500ml缶・2

◆プレッシャー

「あ、今どきますね。」
そういうと同時に彼は、お釣りのレバーをカコンとひねった。「あ、いや、急いでないんで待ちますよ」、と言おうと思い「あ…」と言ったときには、彼は既に釣り銭を取り出し終えた後だった。
「あ……りがとうございます」
もう譲ってもらうしかないじゃないですか、この状況だと。しかし、人の親切に対してこんな事いうのはアレなんですけどね。あの、後ろから物凄いプレッシャーがかかってるんですけど。
だって、順番を僕に譲ってしまった時点でもう、彼らの腕立て伏せ二百回は確定なわけじゃないですか。(推測)
さらに、ここで僕がモタモタ買ったりしたら、さらにペナルティーを課せられるワケじゃないですか。(憶測)
言い換えれば、彼らの未来は僕の双肩にかかってるワケなんですよ!(妄想)
わー、やべー、急がなきゃ!
とりあえず財布を覗いてみたら、100円玉1枚と10円玉2枚、ぴったり120円分あるんですわ。これは大きいですよ!千円札で釣りが大量に出てきちゃう事を考えると、10秒は短縮できるはずです!
さっそくコインを投入!100円玉♪ 10円玉♪ 5円玉♪ って5円玉ッーー!
しまったー!この大事なときに、5円と10円を見間違うなんて初歩的なトラップにひっかかるとはッ!!このタイムロスで彼らの腕立ては三百回になってしまったに違いないですよ。
(ひー!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい…!)僕は心の中で謝罪を繰り返しながら、慌てて千円札を追加投入し500ml缶のコーラのボタンを押した。ガラゴロッと音をたてて缶が取り出し口に出てくる。
そこで気付いた。あれ? もしかしてコレって、最悪じゃないですか?あの、つまり、最初に僕、120円入れようとしましたよね?でも、10円と5円玉を見間違えてて、結局 110円しか入れられなかったんですよね?それで、慌てて1000円を追加投入したんですよね?つまり、この時点で自販機に入ってるお金は、1110円ですよね?1110円で120円のジュースを買ったわけですよね?そしたら、そのお釣りは…。
990円ーーーッ!?
物静かな住宅地に、空しく響く18回の金属音。 ウィー、カチャリコ、カチャリコ、カチャリコ… (ひー!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい…!)
コレで腕立て四百回確定ですよ。

続く

メニューに戻る
トップに戻る