浮かんだ
金魚が何を連想させる。



「 無 題 」(上)




「遠くて浅い記憶が、僕の脳内全てを支配しています。僕のそれが罅裂してしまうのは、最早時間の問題です。

ねえ、僕は君が好きだった。
君の気持ちを憂慮できないほど、君が好きで堪らなかった。僕から離れたくて君は行ったのに、僕は君の元へ行こうとしてる。そうしたら君は嫌がるね。でもそれでいいよ、そしたら君の魂は開放される。僕から逃げようと更に行けば、君は還れるよ。
だからどうか安心して下さい。

ごめんね、僕がしてあげることは、これしかないみたいなんだ。ごめんね、僕は君のお兄ちゃんに、最後までなれなかったね。」



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「不二、早く来なさい」


いきなり授業中の3年6組のドアが開いたと思うと、担任が不二を呼んだ。厳しい口調と顔付き、何かあったのは明らか。教室は一瞬でざわついて、不二はきょとんとした顔をしたまま立ち上がった。机の隙間をぬって、担任の目の前に辿り着くと、こっちを見た。困ったような顔つくって小さく笑うと、そのままドアは閉まった。
湧き上がる教室と、オレの心拍数。授業を中断された教師が必死に生徒をなだめる。でも皆、色んな予想とかを展開させていて中々収まらない。オレの動悸も収まらない。今ちょっと、運動後以上に働いてる状態。ストーブで熱いはずのクラスなのに、オレだけ1人寒くなってる。

五感が告げる、ヤな予感。必ず当る、ヤな感じ。

不二はその日、教室に戻ってこなかった。出ていったのが1時間目で、放課後になっても部活が終わっても、不二は姿を見せなかった。家にちゃんと帰ったのかな、携帯チェックするけど不二からの着信はなく、もどかしさが募るばかり。



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「オマエ、不二から何か聞いてないわけ?」


多分今日4回目、オレ向かってそう言う奴。ちゃんとカウントしてたら、どんくらいメーターはカウントするだろう。


「だって今日で1週間だろ?ただの風邪じゃなくねー?」


正確には6日目だよ、とは突っ込まないけどさ。


「なのにオマエ、なんも連絡ないわけ?」


オレは答える代わりに頷いた。
不二はあの日から、ずっと学校に来ていない。理由は知らない、聞かされないし、担任も何も言わない。多分オレが立ち入っちゃいけない、ってこと。オレが知らないってことは、学校中捜しても誰も知らない、ってこと。不二が1日2日何も言わずに休むのは、珍しいことじゃない。そーゆう時も不二は誰にも何も言わない。ぷらっと休んで、何食わぬ顔してやってくる。不二ってそうゆーヤツ。それと携帯の意味を多分理解してなくて、オレの気持ちも然り。メールもしようと思ったけど、機会の逃してしにくい状態。電話も然り。


「オマエ不二の親友なんだったら理由くらい訊いてろよ」
「うっさいよ」


必然的に語調が強くなる。オレだってほんとは訊きたいわけよ、親友なんだから。オレだけにコッソリ、とかしてくれたっていいのに。でも不二にはオレの入れない領域を持ってて、簡単には入れてくんない。無理に抉じ開けようとしても、かわされるのがオチだったりする。だから訊けない、だから訊かない。不二が自発的に動くまで、オレはいつも待ってる。報われたことって今まであったっけ?って探すと空しいけど、別に今に始まったことじゃないから待機に撤する。なのに何だよ、皆して訊いてくんなっちゅーの。


「不二先輩どうしたんスか?」


放課後のコートでも、クラスと同じ現象が起きる。オレの気持ちとは裏腹に、後輩たちもオレに訊いてくる始末。ここまでくると、改めてオレと不二が親友ってことの知名度の高さを思い知る。でもオレは何も言えない、何も言えることないから。不二って実は結構残酷。無意識なのかな。無意識でやってても、意識してやってても、結局ヤな感じには変わりない。オレが見付けた不二の唯一の短所。


「手塚先輩も訊いてないらしいスね」
「フーン」


興味なさげに答える。知らないのは自分だけじゃないのか、と少し安心しながら。だってあいつら仲いいし、オレには言わないことを手塚には言ってそーな雰囲気だし。でも今回は『チ、役立たず』的感情があるから不思議。


「桃城先輩とかも知らないスかね」
「桃は知らないっしょ、学年違うんだし」


そう言った時、水飲み場で顔を洗い終えた桃と目が合った。真冬に何やってんだよと突っ込みたくなる光景。オレたちの会話聞こえてたかな?こっちを気まずそうに見て、タオルで顔を隠した。何だ、今のリアクションは。桃に声を掛けようとした時、休憩終了の合図がコダマした。切欠を失って、問いかけも失われた。



