修了旅行記 前編

3/ 1/02〜 3/ 4/02

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3/1 金曜日 1日目
  さて、特別ページにてお送りする旅行記。この日の夜に横浜を出発したのであるが今後の伏線の  ためこの日の出来事も記さねばならぬ。現在地は室戸。宿でマリオゴルフなどしながらこれを書い  ている。   前日の打ち上げが予想通り終電後に終わったため、朝は研究室で目が覚めた。    「あれ、今日出発じゃありませんでした?」    「そーだよ。まーだなーんも準備してねーもんねー」   という後輩との会話をこなしつつ2ちゃんねるにて昼まで時間をつぶし、研究室を出た。   まず向かうは秋葉原、がんこラーメンである。牛骨を看板にするほど牛骨ダシが売り物であるこ  の系列店の中には、狂牛病騒ぎからこっち「当店のラーメンは牛骨を一切使っておりません」とい  う張り紙を出しているところもある。言語道断である。すでにがんこラーメンではない。   しかしながらここのがんこラーメンは名前どおり頑固に牛骨を使いつづけている。やや客足が衰  えたとはいえまだまだ人気店。店の前には3人ほど並んでいた。   この店には在学中何度もきて舌鼓を打ったものだが、就職してしまうと今度はいつ来れるかわか  らない。お別れのつもりでこってりに大盛、チャーシュー、卵のフルオプションを食った。   うまいがしつこい。これぞがんこ。   でもって帰宅……の前に。   我が人生最大の敵に対抗するための武器を入手するために自宅近くの病院に寄り道。   敵。それはこの鼻。アレルギー性鼻炎の地獄。春こそは我が最憎の季節。   昨年、この病院でアレルゲンを調査したところ、カモガヤなどイネ科植物が原因であることが判  明。その敏感さにおいて通常の数倍から数十倍の数値を叩き出した。これを見たこの病院の主、   「いやあ、すごいねえ!こりゃあ横綱級のアレルギーだよ!」   と実に嬉しそうに言い放ってくれやがった。   まあよい。とりあえず抗アレルギー薬をここでもらわんと4月を迎える前に鼻詰まりで窒息死す  ることがほぼ確定しているのだ。多少ユカイな発言など気にしていてはやっておれん。   待合室で待つことしばし、名前を呼ばれて診察室に入り、医者と対面。    「今日はどうしました?…(カルテをみて)…ああ君か!!   やかましい。愛するぞコラ。   ともあれ、アレルギーに対抗する武器は手に入れた。あとは帰るのみ。   ようやく家に着いたのは4時。9時に出発なので5時間。まずはメールをチェック。   ……Yahooオークションで10000円の物件を落札していたことが判明、第一の衝撃を受けた。   現在の所有金額は6万ちょい。電車賃は払ったとはいえ、一週間の国内旅行で宿泊費とレンタカ  ー代金を払ったらおそらく食費で足が出る。こんなもんを落札している場合ではないのだが。   まあよい。こっちにはマスターカードという強い味方もいる。いざとなったらコイツでキャッシ  ングである。   次に新規オークションのチェック。   ……こんなもんがでてやがる。   嫌がらせかコラ。   今まで一回もネットで取引されたことがなく、俺が名前を知っているベルセルクテレカコレクタ  ーのうち一人を除いて誰も持っていない極上の一枚である。おそらくボーダーは50000円。   しかしながら、9年前の、しかもわずか40枚プレゼント。このチャンスを逃すと次がいつあるか  は保証がない……という理屈をこねるまでもなく、コレクターとしてこれを見逃すわけにはいかん。   涙の大借金確定。   であるが、オークション終了が旅行中である。仕方ないのでなかつさんに代理入札をお願いし、  急いで旅行の支度をして出発。   横浜駅で今回いっしょに行くかめ君、まつなが君、よこた君とおちあい、22時24分発サンライズ  瀬戸号にて出発。   ったく、まだ旅行に出てすらいないのにこの分量は一体何事か。   このままではテキストファイルの制限を越えかねん。
3/2 土曜日 2日目
