は光速に近いだろうが、 遠方からみると、静止系と同じく自由落下系も、大きな速度を持っていない。だから、自由落下系からも、踏みとどまった系からも、 その場所からの光は、大きな違いがないと考えるべきだろう。
(a)平坦な無限遠の静止系、(b)ブラックホール周辺に踏みとどまっている系と、(c) b から今しがた離れたばかりの局所慣性系、 (d)そのそばを通り越していく無限遠から飛び込んできた局所慣性系、と分けて考える。重力方程式のシュワルトシルト解が与える g_ik は、 (a) からみた (b) の点の g_ik である。そして、(c) と (d)とは、ともに局所の慣性系でありローレンツ変換でき、互いに相手が短縮してみえ、 相手の時計の遅れがある。
(b) と (c) とは、系間に速度がなく、局所と遠方からの光の見え方に違いがないがその大きな違いは、g_ik が違うことである。 (b) から (c) に移るとき、中の人は重力から開放され、平坦時空になる。
(*) "任意の時空点も、その時空点の局所慣性系に移れば、平坦なミンコフスキー時空になる"の意。 任意の時空点は、局所慣性系からみれば、計量g_ikが標準値である平坦なミンコフスキー時空でない。
ブラックホールは、凍結星と呼ばれたように、落下物が周辺に凍結している。ブラックホールへの自由落下系も時間の経ち方の比率が遠方とは、 無限大になる。自由落下する人にとって事象の地平線、境界を越えるのは、殆んど一瞬であるが、平坦な遠方からみると、それがシュワルツシルト 境界を越えて落下するのは宇宙の終末まで待たなくてはならない。
超新星爆発のとき形成されるブラックホールも、物体落下に無限の時間がかかるなら、そもそもブラックホール自体が形成できないのでは、 という疑問がわく。ブラックホールは、形成されてから大きくなる必要がないのか。一瞬にできるのだろうか。
落下物は、数ミリ秒で見えなくなって積み重なって、それが内側にはいることを永遠に見届けることはないという。しかし、落下物が周辺に固まると、 ブラックホール自体がそのシュワルツシルト半径を広げることはあるだろう。それは、永遠よりはずっと短い時間だろうから、 事象の地平線への越境を我々が見届けることもあるだろう。そしてブラックホール自体の形成も可能ではないだろうか。
落下物は、外からの青方変移した光を反射すれば、見えなくなるのではなく、反射光が赤方変移してもとの光に戻るのではないか。 踏み止まっている (b) か、(c) なら、外光に照らされて見えるべきだろう。しかし光が X 線、γ線に青方変移すると、物体を通過して反射しないだろう。 そこまで変移するのに、外側で時間がどれほど経つのだろう。あっという間だろうか。(d) は、光の来る方向とは逆方向に逃げているので、 反射光は入射光と同じ色ではなく、ドプラー効果のために赤方変移する。そのため見えなくなるという説明も正しいのだろう。
さて、(a)は遠方の慣性系で(c)と(d)が局所慣性系であり、その間の時空の変換がその相対速度だけで、可能とするなら、どうなるだろう。 その半径方向の厚みの短縮と時計のおくれは、特殊相対論で説明できることになるが、(d) は、光速に近い速度でそのまま境界に飛び込み、 決してブラックホール周辺に凍結しないことになる。計量による時計の遅れと厚みの短縮は(d)にも及び、速度はなく凍結するのだろうか。
離れた局所慣性系でのローレンツ変換は、怪しいとすると、次のようになる。(a) からみて、(b) は薄く(半径方向に短縮)時間が止まっているが、 (b) から (c) になると厚みと時間進行が回復する。(c) と (d) は互いにローレンツ変換でき、(c) からみて(d) は薄い。 だから、(b) と (d) は同程度に薄いのである。
ds^2 = dx^2 + dy^2
という三角形のピタゴラスの法則が成り立ち ds が不変量ならこれは、物体の自然な回転を与える空間である。 座標軸をどう取っても、図形自体が変形しない空間である。それがもし、
ds^2= dx^2 + 4 dy^2
という不変量なら、図は変形する。y 方向に立てた小さな棒を x 方向に倒すと長さが 2 倍になる。 これはありえない比喩ではなく、不変量とは、変換を与えるものである(*)。