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そして不二が来なくなって10日目が過ぎようとした日。
不二が学校へやって来た。いつもみたいに、何もなかったような顔して3年6組のオレの前に現れた。1日休んだくらいならオレは何も訊かないけどね。今度ばかりは例外ってもん。


「不二君!やだちょっと何でずっと休んでたの!?」
「不二君大丈夫なの〜?」


立ちあがって開口しようとしたら、クラスの女子に先を越された。その声に、ぞくぞくと集まってくるクラスメイト。そして欠席の理由を問う、興味本位のセリフがクラスを包む。オレはその様子をイスに座り直して傍観した。


「心配かけちゃってごめんね、ちょっと体調崩してただけなんだ。だからもう平気だから、心配しないでね?」


そう言って、にこ、得意の笑顔をつくると、周りは一瞬にして静まり返った。オレはそれを客観視。そうしないと気付かない不二の常套手段。不二は自分の人に与える影響力を知ってる。知ってて利用する。要は欠席の理由は訊くな、そうゆーことなんだろ?しかもそれはオレにも有効だったりする。だから訊かない。マチボウケ。



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不二は特に変わった所は見えなかった、ように見えた。
不二が学校に復帰した翌日の早朝。オレは珍しく時間的に余裕があったから、いつもより15分早くクラスに着いた。不二はまだ着てなかった。クラスにはオレを含めて5人のみで、黒板の上の時計は8時5分を少し過ぎた所だった。オレがクラスメイトと暫くくっちゃべってると、ちらほらと教室の人口密度が上がっていった。そして不二も、いつもぐらいの時間に来た。本当に何も変わりない。昨日の部活も普通だったし。あ、でもちょっと前髪伸びたよね。


「オハヨ」


不二の机の前で何日か振りの朝の挨拶。不二は机にカバンを置いて、筆箱だけ出した。カバンを机の横にかけて、椅子に腰を下ろした。そしてじっとオレの顔を見る。あ、またいつもが始まるんだ。うだうだオレだけやってると、いつの間にか置いてかれる。そろそろいつもに戻らなきゃ。不二の前の席のイスの背の上に座りながら、そんなことを思った。


「生物係って菊丸だろー?ちょっと来いよー」


矢先、窓際の席のクラスメイトたちに呼ばれた。


「不二、行こ」


オレと不二は生物係だったりするので、不二を連れ、机を掻き分け窓際へ向かった。


「なぁ、コレ死んでるよなぁ」


窓際のクラスメイトは、おいでおいでと手でオレたちを呼んでから、窓辺の水槽を指差した。見ると水槽は緑がかっていて、水は半透明の緑色に見えた。その緑の中に、やけに目立つ赤が水面に浮かんでいた。


「どうよコレ、やっぱ死んでんよな?」
「あーぁ死んで死んでるー。死んじゃったかぁ、でもこれ結構もったほうだよ」


浮かんだ赤が金魚だと分かったのは、クラスメイトの死ぬ、と言う言葉を聞いてからだった。そこから生き物を連想させて、金魚に辿り着かせた。てらてらと鱗を光らせたそれは、心なしか腹が膨らんで見えた。


「やっぱ冬だからかなー、寒過ぎンからじゃねーの?」
「そうかもねぇ、金魚って寒いとダメなのかなあ。ねぇ不二?」


応答がない、背後の不二に振り返る。


「不二?」


そこにはいるはずの不二はなかった。慌てて不二を探して、視線を下に向けると、うずくまった不二を見付けた。顔色は不自然な白に染まっていた。


「不二どうしたんだよ!?」


両手で口を覆い、小さい子どもみたいに、怯えるように震えてる。慌てて不二に近付いて屈むと、


「ごめんね」


小さくうめいて、不二はごろりと崩れた。自慢の髪が床に広がる。閉じた目じりから涙が零れていた。こんな不二を初めて見た。切なそうな謝罪の言葉も初めて聞いた。その音が耳にへばり付いて、駆け寄るクラスメイトの声は、オレには届かなかった。


「無題」(中)

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イイワケ
今の所、訳が分かりませんね(笑)やたらめったら長い文ですけど、これはきっかり上・中・下で終らせます!もうほぼ書き終わってるんですよ〜ン☆いやぁやっぱこーゆーのは書いてて楽しいです!!テンション低いの好きですヨー。続きは更に暗くなるですよ。アハハ(エー?)

ちなみにコレ、アンケートに答えて下さった方へのブツだったりするんですよー!(汗)まだ本人様にも何も連絡したり、送りつけたりもしていないという(爆)だって報告したら、カップリングばれちゃうから・・・(笑)これをリクってくれた方には、(下)ができ次第、送りますので!ってことでスイマセンが宜しくお願いします。
01.10.12