テイク ア ピクチャー
「好きだよね、ほんと」
不二はシャッターを切る。古くて重い味のあるカメラで俺を撮った。不二は別にポーズだとか表情とかは求めず、ただ俺とか、その辺の花とか、曇った空とか、お気に入りのサボテンとか、家族を撮る。
「上手に撮れてる?」
だけど不二は、撮った写真を見せてくれない。見せてって言うと、やんわりと一蹴される。だから俺はもう見たいとか言わないことにした。不二は本当に意固地だから、言わないことにした。
「上手下手は関係ないよ」
「だけど撮るんだったら、キレイなほが良いっしょ?」
「ううん、撮れていれば良いんだよ」
良く、分からなかった。
「んー、ソレって被写体がキレイだったら写真もキレイ、ってこと?」
「それも違うよ」
不二はフレーム越しに俺を見てる。鈍いシャッターを切る音が聞こえる。
「何で不二、写真撮ってるの?」
不二は手を止めないで、まだ俺を撮る。表情はカメラで隠されてるけど、唯一口元だけは見えた。
「忘れないため」
小さな唇が動くと、その唇はほんの少しだけ笑った。
「僕はすぐ、忘れてしまうから」
音が音に重なった。だけどどちらも消えずに響く。
「どんな形で、どんな物だったのか残しておかないと、思い出せなくなっちゃうから」
背筋が一瞬冷えた。だって不二、それってなくすことを前提に話してるから。俺が消えたって大丈夫って言ってるように聞こえるから。室内を響くこの刻まれる音が、そのまま不二の心にも刻んでるなんて知らなかった。
「だから1枚でも多く、撮りたいんだ」
不二の撮った俺はどんなふうに写ってるのか、今はただそれが気になる。
イイワケ
不二はトラウマがあって、それがあるから写真撮ってんですよきっと。ってお話。どんなトラウマかって、そりゃええとだから、例えば死んでしまった犬とか、写真撮らずに埋めちゃったから、もうその犬がどんな色でどんな種類だったかも忘れちゃった、みたいな?そんな感じ。
02.04.11