  朝6時半、目覚めたときには岡山。しばらくして瀬戸大橋に差し掛かる。   瀬戸内海から立ち上る朝もやの向こうにオレンジ色の太陽が浮かび上がり、太平洋とは比べ物に  ならないほど穏やかな海面に光を反射している。初めて見下ろす瀬戸内海は胸を打つほど荘厳な眺  めで俺を迎えた。善きかな善きかな。   7時24分、列車は高松に到着。駅にて讃岐うどんを食す。めちゃウマ。つゆが良過ぎ。よこた君  の残したぶんを飲んでいると、店のおばちゃんが「あやー、そんな気に入ってくれて嬉しいわぁ」  とわざわざ1杯熱いのを入れてくれた。ありがたくいただく。   そして、レンタカーを借りる。日産パルサー。車のことなどまったく知らんが、なかなか乗り心  地はよろしいのでこれは高級車であろう。そう決めた。ちなみに運転手はかめ君、ナビはよこた君  である。このメンバーだといつもこうだ。   最初の目的地は鳴門。渦潮を見るべく車は進む。屋島古戦場などを見るために細すぎる県道にハ  マり込んだりしながら東進。2ちゃんねる用語の飛び交うイヤな車内。   が、干潮の時間にはやや早すぎる時刻に着いてしまったため、いったん通過して徳島市へ。郵便  局に寄ってもらって昨日落札したオークション代金を払い込み、都内でも耳にしたことのある徳島  ラーメンを食べに行く。   初めて食した徳島ラーメンは、やや濃い目のしょうゆラーメンに焼肉を乗せたこってり味であっ  た。なかなかの美味。ご飯がよくあう。   で、徳島市を出発。正午すぎに鳴門に到着。   すげェ潮流。まるで川。てか急流。   鳴門大橋の上から海峡を見下ろすことの出来る「渦の道」から覗き込むと、おお、巻いておる。  白く泡立つ海面に次々生まれる渦渦渦。   ひどく禍々しいものを感じる!!とお約束の伊藤潤二ネタをかましつつ、この手の観光スポッ  トにお決まりのさびれかけた土産物屋に立ち寄る。   びわソフト発見。この微妙すぎる材料を使ったソフトクリームというのもこの手のスポットには  欠かせないものであると思うがどうか。静岡のわさびソフトしかり、函館のイカ墨ソフトしかり。   そして材料同様微妙すぎる味もお約束であろう。このびわソフトも期待にたがわぬ味覚を我らに  提供してくれた。すばらしい。   渦潮の迫力とびわソフトのお約束っぷり。俺の中で鳴門は観光スポットとして最高ランクの評価  をつけることになった。鳴門よいとこ一度はおいで。   2時半発。途中通りかかった小鳴門海峡にて小さな渦潮を見かけ、その見事な「小」っぷりに皆  で爆笑。   鳴門を出発してからは車内で寝込んでしまった。もともと車が苦手な俺。そろそろ限界が来たら  しい。目が覚めた時には6時。夕闇暗い室戸岬にいた。今日の宿はこの近くである。   途中道に迷ったがなんとか到着。夕飯は宿のはす向かいの釜飯屋「初音」。初音定食なるメニュ  ーを発見。とりあえず皆で合議の結果、初音「に」さまざまな料理が盛り付けられている食事であ  ろうとの結論に達した。ハァハァ。さぞかし多数の人間に賞味されてきたのであろう。ハァハァハァハァ。   急に上昇した妄想テンションをかろうじて押さえ込み、皆で釜飯を注文。初音定食は2800円とい  う高値を目にして断念した。   激ウマ。釜飯というものの概念がパラダイムシフトを起こすほどに。   これと皿鉢(サワチ)料理を食うためだけにもう一度高知に来てもいいくらいだ。   その後宿に戻り、風呂に入ったり持ち込んだNintendo64でゲームやったりして時間を潰してから  寝た。よこた君が2時から趣味であるF1の観戦をしていた。この分だと明日のナビは俺がやるこ  とになりそうだ。
3/3 日曜日 3日目
