不二は、綺麗に笑いかけてくる。ほんとは、本当に本当は、それだけで、十分なんだ。



敗 ・ ワ ン サ イ ド ・ ゲ ー ム


「英二、機嫌悪いね」


不二は上目で俺を見る。動揺するのは言い当てられたからじゃないことを知ってほしい。


「別に、悪くな」
「くないよね」


確信を自覚してるから、断定的に笑ってる。こうゆうの、ずるいと何度も思うけど、愛は盲目で。どうであっても、やっぱり愛しいという気持ちは相変わらずで。


「どうしたの」


小憎たらしく覗き込む甘い顔色も、白い首筋も、軽やかに揺れる透ける茶色も―――
色付く君の、全てに参る。 何も答えない俺の様子に気付いて、


「ほんとに英二は分かりやすいなあ」


不二は嬉しそうに笑う。こういう時ほど、不二は殊更笑顔をつくる。そしてそのつど、形のいい唇が小さく開いては、惑わすんだ。


「僕、英二のことなら何でも知ってるよ」


ほんとに、参る。降参だよ。閉口する。弱った。心が奪われた。本当にもう、許してよ、惨めなまでに溺れてるよ―――。


「ね、英二」


その笑顔に投影されているもの。否応なく突きつけられるもの。それでも1番好きな顔。君の微笑んだ顔。俺に向けるその顔。ああ、もうほんと、どうしたらいいか分からない。だけど盲目なんだ。見えないくせに見えてるんだ。

だから頼むよ、気付いてよ、気付いてよ、ちゃんとちゃんと解ってよ、
君が本当に好きなんだよ―――。

そう、言わせない不二。そう、言えない俺。


縮まらない距離、をどこからともなく感じて、
空を切る手、の中にはやっぱり何も残らなくて、
もがく水中、のなんて深く情けなく苦しいこと。


「だから僕は、英二のことが好きだよ」


虚しく響く言の葉は、君に似てとても綺麗だった。





0 3 . 1 1 . 1 0