習うより慣れろ、だけど習った




橙が窓から入って照らして頬染めて、向かい合った、目の前の人のマツゲがやたらぬらぬら光ってて、何が起きても不思議じゃないよな六組教室放課後綺談。


「好きってフェアじゃないよね」


さっきまでの会話は、専ら過去バナだったのに。しっかり盛り上がってたくせに、不二はどこでか分からないけど、話題に飽きたらしく、コロっと話題転換をしてしまった。俺もすぐ乗るから違和感もない。いつものいつもの場所の、いつものこと。


「好きになるのが?」
「なられるのが」


俺は首を傾る。たまに不二は難しいことを言う。


「そんなのに公平さなんかいるの?」


そういう時は、意見が食い違う時でもある。


「必要かどうかは別として。一方的に好きになる方はいいよ、だけどなられる方はどうなるの?」
「喜ぶ?」


俺は思った通りのことを言ってみた。だって実際この前好きですって言われたけど、そん時俺は嬉しかった。俺のこと見てくれてる人がいるのねって、嬉しかった。だから俺はありがとうって相手に言った。


「それって間違いだと思うんだよね。人から好かれて嬉しくない人はいないなんて言うけどさ、嫌いな人に好かれるのって嬉しい?好かれたい人以外に好かれるのって、迷惑って言わない?」


俺はそこまで好かれたことないから分かんないよ、とは言わないけど。極端なこと言うな、とも言わないけど。不二は机に頬杖をついて首を傾げる。


「でも、人を好きになるのは自由だし」
「それはそう、だけど身勝手だよ」


なんだか俺の価値観、というかなんというか、もってかれそうよ?反論しようとも思わない、悲しきポリシー尻すぼみ。


「好きに、なるのが?」


語尾よ小さくなることなかれ。だけど仕舞いにゃ目まで見れなくなって、爪の間に挟まった黒い何かをほじくった。距離が近いのって、こうゆう時、嫌だよね。


「だってそうでしょ。好きになるって、一緒にいたら楽しいなとか、嬉しいなとか、自分のことしか考えてないじゃない」
「それはまあ、好きになったらそうゆうこと考えるよね」


ばつが悪くて声がうわずる。わざとらしく聞こえてないといいな、なんて考えてたら、突如刺さった綺麗な声色。


「それが嫌」


音になってない、ため息みたいな感嘆詞が出てしまった、けど打たれ強い俺は会話をやめないコンティニュティー。


「どうして」


爪の間の黒は黒鉛。分かってるけど、何だろコレ、とか思いながら不二の答えを引っ張るのが俺のお仕事マイワーク。


「自分の好きになった人の気持ちを、考えてないじゃない」


サク。途端、心臓が痛くなるって笑えない。頭の中が霞んでいくって笑えない。


「考えては、いると思うよ」


ああ声が、ああ飛ぶよ、ああ嫌だ。


「考えてないよ。だって好きになる人と一緒にいたいって思うよね。それがそもそも身勝手だよ。だって相手はそんなこと思ってないんだよ。一緒にいたいなんて、これっぽちも。なのにそんな気持ちぶつけるのも、黙ってるのも身勝手だよ」


俺は狭隘じゃあないと思うけど、だけど、キュっと締まっていくものが、俺にはあるよ不二。


「思うのも?」
「思うのも」


叫んでみたい、とか思う時もある。床に伏せさせたい、とか思う時もある。思い知らせたい、とか思う時もある。だけどいつだって黙思でとどまる俺は不二、偉いでしょう?だからちょっと、これだけは、


「思うだけならいいでしょ、人を好きになるのが自由なら、思うのもいいはずだよ」


言わせてよ。


「…僕は嫌だ」
「でもさ、それってつまり、一方通行のサガなんだよ。だから、いつまで経っても報われないとか、そうゆうことが起こるんだよ。相思相愛になるってさ、難しいことだよね」


不二は静かに俺を見て、煩わしそうに窓を見遣った。


「そうかも、ね」
「そうなんだよ」


身を以って知った教えを、誰に教わったかなんて教えない。







 


イイワケ
どれがどっちのセリフか分かりにくいわね!てなわけで分かりやすいバージョンも作ってみたよ(笑)
ここから
02.10.31