見えない何かが縛ってる。

覚 束 な き 季 節


「エージ、屋上行こうよ」


誘われるままに、オレは不二の後について屋上へ行った。いつもなら逆のパターンなのに、珍しい現象が起きたもんだ。だからかな、嬉しくて簡単に了解してしまった。体育館の予行練習なんかより、不二といるほうがずーっと楽しいし。不二と一緒にいれば、先生に叱られたって大丈夫だし。

休み時間の終る2分前。屋上に続く階段を登ってっても、生徒は誰もいなかった。階段と上履きのこすれる音が、校舎内に反響する。それしか耳に届かない。広くて静かな涼しい空間。優越感に浸りながら、2人で階段を登った。

屋上のカギは年中壊れてて、不二はドアを鈍い音をたてながら開けた。不二がそのドアを開けるのは、まるで秘密の花園へ繋がるドアを開くみたいで、オレはとてつもなくわくわくしてた。

ドアを開けて、そのまま屋根のない地へ進むと、涼しい風と暖かい日差しがオレ達を包んだ。日光が眩しい、目を細めて真ん中まで歩いていく。灰色の地面がキラキラ白く光ってる。足の裏があったかくて、やたらと気持ちいい。

“もう春だ”

色んなものがそう告げる。春って好きなんだよね、花の芽が出る始まりの時。春が来るたびウキウキした気分になる。


「気持ちいいねー」


穏やかな声不二の声。目を閉じて、空を仰いでる。それを真似てみると、本当に気持ちよくって、頭が空っぽになる。不思議で面白い感じ。


「変なの」


空っぽの脳に、消え入りそうな声が入りこんできた。不二の声だって気付いたのは、ちょっと時間がかかった。声のするほうを見ると、不二はフェンスに手を置いて、やっぱり空を仰いでいた。


「どうして?」


床の温度を味わいながら、不二に2歩3歩近寄る。雲はゆるやかに流れ、青空は何処までも青かった。日溜りの季節は気持ちを穏やかにしてくれる。


「だって僕はこんなにも悲しいのに、空は綺麗」

「うん」


“何で悲しいの”

それは訊かない。2人で一緒にいた時間の中で、交わした覚えのない約束がある。訊かないのがルール。雰囲気がそう言ってる。


「何でこんなに綺麗なんだろうね」


まるで綺麗がいけないように呟く。誰もいない2人だけの空間。なんだか空に融けちゃいそう。呟き声も、オレらの片方だけいなくなっちゃっても、気付かないかもしれない。そんな青空。

心地よい無音に包みこまれる。もしかして、不二はいなくなっちゃってないよね?不安感に襲われて、フェンス側に顔を向けた。

さらさらな髪が、茶色の透明に光る。綺麗だね。不二はちゃんとそこにいた。髪とお揃いの、色素の薄い瞳で空を仰いでいた。綺麗な髪、綺麗な瞳、綺麗な肌、綺麗な不二。本当に何でこんなに綺麗なんだろうね、大好きだよ。ね、今オレがそう思ってるって知ってるよね。いつも好きだって知ってるんだから、今そう思ってるってことも、不二は知ってるよね。

“お互いに好きあってる”

それは不二もオレも、いつの日か気付いてた。でも口には決して出さないすことはない、雰囲気が交わした覚束ない約束。口に出せば何か壊れる、それを多分2人とも知ってるから。今の関係を壊すことが出来ない。2人とも臆病だよね。

そして気が付けば春が来ていた。


「不二、合格おめでとね」

「うん、ありがと。でも情報早いねエージ、誰から聞いたの?」

「オレがいなくても泣くなよ?」

「エージこそ泣かないでよ?」


雰囲気が交わした約束が、2人を戒めてる。


「風邪引かないでよ?季節の変わり目エージ、引きやすいんだから」

「ブー、不二のお母さん症ー」

「エージの心配してるんでしょ」


見えない何かに結ばれてる。固く強く、ほどけないように。


「同窓会3年6組でやったら、すごい楽しそうだよね」

「アハハ、そうだよね〜、オレ今からすげー楽しみなんだけど」

「気が早いよエージ」


穏やかな顔で笑う2人。お腹の中で何を思ってる?どうしてお腹から声を出せないんだろ。


「不二」

「なに?」


見えない何かが縛ってる、笑う君も笑うオレも縛ってる。
成長しないオレたち。それでも君が好きなんだ。


「ンーン、何でもない」


広く青い空の下、覚束なき僕らの未来が広がった。
臆病者が2人いると、覚束ないよね。








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イイワケ
わた子ちゃんサイトの三千ヒット記念に贈りつけた文です。
何で贈り物なのに上手くいかないかなァ・・・!(泣)
わた子ちゃん、いっつも粗品を贈りつけてゴメンネー!!
とにかく三千ヒットおめでとう!応援してます!!

ノーマル菊不二。しかもほんのり切ない系を目指してみましたが・・・・
何でいっつもこんなに微妙かね?
両思いなのに言えない二人、しかももう卒業(出た、季節外れ〜!!)
お互い抽象的な態度しか取れない、そんな感じデスー。
切ない3年6組ってのも好きっすー!(つーか何でもいーんじゃん)
01.10.16