指を、蚊に食われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 疼 き 」 ナ オ ラ ナ イ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




休み時間は貴重な時間。それが例え10分休みでも、オレにとってはめちゃくちゃ大切なモノ。用もないのにフジの側に行くのが日課。読書中のフジは真剣で、声掛け辛い雰囲気充満。ざわつく教室内で、そこだけプロテクターに守られてる感じ。でーもそれを破るのがオレの特権!!


「フジ〜おはよ〜ン」


おしくらマンジュウして、フジを半分退かして半ケツ実行。オレがニカッと笑うと、フジは「またか」って顔でこっちを見た。呆れ顔?気にせず肩にアゴのっけて甘えちゃえ。


「菊丸クン。見て分んないかな?僕今読書中なんだけど?」
「ごめ〜ん、分んなかった☆」


肩を窄めるフジは、ふっと笑った。降参の合図だね。オレもつられて笑うと、微笑み返してきてくれた。ウン、今日もいい日でなにより。


「エージ宿題やってきたの?今日数学、エージ当り日でしょ?」
「げ、マジ?オレ何もやってきてないよ〜!どーしよ、どしよ〜!」
「もう、ほら」


カバンの中からノートを取り出すと、フジはそれでオレの頭をコツン、と叩いた。


「早く写しちゃいなよ。いーい?今日だけだからね?特別だよ?」


“トクベツ”だって。ウワワ、飛び跳ねちゃいたい気分マックスだよ。それに、さ。オレですら忘れてること、覚えててくれてるなんてさ。嬉しすぎちゃうよ。


「だからフジって好き〜!アイ、ラブ・・・フジ〜っ!!」


どさくさに紛れてギュウウーっと華奢な身体に抱き付くと、優しい髪の匂いがしてドキドキ。ウーン、好きだ。


「ちょっとエージ、やめてよ。ちょっと・・・」


モゴモゴと動くフジの耳が赤くなってるのに気付く。ウーン、好きだ。


「菊丸と不二がまたホモやってるぞー」


クラスメイトがドドっと笑う。


「ゴっメーン、オレらラブラブだからー」


満面の笑みで見せ付けちゃる。いーでしょ、いーでしょ!こーんな可愛いフジ独り占め!


「なんだ英二、また不二とじゃれてんのか」


ドアの方から聞きなれた呆れ声がオレを呼ぶ。ピクリ、フジの身体が一瞬跳ねた。ナニ?


「あれ〜、大石じゃん!どしたのー?」


フジを抱き締めたままドアの方を見ると、大石が教科書類を抱えながら立っていた。隣りには、仏頂面の手塚もいた。

ア、なる。そゆうこと。

フジの赤い耳が、通常モードに変わってった。フジと手塚の目が合う。ナニ?おまえら目で会話してんの?フジの瞳が手塚になんか訴えてる。ナニ?そこだけ空気違うよ?口を開けようとしたフジを、身体で遮った。


「2人共、もうチャイム鳴るよン?」
「お、ほんとだ。じゃあまた部活でな。あ、おい手塚待てよ」


フジは俯いて、それから黙ってしまった。
指、痒いな。




○  ○  ○  ○  ○



指を蚊に食われた。

人差し指の爪の横。

桃色のぷっくりしてる。

急に痒くなってきた。

掻いちゃ駄目なのは分ってるだけど。

我慢出来るはずもなく。

掻き毟った。

でも足りない。

全然痒い。

引っ掻いて、抓んで、削って、十字の跡付けて。

それでも痒い。



○  ○  ○  ○  ●




「一緒帰るっしょー?あのさ、オレおいしいトコ見付けちゃってさー」
「エージごめん、手塚に用あるから・・・先帰っててもらってもいい?」
「ン、オッケ。ほいじゃまた明日ね〜」


手をひらひら振って、小走りする後姿を見送った。その揺れる姿が、喜んでる。きっと笑ってんだろうな。小さいフジが向う先には長身の彼。自分に向ってくるフジを認めても、顔色1つ変えない。

手塚に用って、ナニ?
フジ、行かないで、行くな、行くなフジ―――!

