追いかけて 追いかけて 追いかけて
くるくる回る くるくる回る くるくる回る
木 馬 は 回 る
回 転 木 馬
( く る く る ま わ る )
屋上に呼び出した。といっても、それはいつものことだったので、この展開に、驚けばいいと思った。
( 追 い か け て 追 い か け て 追 い か け て )
「跡部は忍足のことが大好きなんだよ」
「藪から棒に何言うてんの」
「分かってんでしょ忍足」
忍足の目を少しだけ強く見ると、忍足の目が少し嬉しそうに微笑んだ。その後ろには、雲ひとつない青い空が惜しげもなく広がる。
「まあ、多少は懐かれてんやろね」
忍足は平気で語弊を使う。自分でつくった状況だということを棚に置き、苛ついた。少しだけ自分のことを考えていると、
「なんやジローも知っとったん」
ねっとりとした声色が、突風に押されてやってきた。
「よお見とんな」
高いところにある太陽は素肌を熱くする。眩しい、喉が痛い、日陰に入りたい。
忍足の黒い髪が、さらさらと風に乗る。黒くても、光に当たれば綺麗に輝くなんて、初めて知った。
「ジローは物知りやな」
そんな目で、見ないで欲しい。
「跡部が俺んこと見てんのも知ってて」
忍足はずるい。
「俺がそれを見て見ぬ振りしとんのも知ってる」
忍足はずるい。
「俺の気持ちも、跡部の気持ちも、全部」
やんわりと自嘲的に笑って、冷めた熱みたいな視線をこっちに向ける。やめてよ忍足。忍足は、ずるい。
「ジロー」
甘ったるい声、跡部に語ることのない音、濡れるような瞳―――それを知った上で拒絶する―――結末も全て知った上で。
ほんとにずるいのは誰かなんて、ほんとは知ってるけど。
( く る く る 回 る く る く る 回 る く る く る 回 る )
忍足は小さくため息を漏らすと、ズボンのポッケットから、封のあいたマイセンを取り出す。手のひらに1本落とし、ライターで火を点す。その流れるような動作、止めたくなるけど、結局煙が舞い上がるまで、何も言えなかった。
「煙草、やめてなかったの」
「大会終わったからな」
忍足は大きく吸い込んで、大きく細い煙を吹く。緩やかに風に乗せられるそれに、煙さも匂いも何も与えてはこなかった。
「おまえも吸うか?」
1本分のフィルターを覗かせて、手の前に据える。
「軽く吸ったら、むせんと思うし」
忍足は小さく微笑んで、ライターを取り出す。
優しい忍足、優しい忍足、全部呑み込んでくれそうな、そういうとこが、
「忍足」
響いてしまったんだろう。
「跡部にも、こうして教えたの」
やるせない気持ちが、昂り、衰える。
「跡部が今何吸ってるか、知ってる」
「さあ?」
嘘つき。
忍足の手の中にあるモノクロのマイセンを、どうにもならないのに睨みつけた。
( 木 馬 は 回 る )
イイワケ
じろたんは忍足がかっこいいことを知ってます。それゆえ跡部が忍足に惹かれちゃうことを一方で認めつつも、やっぱり諦められない矛盾を抱えてんです。っていうお話。
良かった、前回より1ヵ月立たずに続きあげられた!(そこか)
04.06.29