  7時半起床。快晴。朝食の後、荷物を持って宿から出るとパルサー(注:AT車)がエンジンか  けっぱなしで停められていた。そういえば卒業検定以来5年もの間1ミリも車を運転したことがな  い。好奇心にかられて運転席に乗り込んだ。足元にペダルが二つ。はてどちらがクラッチだったか  と一瞬考え込んだあと、ブレーキだと思ったほうを踏み込んでハンドブレーキを解除、ギアをドラ  イブに叩き込む。     →→→→   ブレーキから足を離した瞬間、クリープ現象により車は10センチほど前進。余裕をもって再びブ  レーキを踏み込み、車を停止させた。   これに気をよくした俺はさらなる冒険を試みることに。おもむろにギアを動かしてブレーキを開  放した。     ←←←←   おおおおお後ろに下がった。これがかの高等テクニック、バックであるか。うむうむ。   大いに満足を得て朝の戯れは終了した。座席をかめ君に譲り、出発する。まずは昨日、夕闇の  ため十分に眺めを得られなかった室戸岬へ。   室戸岬は太平洋の荒波に洗われる岩場だらけの岬であった。高さ10メートルを超える岩場が砂利  の海岸のあちこちに屹立している。岩肌に取り付き、ロッククライミングのようによじ登ると目の  届く限り海が広がる。風が強くてちと寒いが景色のよさはそれを気にさせないほどであった。   岬のはるか沖を睨む中岡慎太郎の像の下で写真をとり、室戸岬灯台に向かう。岩場の後方にそび  える山の上、岩場の直上に立つ白亜の灯台である。   山の上から見る太平洋はこれまた雄大の一言。吹き行く強風が海面に描く模様が朝日を複雑に反  射してこの上なく美しい地のシャンデリアとなっていた。   灯台の近くに最御崎寺(ほつみさきじ)という寺があった。有名な四国八十八箇所の二十四番目  の寺であるらしい。お遍路さんが何人も参拝していた。   ここに限らず、この日の行程ではお遍路さんを何十人と見かけた。四国八十八箇所。お遍路さん  は四国中に散らばる寺を徒歩で回るという。それほどまでしてかなえたい望みとは一体なんなので  あろうかと、ふと気になった。   室戸岬を後にして高知市の桂浜へ。ここには坂本龍馬の像がある。我が最も敬愛する歴史上の人  物である。駐車場の隣に立つ土産物屋で坂本龍馬フレームがあるプリクラを発見。問答無用でかめ  君を巻き込み、撮影する。よい。   坂本龍馬の像は桂浜の沖を眺めてそのさらに遠くを夢見ていた。   最初、なぜ坂本龍馬の像が桂浜にあるのかわからなかったが、出生地である高知城下に最も近い  浜がここ桂浜であることを知って納得。しかし、桂浜の美しさを見た時にはそれだけではないので  はないかと思った。   桂浜の海は美しかった。ここまでで見た高知の海の中でもとびきりに。海を愛した龍馬の像は、  最も美しい海に望んでいることこそふさわしい。そう考えれば、この像はここにあるのが当然なの  であろう。   桂浜の土産物屋では龍馬ラーメンなるものを食した。単なる具だくさんのしょうゆラーメン。そ  のチープな味わいはまさに土産物屋にふさわしい。また、2000円の観戦料に阻まれて今回は諦めた  が闘犬の見世物をやっていた。   これらを総合して、桂浜は鳴門に続いてこの旅の最優良観光スポットに認定された。   桂浜を出る。今度は長躯して足摺岬を目指す。   告白せねばなるまい。修論から開放されたことでちと調子に乗ってしまっていたことを。あるい  は、室戸岬の眺望や念願だった坂本龍馬像を見られたことでいささか高揚していたのかもしれない。  ここで俺は無謀ともいえる冒険的行為に及んだ。   車の運転である。   前述のとおり、車の運転など教習所の卒業検定以来5年間していない。今度の誕生日には立派な  ペーパーゴールドである。最初はどっちのペダルがブレーキであるかも定かに覚えていないど素人、  事実上無免許者が坂道とカーブの多い四国の道を運転しようなどと言い出したとき、同行者は軒並  み絶叫した。     かめ君「…本気か?」    よこた君「ギャグだろ?」   まつなが君「まだ死にたくねェ」   このステキフレンドどもめ。そのよく回る舌が地獄の閻魔に通じるかどうかを試させてやろうか。   ともあれ、須崎の「かわうその里道の家すさき」という道の駅からのハンドルを預かることとな  った。自分が言い出したこととはいえドキがむねむね。まずはシートベルトを締めて、ブレーキペ  ダル(朝の経験はここで生かされた)を踏み、ギアをドライブへ。ハンドブレーキを解除して……  ……えーと、何をするんだっけ?   「歩行者と車に気をつけて発進!」   おおそうか、あとはブレーキペダルを放せばよいのか。   というわけで5年ぶりにして21世紀初の我がドライブは始まった。