どうしよう?横目で不二を見てみたら。不二は普通だった。俺はドキッとしてすごい居た堪れなくなったのに、不二の横顔は普通だった。置いてけぼり、な感じがして、これが不二と俺の違いなんだなって思った。


投 影 映 像 シ ン パ シ ー


「ねえ、それなに?」


部屋でくつろいで暫くして、不二は机を指差した。何を言ってるのか分からなくて、取り合えず机に寄ってみた。辞書、定規、鉛筆削り、雑誌、ほこり、の下に所在なさげに見え隠れしてる、レンタルビデオのバッグを見付けた。


「そうそれそれ。それ何のビデオ?」


姉ちゃんが借りてきて、見終わったら返しといてと言われてたやつ。危ね、返却日今日じゃんよ、延滞なんかしたら姉ちゃんにボコられる。人知れず不二に感謝すると、


「ねえ、何のビデオ?」


感謝なんてされてるとも知らない不二は、無意識に流してしまった質問を再度尋ねた。バッグからビデオを出してタイトルを読み上げると、不二はベットから飛び起きて見たいと言い出した。


「え、不二これ見たいの?」

「多分それ、前から見たかったやつだよ、せっかくだから見ようよ英二」


俺の隣にしゃがんで、不二は見ようよを連呼した。姉ちゃんからハイ、と渡されたビデオだったから、何のビデオか知らない俺は、逆に不二にコレが何のビデオか聞いた。呆れられるかなと思ったら、不二はちょっと前に話題になった映画だと答えた。かなり、見たいらしい。映画館で予告を見たとかで、それがえらく洒落てて気に入ったと力説された。アクションモノしか見ない俺は、そのタイトルに疎かった。というか、不二の説明ともいえない説明は、要領を得なかった。結局邦画か洋画かさえもからぬまま、上映会が始まった。
日曜の午後1時半。窓の外はそりゃ明るい。不二にカーテンを閉めてもらって、俺は水分と甘味を完備して、態勢はバッチリ。だけど俺は山場で飽きてきた。邦画は吹替えじゃないと俺的には無理。てゆーか恋愛モノってつまんない。最初に出会って、真ん中でこじれて、最後にめでたしめでたし。ドラマで3ヶ月続くのも理解に苦しむよ。首をゴキゴキならしてテレビをふと見た瞬間。変哲のないレトロな風景が俺を襲った。


『ずっと好きだったんだ。』


走る字幕に心拍数が踊る。


『本当はずっと、気付いてたんだろう?』


情調のある音楽が焦りを生む。嫌な、嫌なムード。気まずい、張り詰めた空気。14型のテレビでしかないのに、昼間の部屋にカーテンをしただけしかないのに、この雰囲気は何。何だよ、この重圧感。どうしよう、横目で不二を見てみたら。不二は普通だった。普通に映画に集中してた。俺はドキッとしてすごい居た堪れなくなったのに、不二の横顔は普通だった。置いてけぼり、な感じがして、これが不二と俺の違いなんだなって思った。不二、俺は結構こうゆうの辛いよ。


『どうして君は僕を無視するんだ』


視線を画面に戻すと、頼りなげな表情で必死に訴えかける人がいた。


『君はずるい、なんてずるい人なんだ』


女々しく縋る俳優は、侮蔑の眼を以って口紅の濃い女優に一蹴される。


『馬鹿ね、そんなの煩わしいからに決まってるじゃない』


陳腐な台詞、陳腐なやり取り、陳腐な声涙、陳腐な展開、陳腐な結末。
喉が渇くような苦しさ。堪んない、堪んないね。


「不二」

「うん」

「不二」

「うん」

「不二」

「うん」


続く言葉が言えなかった。不二の顔が見れなくなった。ビデオももう見れなくなった。募るものが多過ぎて、目に何かやたらきて、そっぽ向く振りして窓を見た。けど、掛かってるカーテンに遮られ、目は空間を泳いだ。


「これ、僕が見たかったやつと違ってた」


だったらもっと前に言えよ、と思っただけで言わなかった。





イイワケ
コレが不二の当て擦りだったら嫌だなあと思いました。
02.09.14