綺麗な思い出になる前に。
難 し き 歌 声
「今日は一緒に帰ろうか」
まだ午後になったばかりの明るい時分、空は青かった。今夜の星は綺麗だろうなって思うほど青くて、吐く息が白いほど寒い帰り道。何度隣りを歩く彼の手を握ろうと思っただろう。何度言い訳を考えながらこの道を一緒に歩いただろう。寒いよね、不二の手ちっちゃいね、ササクレ出来てるよ、いっぱい切欠に使おうと思ってた言葉を考えてたのに、今まで1度も使ったことない。これから使う日もこないだろうねと思うと、なんか酸っぱいよね。
「結局僕達、1回もケンカしたことなかったね」
「そーだね、まぁでも未遂はあったけど」
「そうだっけ?」
「そうだよ、覚えてないの?」
オレたちの出来事は、思い出になる。思い出の数々。アルバムの中のほんの一握り。それは過去。今この瞬間も、もう過去になっちゃうね。あんな日もあったねって、昔話になるんだね。そして忘れちゃうのかな。楽しいこととか、辛かったことも、怒ったことも、初めて会った時のことも、交わした会話の中味も、色んな切欠も、思い出になって、最後には消えちゃうのかな。
綺麗な思い出になっちゃうのかな。
「でも初めて英二と会った時のこと覚えてるよ」
一瞬で嫌な意識を飛ばす、心地好い声色。ね、オレその声に弱いって知ってた?
「入学式の時、1人だけ遅刻してきたもんね英二」
横顔がニコリと微笑む。あとほんの僅かのこの定位置。なくならないものだと思ってた。
「寝癖だらけで体育館に来るなりごめんなさ〜い!って謝ってたよね」
「やーなこと覚えてんなァ不二」
「あれは印象的だったから」
くすくす笑う不二は想起しながら眺めてる、懐かしい思い出を。
「楽しかったね」
「ン、そーだね」
楽しそうに思い出す横顔に、いつかオレもなるのかな。なりたくないよ、オレはなりたくない。忘れそうになるほど擦り切れた、綺麗な思い出なんかになりたくない。このまま終わりにしたくない。過去形で話したくない。
「オレ―――」
言いかけた時、耳を掠める音がした。卒業式に合唱する歌がピアノで演奏される。何て曲だっけ、すごく嫌な曲っていうイメージしかないのは、古文好きの不二から教えてもらったせいだ。ピアノの音がなんか泣き声みたい。誰かがピアノ弾いてるだけなのに、切ない誰かの泣き声みたい。この曲を歌わなきゃいけないんだね、オレたち。
またその思考を遮るのは不二だった。今度は歌声だった。
「今こそ別れめ、いざさらば」
空気と一緒に溶けちゃうような、そんな音。でも歌詞は溶けずに浮遊してる。
「オレその曲やだ」
不二の声で聞くのがやだよ、胸が痛くなるよ。
「オレは歌わないよ不二」
ちょっと深刻そうに言うと、ふ、と不二が笑った。
「そんなこと言わないで英二も歌って、ほら一緒に」
「やだって」
「最後だけでいいから、ね?」
最後がやなんだよって言ったら、頭のいい不二ならピンとくるんだろうけど。でも言わないよ。
「今こそ別れめ、いざさらば」
だって不二は思い出にすんでしょ?だったらもういいか、なんて思わなくもないし、さ。
「はい、よく歌えました」
綺麗な思い出は、思い出になる前になくなりそう。忘れないでね、それでも願わずにはいられないよ。
数少ない帰り道、難しい歌を一緒に歌いました。
イイワケ
マイダーリンわた子ちゃんに贈ります。5千打記念です、いちお…(汗)1個はノーマルで、もう2個目は黒菊文を贈りつけるという、はたまた迷惑なことをしてしまいます☆(ごめんわた子ちゃん、笑って許してー)しかもこれ、わた子ちゃんに3千記念にあげたのの続きっぽいし〜(笑)黒菊でリベンジしてやるわー!ってことでゴメンねわた子ちゃん!(涙)
そーだ、イイワケらしくイイワケしよ(ギャー)ちなみに「今こそ別れめ、いざさらば」って「別れ目」じゃないんですよね。古文好きなら「こそ」という係り結びを見付けて下さい(笑)。ようはこの意味、「今こそ(強意)別れよう」って意味だと思ひます…多分そう…です。だからそれを不二に教えられた菊ちゃんは、この歌が嫌いなんだー。でも不二は知ってて普通に歌ってるから、もうオレ達の関係は発展することなく過去になって終わってしまうんだねーっ、じゃあもうオレもお仕舞にするわ〜でも未練タラタラ〜、ってゆう菊ちゃんの悶悶としたもんなんですヨ、てことでお願いします…(泣)あァまたなんて長い…あーもう。
02.01.28