幸い、道は広く、交通量も多  すぎず少なすぎない程度であった。とりあえず前を行く車をペースメーカーにしてつかず離れず進  むことにする。巡行速度は約60km/h。   しばらくは開けた平地を進んでいたが、さすがは四国、すぐに山岳ステージに移行して俺を苦し  めた。忙しいハンドル。頻繁なアクセルワーク。トンネルではライトを点灯し、急な下り坂ではギ  アをセカンドに入れる。上り坂のカーブでトンネルが近かったりしたらパニック寸前である。前の  車がどんどん先に行ってしまう。後ろの車が突っ込みそうになっている。あせるとハンドルがぶれ、  アクセルワークが急になり、直線でふらついてカーブで膨らむ。同乗者からはブーイングが。   プレッシャー。   ええい貴様ら、初心者を暖かく見守るつもりはないのか…というのは暴言であった。皆よく耐え  て助言をくれた。感謝。   結局、登坂車線に入って後ろの車をやり過ごし、ゆっくりマイペースにしろという助言に従うこ  とでプレッシャーから開放された。ふうむ、登坂車線とは初心者救済車線のことであったか。これ  で山岳ステージは怖くない。すなわち山を制覇したも同然。くっくっく。   調子に乗ってドライブを続けたが、山を抜けて市街地に近づくにつれ再びプレッシャーが。   人がいる。車が横道から出てくる。横断歩道がある。標識が激増。   いろんなことに気をとられて信号が目に移ってはいるが認識できずに見過ごしかけたことが数回。  一回は完全に見落としていた。青信号だったので問題はなかったが、恐るべき速度で交差点を突破  してしもうた。いや、信号については同乗者にも悟られずに済んだが。   さて車は市街地を越え、ちょっとした山岳を抜けたのち高知県中村市に近づいた。走行時間は一  時間強、走行距離は50kmを越えていた。いいかげんつかれてきたので通りかかった休憩所のような  ところに乗り入れ、狙った場所に駐車など当然出来ないので駐車場のど真ん中に車を停めた。   ハンドルをかめ君に返した途端、車内の空気が緩和した気がするのは気のせいということにして  おく。   ここから足摺岬まで、時として対向車を通すためにバックせねばならないほど道が狭く、かつ常  に脱輪の危険があるほど険しかったそうだが車内では眠っていたのでよくわからん。   足摺岬にはジョン万次郎がいた。その像はやはり海のほうを向いて沖を睨んでいた。これで幕末  の土佐が生んだ三人の英雄をすべて制覇したことになる。個人的にはあと山内容堂と岩崎弥太郎を  抑えておきたかったがまあよい。とりあえずこれで土佐は制したと見てよかろう。   で、四国最南端、足摺岬である。   怖っ。   あまりにも断崖絶壁。すべてを拒絶するかのような岩肌が海面に切り込むようにそびえたってい  る。その周辺を回る遊歩道は安全マージンを考えているのかコレと言いたくなるほど絶壁に近く、  うっかりすると笑顔で道を踏み外してしまいそうだ。見て回るだけで言いがたい違和感を感じる。  「ここは危険だ」と本能が叫んでいる。   そんな恐るべき光景の先端、海に最も突き出た断崖の直上に屹立する白亜の足摺岬灯台は、自然  の驚異に立ち向かおうとする人間の雄々しさを象徴するかのようであった。   さて、四国最南端は十分堪能した。帰るか。   と、その前に「亀石」なる巨石を見てみたいとかめ君が言い出す。距離的に大したこともないと  ころにあったので見に行く。   そして我々が見たものは、まさに亀の形をした岩であった。甲羅から突き出た頭には目と口まで  備わっている。かめ君も嬉しそうだ。さっそく亀石と戯れている。最後には亀石へのキスを強要し、  写真をとる。   ちと怖いが見所の多い足摺岬であった。難を言えば土産物屋っぽい店が見当たらなかったことか。  観光スポットならではのオモシロ物件を見つけられなかったのは残念至極である。   足摺岬を後にして中村市に戻る。今日の宿は「かんぽの宿 土佐中村」。夕食にて皿鉢料理を食  す。素材を生かした骨太の美味。色とりどりの食材を立体的に盛り付けた見栄えのよさ。土佐料理  の美学を見た。4〜5人前の盛り合わせを、海産物が食えないよこた君を除く3人で平らげた。さ  すがに満腹である。ちなみに、よこた君の食事はご飯に吸い物に鳥の唐揚げ、漬物少々……ただの  唐揚げ定食じゃねェか。いや仕方ないのだが。   皆でマリオゴルフ。今日は最後にチップインイーグルを決めたので俺的に勝利気分。スコアはド  ベもいいところであったが。   風呂上りに乗った体重計が68kgを指したことは何かの間違いであると自分に言い聞かせながら眠  りについた。ちなみに我がベスト体重は65kg。68kgは過去最高値。