その場所その時刻では、それが図形の回転における変換法則であり、x 方向と y 方向が同じ性質をもたないのである。 立てた棒を倒すと、長さが 2 倍になるということは、その点の空間が歪んでいるため、y 方向にすべて物体が、図形が、 縮んでいるということである。そのことは、その局所で知ることは難しい。物差し自体も倒すと 2 倍の長さになるからである。
時間を含む形で考えると、 x 方向に速度 v で進む物体をみるとき、y, zは関係なくて、 +dy^2+dz^2 があるが、いまそれを省略する。不変量が、
ds^2 = dx^2 - dt^2
であるのがローレンツ変換である。しかしもし、
ds^2 = 4 dx^2 - dt^2
が不変量であるなら、そこでの現象は、違ったものである。 ds= 0をいれれば分かるようにその点の x 方向の光速は 0.5 になる。 これは、x 方向に空間が 1/2 に短縮しているから、そこの光速も 0.5 とみるべきだろう。 もし、x 方向の目盛を粗く測る x' 系を仮定し dx'= 2dx とすると、 ds^2 = dx'^2 - dt^2 になって、ローレンツ変換の式になるが、x'系からみると x 系は短縮している。
(*) 剛体の回転法則がピタゴラスの法則でない。回転する物体の円周と直径の比が円周率でなくなり、剛体は回転できない、 回転する剛体は存在しないと言ってもよい。局所の剛体(物差しを表す短い棒)は、局所慣性系運動のときにだけ場所、時間、方向によらない。
ds^2 = 2 dr^2 - 1/2 dt^2
のような形をしている。2 にあたるのが、1/(1-a/r) ここで a=2GM/c^2 である。半径方向の係数が大きく、時間方向の係数が小さい。 式に ds= 0 をいれると dr/dt = 0.5 になるから、ここでは半径 r 方向の光速が 0.5 である。無限遠の平坦時空からみれば短縮し、 時間経過は、延びてゆっくり進み、そこからの光は赤方変移する。つまり、通常の物差しのサイズと事象の時間間隔は、1/√g_ii という 不変式の係数のルートの逆数に伸縮している。
時空点によって光速という基本定数が違うことは、信じ難いことではある。計量、g_ik は、遠方(または局所慣性系)からみたこの時空点の性質であり、 その時空点に立つ人のみる時空ではない。その時空点に立つと光速は一定であり、半径方向に短縮した人は、短縮を意識せず、 時間経過の緩慢も認識できない(*)。そこでは、物差しも立てれば 1/2 の長さになるからである。局所では、時計の速さ、空間の異方性は見えない。 光速一定とは、局所がその局所についていうだけになる。計量の異なる時間的、空間的に離れた時空点の光速は、異なるのである。
しかしさらには、局所が局所の性質をすべて打ち消すわけではない。計量の時空間微分の方向差(クリストッフェル記述)は加速度を与え、 時空の性質として局所検出でき、地上では物体を放り投げた放物線運動をみる。そこでは光も曲がる。 光速一定は、全ての重力が消去される局所慣性系についてだけいえるのである。
光速は、全ての方向に等しい必要はない。その点に立つと光速は等方的だが、遠方平坦時空からみると、その点の光速は、 その点の異方性に影響され、x^i (i= 1〜3) の方向に √(-g_44/g_ii) の速度をもつ。ブラックホールの外部では、r 方向の光速は r 方向の短縮と時間経過の両方の影響を受けて上の例では 0.5 倍に遅くなるが、ブラックホールを周回する方向の残された 2 次元は、 空間短縮をしないので、時間経過の影響だけを受け、1/√2 倍にしかならない。
計量の意味について、最も初等的な理解の方法は、遠方からみた局所の変形である。x^1,x^2,x^3 をいま、x,y,z と書いて、
ds^2 = a dx^2 + b dy^2 + c dz^2 - dt^2
という計量は、これに、時間的差に0を入れ dt= 0 とすれば、静止剛体の変形を表わしている。局所の空間的異方性によって、 剛体球が三軸の各半径 (1/√a, 1/√b, 1/√c) をもつ回転楕円体となっている。半径一定の円と楕円の式の違い、球と回転楕円体の 式を考えれば、計量の意味は自明である。ミンコフスキー時空の a= b= c= 1 では、
