主流煙より複流煙が好きな僕がフィルターに口を付けているのは、君がもたらした産物以外の何物でもないよ。




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パフューム
perfume
:〔十分な(per)煙(fume)〕



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英二の部屋はカラオケボックス臭い。ようは煙草臭いってこと。英二は僕の前でスパスパと煙を吹かす。慣れた手付きでフィルターをトントンと叩いて、灰を零さず灰皿へ落とす。モワリと口から煙を吐く。僕はその煙が好き、だってとってもいい匂い。煙草の箱には確か赤いロゴが付いていた。銘柄は知らないけど、僕は英二の吸うその煙草の煙がすごく好き。


「吸う?」


時々英二は煙交じりで僕に促すけど、僕はいつも首を横に振る。


「いらにゃァの?」

「ン、お腹いっぱいだからダイジョブ」

「そぉ?欲しくなったら言ってネン」


そう言って、英二はまた煙を撒き散らす。いい匂い、本当にいい匂い。英二の部屋は、いい匂いで充満してる。僕は英二の部屋が本当に好き。禁煙席なんかなくたって、一向に構わない。



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家に帰ると、酷く冷たい空気が肌を刺す。堪らず暖房を入れるけど、僕の部屋は中々暖まらなくて、パジャマを着込んで直ぐさまベットにもぐり込んだ。冷たい布団に冷たいシーツが身体を震わせる。何で暖かくならないの?暖房のリモコンには24℃の表示。新しいのにもう壊れたの?明日電気屋に電話しなきゃ。


「・・・寒」


丸くなって、身体をぎゅってして、両腕を摩って、乾燥した空気の中眠りについた。



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だけどこの部屋はいつだって暖かい。それにいい匂い。


「あったかいね」

「暖房下げよか?」

「ううん、ちょうどいい」


いい匂いと、適温の部屋。最初は好きじゃなかったのに、いつの間にかこんなに好きになってた。


「もぉ!煙草は嫌だって言ってるでしょ!煙ったい!」

「だって止めらんないんだもん〜」

「やだ、吸い始めたばっかなのにもうニコチン中毒なの?」

「アル中よかマシっしょ?」

「・・・ウチの家族、誰も煙草なんか吸わないよ?」

「うわっ、なんかすげー健康的!」


そんな会話もしてたのに、今じゃ全然気にならない。家族と外食する時だって、いっつも禁煙席が空くまで待つのに。禁煙席が満席だったら、今なら迷わず喫煙席に行っちゃうよ。


「いーい匂い」


それほど気に入ってるってこと。




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家に帰ると、やっぱり酷く冷たい空気がトゲトゲしくて、暖房を入れた。ああ、体感温度の問題じゃないんだ、そう気付いたのは部屋が暖まり始めた頃。だって部屋は27℃で体温は暖かい。だけどトゲトゲしさは相変わらず。じゃあ何がこの寒さじゃない痛みをもたらしてるの?暫く突き刺すような痛みを、全身に浴びながら考えた。そして比較から導かれた仮想解決嗜好品。これだと思った。




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「ねぇ」

「ンー?」

「箱見せて」

「箱?」

「煙草の」

「吸うの?」

「銘柄知りたいだけ」

「ほいよ」


ポテ、と床に転がされた箱には、白地に赤いロゴが入ってた。これか英二の部屋の素。


「英二は煙草、どこで買ってるの?」

「へ?煙草?自販機?」

「中学生でも買えちゃうもんなの?」

「てゆーかオレ買ってるし」

「フーン、そう」

「なーに不二、家で吸うの?」

「そんなじゃないよ」


ただちょっと、部屋が寒いから。




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コンビニの隣りの販売機に270円を入れて、英二と同じ銘柄の煙草を買った。これでもう大丈夫、色んなドキドキを抱えながら、足早に家に帰った。

夕食をソワソワしながら済ませて、部屋に駆け込んだ。嗚呼これでもう、この寒い部屋ともお別れだ。カバンから煙草を、リビングに仕舞ってあったマッチをポケットから取り出す。ええと、英二はどうして吸っていたっけ?まず煙草を咥えて、それから点火して、息を吐くの?吸うの?モタモタしていたら、擦ったマッチの火が消えて、リンの匂いが広がった。ちょっと惜しい匂い。何だかワクワクしてきた。顔が無意識ににやける。今度はちゃんと煙草を内炎ぽい所に当てて吸ってみる。喉にやんわり広がる苦味が、気管の粘膜を刺激する。咽た。咳き込んだ。鼻の奥がツンとする。でもほら、煙を出したらあの匂いに会えるから。目頭を押さえて口の中に湧いた煙を吐く。英二と同じ煙。
あ、英二の部屋の匂いがする、隣りに英二がいるような気がする。英二は自分のベットで寝転んで、プリッツを片手に雑誌を読んで、僕はベットを背にしてメールを作る。カチカチボタンの音たてると、英二が煩わしがってすぐに文句を言う。でも振り向いても―――部屋は僕だけで、すごく寒い。煙草の煙が立ち込めてるのに、何にも変わってない。マッチ売りの少女みたいな幻想は見えても、まだ寒いよ。いい匂いはするのに、英二の部屋の匂いはするのに、まだ寒いよ英二。どうして?英二とお揃いの煙草なのに、何がいけないの?嗚呼駄目、英二の部屋じゃないと駄目、英二の部屋に行きたい、英二の部屋に、英二に、英二に、英二がいないと、英二がいないと寒いから――





英二?

英二がいないと?

英二がいないと落ち着かない?

また繰り返される比較法。





あ、





僕が本当に好きだったのは、





あ、そうだったんだ。







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「ねえ英二」

「ンー?」

「僕、英二の部屋好きだよ」

「あー、そうなの?」

「ウン、部屋も、好きだよ」



英二に言わなきゃ、寒いのは英二のせいだって。




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イイワケ
あ、ラブラブ36だ、珍しーい!と思った方。それはアレです、彼の策略です(笑)黒菊なんですコレ(大笑)多いに深読みして下さいな文です。煙草吸い始めたのは勿論不二を嵌めるためにです。中毒になってんのは英二さんでなく不二です(笑)そして不二さんの部屋が寒いと感じるのは、英二のお部屋で吸ってるのは複流煙、自分のお部屋で吸ってるのは主流煙だからそりゃ当然味は違うよアンタ、ってお話です。勘違いしてんです(させられてるとも言う)
ウワ、長!!まあイイワケだからいいよね☆(否)

ちなみにコレ、わた子ちゃんにあげるの(なんつー迷惑!!)わた子ちゃん、ゴメン、アタシの黒菊ってこんな味になっちゃった(泣笑)くっろいのが書きたいのにぃぃぃ…!
02.02.13