3/4 月曜日 4日目
  7時半起床。晴れ。朝飯はうまくてボリュームあり。しかも500円とリーズナブル。大満足。   やはり朝食をちゃんと取ると気分がよい。   朝風呂を浴びてから9時にチェックアウト。部屋を出てロビーまで来たところでスリッパで出て  きてしまったことに気づいたよこた君が朝からメゲているのを横目に荷物を運ぶ。今日は四万十川  沿いに山を上る。目指すは日本三大カルストの1つ、四国カルスト台地。   この日のドライブ全般にいえることだが、道が狭かった。とてつもなく狭かった。俺が運転した  ら脱輪事故は十回や二十回ではすまなかっただろう。   しかもその所々で道幅を広げるための工事を行っている。それ自体はかまわないのだが、工事用  車両の通行が結構ある。10トン積みトラックなぞ現れた日にはパニックである。なんともスリリン  グなドライブ。しかしこれは国道である。恐るべし四国。   しかし、横に見える四万十川は美しいの一言。まさに清流、そして静流。鏡のような川面はそれ  が流れていることさえほとんど忘れさせるほどに平穏そのもの。川原に下りて川辺まで行ってみた  が、水面には波一つなかった。水も澄みきっていて飲めそうなほどである。むむう。   とりあえず川への礼儀として水切りに挑戦。我が右手から繰り出される石ころは水面をすべるよ  うに跳ね回った。我ながら素晴らしい切りっぷり。さすが俺。これで四万十川は制したといって差  し支えなかろう。順調なり、わが覇道。   さて、狭い道で対向車とすれ違うためバックせざるを得なかったり、道が全面通行止めで迂回せ  ざるを得なかったりしたがおおむね楽しい道行き。昼食で食べたカツ丼は700円にして大ボリュー  ム、かつ美味であった。東京で食えば1000円を下るまい。地方バンザイ。   山を上っていくにつれ、よこた君とまつなが君の鼻がぐずり始めた。見渡せば針葉樹林。てかス  ギ林。黒々とした梢には毒々しい橙色の房。花粉の塊である。こりゃあやられるわけだ。ゴルフ好  きのかめ君、「ああいうスギ林にボール打ち込むとさあ、『カーン』っていい音がして橙色の  煙がモワッって立ちのぼるんだよ」などとアレルギー持ちには身の毛もよだつような体験談を聞  かせてくれやがる。   俺はといえばあまりアレルギーが悪化しなかった。むしろ快調なくらいだ。ある程度の期間、飲  み続けなければならない抗アレルギー薬の効き目がようやく出てきたのであろう。また、俺のアレ  ルゲンはイネ科植物がメインであってスギはそれらに比べれば大したことはない。ここのように成  熟した針葉樹林では、イネ科植物のような陽性の下草はあまり生えないのかもしれない。   などと個人的には興味深いがわりとどうでもいいことを考えているうちに四国カルスト台地に到  着。なんというかまさにカルスト。山一つ全部カルスト。無造作に転がる白い岩と白い山肌。これ  すべて石灰岩である。山全体がなんともカルシウムチック。塩酸を満載したタンカーでも持ってき  て爆破してみたい。日本が二酸化炭素排出量制限条約に抵触することは間違いなかろう。   ところで地球において大規模な石灰岩塊は海中の生物(サンゴなど)の働きによって生じる。つ  まり、このあたりは大昔には海の底であったはずだ。四国の中でも最高に近い標高であるこのあた  りが昔は海の底。地球の神秘である。   適当に写真をとって時間を潰した後、台地を後にして山を下る。目指すは今日の宿泊地、宇和島  である。どう見てもただの林道にしか見えない国道を下る。怖ェ。が、ほどなく道幅が広くなり、  非常に快適なドライブとなる。二車線道路バンザイ。   