ds^2 = dx^2 + dy^2 + dz^2 - dt^2
特殊相対論の不変量の式になる。相対速度がないときの dt= 0 は、常識的な非相対論的な剛体のユークリッド距離の不変、 ピタゴラスの剛体の回転の法則、つまりユークリッド幾何学を表している。それに対して、
ds^2= g_ik dx^i dx^j
は、遠方から見た時空点の剛体の法則である。この式に dx= dy= dz= 0 を入れ、ds^2= g_44 dt^2 から時間経過は 1/√-g_44 となり、 空間的な異方性は、dt= 0 を入れ (1/√g_11, 1/√g_22, 1/√g_33) となる。
(*)局所座標系をもって時空点に立つとき、その時空点の計量は、物差しの長さと時計の速さとしては観測できないが、 計量の微分は重力現象として放った物体の運動をみて知ることができる。
ds^2= g_ik dx^i dx^j
この式は、i,j=1-4 で剛体が宇宙のどこに移動しても、いつに移動しても、不変の時空間隔があることを、場所と時間の関数である 計量g_ikを使って表わす。dx^i, dx^j を物差し、時計の刻みとして、計量 g_ikは、それらに掛け、不変量ds^2を導く係数である。
その積和が不変量であることは、係数g_ik大は、その物差しの小を意味する。i= 1-3 として、時間計量g_44が不変のとき、あるとき g_ii= 1で、その後に g_ii= 4になるとdx^i方向の物差しの1/2縮小である。つまり、空間計量が増大する変化は、空間間隔の縮小を意味する。 ところが、膨張宇宙は空間計量g_ikの増大であるとされる。空間計量g_iiは方向によらず、時間関数G(t)と空間関数A(x)に分離して、
ds^2= G^2(t) A^2(x) dx^i dx^j
と書かれた。物質の量によって、G(t)がt^(2/3)に比例し(臨界宇宙)、またはサイクロイドを描く(振動宇宙)とされ、G(t)は"宇宙のサイズ" とよばれた ("相対論の意味" 第2版への付録宇宙論的問題について )。これは、概念上の誤謬であり、 宇宙のサイズは、逆数の1/G(t)で、時間変化する空間計量g_iiは、その逆数の√が空間間隔、銀河間隔に比例する。
計量と不変量の関係は、x,yの2次元の楕円で理解できる。楕円の式は、a^2x^2 + b^2y^2= 1 のとき、1が不変量にあたり、aが大きい時、 x方向の半径1/aは小さい。yについても同じ。x,yの方向によってサイズが違う時、a>b なら xの半径は、yの半径より小さい。
(2018/7/7)
計量と不変量の関係は、微分積と計量の積和が不変量である。不変量が時間的不変という意味なら、計量g_ikの時間的変化は、 不変量の時間変化に置き換えれば吸収でき、不変量でなくなる。時間的な計量変化を許す拡張は、不変量の意味を失う法則違反か、という疑問について。
重力方程式の定常解を求めるとき、時間的に変化しない計量に伴う不変量は計量の空間的変化の基準を与える。そのときds^2は時間的不変であるが、 空間的な不変をも意味し、空間によって変化する基準である。計量の空間的変化の基準を、どこか例えば質量から無限遠の平坦な時空に置き、 空間関数としての計量場を求める処理である。
同様に、計量に時間変化も許すとき、不変量は時間変化を吸収可能だが、それは単に基準を与えるものであり、計量場を空間だけでなく、 時間の関数としても許して、重力方程式の解を求めるとき、計量の時間関数を不変であるはずの不変量が吸収できるという矛盾ではなく、 いつかどこかを基準にして、時空の関数としての計量場を求めることである。そのとき、不変量の意味は時空間に拡張されている。 それは自然な拡張であり、不正ではない。
計量を時空の場にする処理は、ニュートン力学の不変量が例えば、直角3角形の斜辺の長さであるピタゴラス法則を、剛体の回転不変量と理解するなら、 特殊相対論は、時間次元への拡張であり、一般相対論では、時空間的な剛体の意味と理解すべきである。座標系は自由だが、相対論がもつ不変の剛体 の微分の固有長があって、それが微分積dx^i dx^kと計量g_ikとの積によって表されている。
(2019/5/23)