オレには超能力はない。消えた2人の残像を見ながら、思い知った。


「英二?あれ、1人か?不二は・・・ああ、手塚と帰るのか」


いっつもいっつも追い掛けてたから。見えちゃったんだよ。別に見たくもなかったし、知りたくもなかったのにさ。フジの追い掛けてる先が見えちゃったんだよ。いつだったかな、知っちゃったんだよね。フジと手塚の間に、トクベツなモノが生まれてるって。


「英二?どうした?」


そん時ね、なんか悲しかった。オレだけ置いてけぼりされたみたいで、仲間はずれされたいみたいで。フジ、オレ悲しかったんだ。それから眠れない夜が続いた。嫌だったんだ、フジがオレ以外の誰かの元へ行ってしまうのが。ズルイよ手塚、フジはオマエだけのじゃないんだよ。なのに。何で連れてっちゃうんだよ。フジ、どうして手塚がいいの?オレのほうがずっと長くいるのに。
盗られたくない、本気で思った。


「英二」
「あ、ごめ〜ん大石。なんでもな〜い」


独占欲強いことも、フジのせいで知らされた。
痒いよフジ。




○  ○  ○  ●  ●




痒みが消えない。

血が滲み始めた。

吸ってみる。

唾液と吸引力で染みる。

跡になって悪化するけど。

痒くて仕方ないから。

咥えてみる。

ヌルリとした熱が痒みを包んだ。




○  ○  ●  ●  ●




「エージ・・・どうしたの・・?」


キレイな人の顔色って、どうしてこんなにキレイなんだろう。取っ付きにくそうな無機質顔に色が付くと、ほんとにキレイ。それが例え恐怖を刻んだ表情であってもだよ。君はオレの至高の天使。


「エージ・・・?」


もどかしそうな顔。うん、今の顔すごい好きだな。


「最近のエージ、ちょっとおかしいよ?」


不本意なことを言われてしまった。君を眺めて悦になるのは、本人からはオカシイク見えるらしい。フム。


「ンー、そうかもね」
「え?」


影を帯びても好きなんだよね、ウン、好き。
笑ってる顔も好き。
喜んでる顔も好き。
怒ってる顔も好き。
悲しんでる顔も好き。
苦しんでる顔も好き。
全部、フジの顔なら全部好き。


「なんか・・・・・エージ、怖いよ・・?」


そんな顔も好き。フジが好き。
でもね、そんなオレにも1つだけ嫌いな顔があるんだよ。


「ソ?オレ至ってフッツーだよー?」


むしった指から血が落ちた。




○  ●  ●  ●  ●



もう限界だ。

何をしても痒い。

どうすればいいのか。

気になってしょうがない。

何をするにも指が気になる。

痒みより痛みを、痛みより安楽を。

求めてしまうのはごく自然のこと。



●  ●  ●  ●  ●



「フジ」
「・・・・・」
「フジ」
「・・・・・」
「フジ」
「・・・・・」
「返事してよフジ」
「・・・・・」
「また犯っちゃうよ?」
「・・・・・」


嫌いでもいいよ。
存在を認められないよりは、マシだもん――

フジ、お願い笑って?あの時みたいに、彼に笑うみたいに、柔かい笑顔つくってよ。オレのためだけにつくって。お願いフジ。


「・・・僕・・友達・・・・もうやめる・・・・」


インパルスが痒みを違うモノへ変えた。




○  ○  ○  ○  ○



疼き治らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イイワケ
倉枯わたこ様からの25000hitリク、「黒菊不二」ッス!
最初は3年6組だったのにネ☆(笑)つーかコレは黒いの!?
もう暑さのせいってことにしときましょうよピカ子さん・・・。
・・・わ、わたこさん、折角リクして下さったのに(喜んでくれていたのに・・!)
中途半端な上にヘンピなモノが出来上がってしまいました!もう笑っといて下さい!
01/07/17