俺が生まれて初めて欲しいと思ったその人は泣いていました。

何も隠さず憚らず、はらはらと涙を零して。

静かに、でも熱く、怨み言を吐いていました。

● ● ●




彼方の奏でる音は
上等な植物塩基

(ザ パッシブ)




● ● ●

切欠なんか、どっか行った。


















ずっと見ていた。ただ気になったから。その理由と切欠なんか忘れたけど、癖になっていた。彼が視界に入ってると、見たくて見たくて仕方ない衝動が膨れ上がって、そしてそれに従った。たまに目が合うと、彼はぎゅっと優しく微笑んでくれた。そして話し掛けてくれた。他愛もない会話だけど、中味を今でもしっかり覚えてる。思い出すたび声が蘇る。囁くような甘く響く声。それが聞けるだけで嬉しくて、本当にそれで十分だった。

だってオレはガキだから、求める対象も知らなかった。


● ● ●


「呼ばれた者からコートに入れ」


多分、あっちからもオレを見て欲しいと思ったんだと思う。負けてない、そう示したかったんだと思う。そうじゃなきゃ説明がつかない。


「まずはお前達からだ」


千載一遇のチャンスだと思った。はっきりさせる、これ以上ない絶好のチャンスだと思った。


「倒しちゃってもいーんすよね?」


勝つ気でいたし、勝てると思ってた。オレは色んな先輩に勝ってたし、負ける気がしなかった。遠近感が狂ってて、根拠のない自信を持ってた。ここでオレが勝てないのは1人だけだと思い込んでいた。


「おてやわらかに」


敵対心剥き出しにしてるオレに、いつものように微笑む彼。余裕の笑みなんかしてると負けますよ?言おうとしてたらオレが負けた。折角のチャンスだったのに、慢心が勝機を奪った。雨が降って最後まで出来なかったけど、それでもそのまま続けていたらなんて憶測はするまでもなく明白だった。


「バケモノ」


自信をなくして遠近感を得た。


● ● ●


ある日、いつものように目が合ったから軽く笑ってみせた。そしたら目を反らされた。何でだろう、考えてる内にまた反らされた。オレ以外には笑い掛けてるのに、何でだろ。


「先輩」


何気なく背後から話し掛けてみると、すっと立ち上がって人の輪の中へ紛れて行った。心臓が痛くて、世界で1人になったような孤独感が襲ってきて、誰かに声を掛けられるまで直立不動してた。


● ● ●


「君がいなきゃ良かったんだ、君が、君さえいなきゃ、君」


自分でも何を言ってるか分かってないみたいに、勢いに任せて吐露される言語を排出する人。でもその音は甘くて、その中味がどうであれ、本当に心地よい音で、オレは多分話し掛けてくれて嬉しいとさえ思った。


「消えてよ、僕の前からなくなっちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ」


誹謗中傷以外の何物でもない言葉だけど、存在そのものを否定する言葉だけど、それでも無心で音だけ聞いていればやっぱり甘く、耳の奥で鳴り渡る。愛は盲目とはよく言ったもんだけど、どうやら耳も聞こえなくなるらしい。愛は偉大で、色んな因子を兼ね備えてる。その因子は優勢よりも、劣勢のほうが多いらしいけど、そんなのまだ知るはずもなく、オレは彼方の声にただ酔うばかり。


「消えて、今すぐ消えて、嫌い嫌い、君なんかいらない――」


何でもいいから、もっとオレに言葉を掛けて。無心でいられる間に、もっともっと、もっと。彼方の声をオレに下さい。


「嗚呼、もう死んだ」


どんな言葉でも欲しかった。


● ● ●


脳裏に浮かぶのは最早呪いの言葉だけど。

彼方の声は尊いものだから、求めずにはいられないんです。

発声器官から出された音でしかないのに。

どうしてか惹かれています。



















イイワケ
なんかもータイトルとかいい加減シンプルにしたいのにィィ・・・!!(泣)なのにまた人知れず凝ってしまったアタシの名はピカ子ォォ・・・。
「呻吟僕の〜」の最終型がこれなのかなーと思いつつ、これだけでもいいなーと思いますが。どーでもいいや☆(いえーいアバウティー)
王子視点は「ザ パッシプ」=受動、恨み言で、不二視点は「ジ アクティブ」=能動、願い事。って感じで対比?してみましたー。
02.01.24