追いかけて 追いかけて 追いかけて
くるくる回る くるくる回る くるくる回る
木    馬    は    回    る


回 転 木 馬
( お い か け て )



練習が始まっても、そこにその姿はまるでなかった。支配者がそんなんだと、難民が出てきますから、始末でもつけて下さい。と、らしからぬことを思った。際立つ存在感に、ただただ苛立つ、夏至の過ぎた昼下がり。



       




こんな天気の良過ぎる時は、閑散としたホールにいる。窓の外との温度差を感じさせる、心地良い床に、壁を背に腰を下ろしているんでしょう。重量感のある、扉を開けて、進んでいくと、開けた視界にその姿があった。俺にはそれが、死んでいるように見えました。


「跡部」


あまりにもその頬が白いので、寝息もたてないので、自分が何に話しかけているのか、分かり難いからやめていただきたい。


「もう2時やで」


歩み寄る。上履きが、床に擦れる音がホールで小さく響く。跡部の高さに倣って話し掛ける。


「跡部?」


瞬間、跡部の見開いた目が、俺を見た。寝起きにしては、相変わらず素早い反応。


「悪い、今行く」


急に立ち上がると、立ち眩みがしますよね。と、突っ込みたくなることを跡部がしたので、反射的に腕を差し出し支えます。腕の中にすっぽり収まる身体は、ひんやり冷たくありました。


「跡部また痩せたんとちゃうの」
「知らねえよ」
「また寝れてへんの」
「るせえよ」


語調が荒くなるけど、跡部は手で顔を覆いながら、ずるずる床に崩れていく。


「まだ負けたこと引きずっとんのか」


瞬間、跡部が跳ねました。


「おまえに何が分かんだよっ」


分からん。全然分からんよ。何でそんな泣きそうな顔してんのかも。だけれども、他ならぬかの者なら分かるんでしょう。ジリ、と肺の隣が疼きます。


「おまえなんかには、分かんねえよっ」


無防備に、感情を見せます。多分、彼は俺を部外者だと決め込んでいるので、誰にも見せない顔、声、言葉を俺には使用します。そういう俺を、本気で羨ましがってるのがいるってのは全くもって信じられない話だけど、かの者がそれを実証しますから、黙って跡部を眺めていました。


「俺のことなんて、分かりっこ、ない」


自嘲する跡部は闇雲に幼くて、俺を睨みつけるその目がやけに挑発的で、


「跡部」


しおらしいと言えばしおらしいとも言えなくもないので、
本当にしおらしくしてあげようと思いました。



       



「…んんっ」


というのは嘘で、本当は、気配を感じたんです。そこにいるのが分かったんです。


「…跡部は何が欲しいん?」


濡れた口元でそう言うと、跡部は息を乱しながら、


「俺を、本当に知ってる人」


と、涙目で健気なことを言いました。



      









イイワケ
続きモノでえす。普通に楽しいでえす。次はジロたんとおっしーで書きまあす。
04.06.04