多 分 ぼ く は 掬 わ れ た か っ た















その先に広がる廊下は無限。
まだ明かりの点かぬ暗闇に目を下ろす。

「ごめん、こんなこと言うの、駄目なのは知ってるけど」

吹き溜まりが舞い上がるように、感情が撒き散らかる。
一度許すと後はもう、止まり方を忘れたみたいに口から零れる。
狂ったラジオ?そんな表現が合うような。
外国語が流れるみたいに、多分乾が聞き取りにくそうな顔してる。
見なくたって分かる、僕が壊れていても分かる。
そのくらいは、知れるような間柄。

「言ったら負担になるの知ってるけど」

涙腺が決壊して、みっともない。
泣き声以外の何ものでもない声が耳の奥で何度も回ってる。

「マイナスばかりだって分かってるけど」

喉が熱くなる、水が飲みたい。
150円出したら、買ってきてくれるかな。
ほんとに何て、バカなアタマか。

「でも好きなんだ」
「どうしょうもない」
「好きなんだ」

八つ当たりするみたいに、声をあげて。
泣きわめくを実演してるみたいに。
感情は昂る。
安い言葉が矢継ぎ早。
僕はどこかで、やはり醒めている。

「ごめん、ごめん、ごめん――――」

それでも僕は、直らない。
壊れてた方が、楽だって知ってるし。
見上げて、その表情を目の当たりにするのも、引けるし。
顔が熱い、妙に熱い。
こうゆう時、末端冷え性の手は有効。
両手を頬に当てたら、目を隠した格好になる。
僕はその無意識が、可笑しく思った。

「すごい好き、ずっとずっとずっと前から、本当にずっと」

僕の頭、たくさんの感情が溢れてる。
口走ってしまったついでに気持ちよくなってしまえってのと、
何で言ってしまったのか後悔してる焦りと、
そんなに僕は乾の顔を見たくないんだなあと納得するのと、
廊下に灯る蛍光灯の時々ジイーっと鳴く音と、
何もなかったことにしたがってるいつもの僕と、
ただ泣いていたい熱い顔、
乾と一緒に過ごした日を振り返る記憶、


(それだけで良かったのにね)

至った瞬間、ものすごい波が僕の中で弾けて、
僕は声ばかりか、口から唾液を垂らした。
掌で拭うと、唇に冷たい感触が当たって、喜んでる僕がいる。
けどメインは押し潰されそうになる僕が泣く。
声みたいな声が出ない。
泣きたい時に声が出ないのは悲しい。
やっと出た声は変な音。
泣き声って、こんなんだっけ。

僕は崩れるようにしゃがみ込む。
膝が僕から出る液で濡れる。
全部の爪で、掻き毟るようにして膝に線を引く。
肩が震える。

(僕は今日まで、君が笑いかけてくれるから、生きてこれたのに)

言ったって、苦しいのがなくなるわけじゃない。
何が変わるわけでも、救われるわけでもない。
だけど言ってしまったのは、
なんかもう、言わずにはいれなかったから。
ほんとにそれくらいの理由。

声を掛けてこない人の、影が僕に掛かってる。

「僕、一生自分を許せない」

あのね、僕たちを壊したかったからじゃ、決してないんだよ。







イイワケ
不二の相手を誰にしようかな〜と思ったけど、結局乾にしました。や、なんとなく。 てかこの人しかいませんでした。 きっと不二は頭のいい人なので、同時に色んなことを考えて、そんであんまり分かって貰えない人なんだろーなーと思いました。
ちょっとの期待が勝った瞬間に、負けちゃった不二でした。 しかしかわいそー!
2005.2.22