ここで昨日に続きまた車を運転したくなったのでちょうど休憩のため入った道の駅でかめ君から  車のキーを強奪。運転席に座った。昨日走った道路に比べるとカーブも少なく、道幅も広かったの  で非常に楽であった。   が、道がカーブに差し掛かるとどうもうまくいかない。えらくGがかかるうえ走路が安定しない。  ふらつきながらカーブを繰り返しているとかめ君からアドバイスが来る。   「突っ込みすぎ!カーブに入る前にしっかり速度を落とせ!」   ……あ、なるほど!   こうして俺はスローイン・ファーストアウトという高等テクニックを身に付けた。格段にスムー  ズになった我がハンドルさばき。すでに車での走行はマスターしたも同然であろう。実に気分がよ  い。これで助手席に婦女子を乗せて拉致するという(訳:彼女を乗せてドライブするという)夢の  実現は目前となった。あとは助手席に乗ってくれる彼女を見つけるのみである。   さて、道は続き、目的地の宇和島駅の手前まで来たところで過去最大のピンチを迎えた。   実は、教習時代から左曲がりが苦手で、それから5年後の今、手順もハンドルの回し具合にもま  ったくもって自信がない。ここまでは郊外の緩やかなカーブを曲がるだけであったのだがさすがに  市街地では直角な角を回らねばならぬ。その状況が宇和島駅の手前300メートルまで来た時点でつい  に生じてしまったのである。    「……左曲がりってどうやるんだったっけなぁ」   信号待ちの車内を一言で恐慌に叩き込みつつ、我が内心は穏やかではなかった。   が、信号は待ってくれぬ。無情にも青に変わる信号。車は進み、ついに我らの車が角を曲がる時  が来た。    「…なんとなくハンドル一回転くらいでよかった気がする」   再び恐慌に陥る車内。なにやらアドバイスのようなものを叫んでいたようだが俺のほうはすでに  耳に入る状態ではない。助手席に補助ブレーキがないことを恨みつつ、俺は運命のハンドルを切っ  た。    ゴリッ   …………聞かなかったことにする。   さて、宇和島駅前についた。奇跡的に歩道への寄せはうまくいった。かめ君とドライバーを交代。  本日の走行距離は40kmほど。昨日とあわせて走行距離3ケタの大台にのった。すでにいっぱしのド  ライバーと称して間違いあるまい。「3ケタは大台ではない」という突っ込みは却下する。   宇和島駅を出発して5分。駅を見下ろす高台の上、年金保養センター(不正確)という宿が今夜  のやどりである。宇和島市外を一望できるなかなかの眺望。西を向いているため逆光だが朝のうち  や夜景はさぞかしきれいであろう。   到着時刻は5時前。早速マリオゴルフを始め、しばらくして飯を食べるため外に出た。城マニア  のよこた君が飯の前にまず宇和島城を見ようと提案したのでそちらへ向けて出発。   …が、城門の案内板に書かれた「閉門時間5時」の文字がよこた君の野望を厳かに打ち砕いた。  そのときの時刻は6時過ぎ。当然、門は閉ざされている。    「それでも観光スポットか!閉門早すぎるぞ!」   憤慨するよこた君をなだめつつ飯屋を探すことに。そして我々が知ったのは、宇和島の夜は早い  ということだった。駅前の商店街ですら6時にシャッターを閉めてしまうところが結構ある。愛媛  県最初の宿泊地は観光客に厳しい街であった。   結局、かろうじて見つけた飲み屋で食事をさせてもらうことにした。鯛めし定食やとんかつ定食  (1300円)にビール大瓶(600円)を注文するブルジョワどもを横目に、野菜炒めライス(700円)  を注文する。飯屋の前に寄った本屋でジャンプとヤンサンを買ってしまったのでこうなるのはしか  たない。昨日の68kgは気のせいだったのだから体重を気にしたはずはない。純粋に金銭的事情に  よるのだ。   宿に戻る。高台を高速歩法で登ったため足腰が死にかけた。予想通り夜景が綺麗である。   風呂上りに体重を測りなおす。66kg。   ふ、やはり昨日のは間違いであったか。夕飯を抑えて損した。……あ、いやいや、別に体重を気  にして野菜炒めにしたわけではないのであった。今のはナシである。
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