ピタゴラスの定理: 直角三角形の辺の長さa,b,c(斜辺) a^2+ b^2= c^2(3平方の定理)。証明: (a)相似、(b)3角形の等積変形、(c)正方形と3角形の面積
(a) 角Cが直角の三角形△ ABC に、CからABへの垂線CDで分割、△ CBD ∽ △ ACD ∽ △ ABC ∴ dc=a^2, ce= b^2, d+e= c
(b) 正方形c^2を直角から垂線で2分し、3角形の等積変形して、正方形の面積a^2が、左の長方形の面積に等しい。右も同様。
(c) 4隅に直角3角形を置く1辺a+bの正方形、(a+b)^2= 4ab/2+c^2, 又は、1辺cの正方形(a-b)^2+4ab/2= c^2。面積による代数的証明。
座標系、剛体の回転法則:
2次元図形の点を2値 a, b で表す座標(a, b)、原点からのユークリッド距離dは、d^2= a^2 + b^2。(3次元では3値、座標(a, b, c)、d^2= a^2 + b^2 + c^2)
直交座標軸なら△ ABCの C からの位置 A=(b,0), B=(0,a) を原点を変え平行移動しても系をθ(又は物体を-θ)だけ回転しても、成分a,bは変わるがAB間の
ユークリッド距離cのc^2=a^2+b^2 は不変、というのは剛体の回転の法則である。長さ1の棒(1,0)をθだけ回転した点(a, b)が単位円上 (a= cosθ, b= sinθ) 、
回転が棒の長さを変えない、剛体が移動と回転をピタゴラスの定理 a^2+b^2=1 が保証する。非ユークリッド幾何ではベクトルの移動と回転はできない。
特殊相対論は時間を含めた:
特殊相対論の速度もつ系への座標変換(x 方向の速度 v をもつ慣性系 K' へのローレンツ変換 x'= γ(x - vt), t'= γ(t - vx), y'= y, z'= z, γ=1/√(1-v^2))
は、空間が速度方向に短縮し、時計は遅れる。上式から x'^2 - t'^2 = x^2 - t^2 (速度方向の空間隔 =ユークリッド距離と時間隔との2乗差一定)から、
変換には不変量 s^2= x^2 + y^2 + z^2 - t^2 がある。ローレンツ変換の不変量(=固有長、固有時)は、時間が虚数なら4次元のピタゴラスの定理である。
一般相対論は、時空に計量を用いる:
一般相対論は、一般の曲線座標系から慣性系へ微分が座標変換できる。計量g_ikをもつ時空点の不変量は、ds^2 = g_ik dx^i dx^k と表され、ds^2 は
i,k の微分dx^i, dx^k積に計量 g_ik を積和して得られる(dx^1, dx^2, dx^3, dx^4 は dx, dy, dz, dt の意味)。質量が存在して平坦でない時空では
計量 g_11, g_22, g_33, g_44 は、1,1,1,-1 から違ってくる。ピタゴラスの定理の各項に計量が掛けられる拡張がされ、時空の幾何学は計量によって表される。
質量T_ikが計量場の2階のテンソルG_ikを決める重力方程式の定常解を求めるとき計量 g_ik は空間的に変化し、宇宙の遠方ではピタゴラスの定理が違い、 g_ik大の彼方では不変量との関係でその場所の座標の刻みは小さい。計量g_ikが時間変化するとき不変量は、時空間的に変わるピタゴラスの斜辺の存在 である。計量が小の初期宇宙では座標の刻みは大。計量の大は座標の刻みが小である。計量の膨張は物差しの縮小である。これがよく逆に誤解される。 膨張宇宙では、物差しと時計と計量が時空点ごとに異なるという一般相対論の原理があるのに、物差しと時計が一定と誤解する人が膨張宇宙と認識する。
ピタゴラスの定理は、直角3角形の斜辺の長さを表す式から、座標変換の不変量、剛体を成立させる剛体の回転法則になる。特殊相対論で4次元になり、 一般相対論では計量を各微分積項に掛ける修正を受ける。特殊相対論の空間のローレンツ短縮が何もない空間と物体とを比例的に短縮するように、 一般相対論も何もない空間だけが伸縮する理由はない。相対論の計量と不変量は、幾何を決定し、物体と空の空間を区別しない。但し、相対論には 質点の運動方程式としての測地線方程式がある。測地線方程式は、質点の速度積に時空間の曲がりを掛けて、加速度を与える。
(2019/7/9,2022/12/24)