涙が出る、悲しいから。
咳が出る、苦しいから。
欲が出る、愛しいから。

コ レ 即 チ 生 理 現 象 。

裏切られた気分、見損なった気分、蔑みたい気分。
そして、置いて行かれたような気分。

僕の知ってる君はどこ。


【1】


「どうした?」


眼鏡越しの長身者は、僕を捕まえては誰も訊かないことを訊く。


「寝不足か?」
「どうして?」
「顔色が冴えない」


は、僕は笑う。というより多分自嘲だ。忌々しい。


「あまり無理はするなよ、レギュラーだろう。まあ、言われるまでもないか」
「待てよ乾」


背中を向けようとする姿を、堪らず呼び止める。


「どうしてあの1年に負けたの」


ゆるりと止まる背面に、僕は安堵する。


「あんなにすんなり、どうして君が容易く負けたの」
「何だ、それが本音か」


姿勢を変えずにこちらを向くと、なんでだろう。眼鏡の奥が険しくなってる。


「全くおまえは面白いことを言う」


乾は唇だけで笑うと、ゆっくりと僕の方へと直進する。
その歩調は穏やかで、しなやかで、僕には乾の顔色が分かるはずもなかった。


「今まで俺を歯牙にもかけなかった者のセリフとは到底思えないけど?」


ぐッと、喉に詰まるものを堪える。


「自分の至近にいる者は手塚ぐらいのもんだと思ってたじゃないか、
それが今になって何を急に?」


排他的な笑みで僕を見ると、吐き捨てるように、でも緩やかに、


「やめてくれよ」


突き放された。


「俺も嫌いなんだよ、買い被られるのが」


僕の目を見ながら言った。


「いい加減、少しは焦ってみたらどうだ?」
「負けた俺が言うのも何だけど、アイツは手強いよ。それに今よりもっと強くなる」
「早くその心根入れ替えないと、順位が更に変動するだろうね」


それらの1つ1つの肉声は、まるで作られたシナリオのようで、とても淡々としていて、僕の弱点を言い当てているような声で、僕は喉が痛くなった。


「…聞いて呆れるって言ってるんだよ、何が青学の三強だよ」


僕はありったけの口内の水分を使って、漸くそれを言うと、
乾はそれを見透かしたように笑った。


「おまえを突き動かすのは、保身なんだな」
「それ、どういう意味」


掠れる声をひた隠し、遠い彼を直視した。


「分からないならいいよ」


そう言い終えると、乾は後姿になって消えていった。
あとに残るのは、薄暗い廊下に取り残された僕と、ぽっかり空いたその存在感だった。


【2】









イイワケ
すんましえん、次で終わるんで、少々お待ちを。
04.03.14