−
大河小説 −
< 復讐遍 >
(さ)
「うっ、冷たい!」
うなじにヒヤリとした衝撃を感じて、オリオンは天井を見上げた。
ここは、世界でも脱出不能の牢獄として
名をはせる赤山刑務所の地下牢。
折音は冷たい鉄製のベッドの上で、ひざをかかえ、
寒さに耐えていた。
折音が見上げた天井には、北側の角に 暗いシミができており、
そこから水滴がたれているようだ。
上の牢がここと同じ構造だとすると、
もしや、あの位置は..!?
(オ)
もしや、あの位置は..!?
そうだ、2階に住んでる「仁じいさん」のトイレの位置!
するとあの、滴り落ちる水滴は……!?
(さ)
そう考えた瞬間、折音の身体はみるみる
巨大化してゆき、
やがてコンクリートの天井を打ち破ると、
正義の使者オリオリンへと変身した!
そう、折音は、あの液体にふれると、
オリオリンへと変身する。
かつて、ユーボン・カルテットに対抗すべく、
自らの身体に改造を加えていたのだ。
しかし、狙い撃つは、ユーボン・カルテットの巨匠
マジンガー=リバストン!
リバストンはすでに、変身合体を終え、戦闘態勢に入っている。
果たして、オリオリンは地球を救えるのか!?
(さ)
「あなたあ..なに考えてはりますのん?」
肌襦袢に身を包んだ若妻アルテ(イタリア人)が、
仁じいさんの肩を、甘えるようにつねった。
日本のドンとして、巨万の富を築いた老人、仁は、
数年前、公募で手に入れた若妻とともに、
湯河原温泉へと湯治に来ていた。
富を得るためなら、あらゆる手をつくしてきた仁。
そう、かつて、牢獄に閉じ込められたときも..
いや、昔を思い出すのは、年寄りの悪い癖だ。
しかし、あの男のことだけは、なぜか忘れられない。
折音。
牢獄で会っただけの男。
やつは、わしの出所後、どうしたのじゃろうか?
(ふ)
いや、それはもう考えまい……。
そう言って、若妻アルテの方に振り替えると、仁はいつものとおり、
「圭子の夢は夜開く」の出だしを思い出すのに専念した。
(い)
若妻アルテが経済界のドン仁と結婚したのは、
無論金目当ての事だった。
彼女には大金を必要とする理由があったのだ。
そうでなければ誰がこんな老人と……。
今こうして一緒の空気を吸っている事さえ耐えがたいのだ。
アルテはこの旅行に出るときに
一つの決意をしていた。
それは、ほおっておけばいつまでも生きつづけるかもしれない
この怪物めいた夫を殺害する事だった。
しかし、ただ殺すだけではいけない。
そんな事をすれば自分が疑われることになるのは
目に見えている。
自分へ疑いを向けさせることなく、仁に死んでもらはなくては……。
完全犯罪。
アルテの頭の中にはそのシナリオが描かれている。