コンテージョン
  c o n t a g i o n




君に触れたら指先は壊疽してしまう。
 触れた所からじわじわと腐ってしまう。
  防腐剤がなければ君には触れられない。

 

 

 

 

 















傘、入ってく?



梅雨のある日、手塚は下駄箱の前で見上げられていた。十センチ目線を下ろして不二周助の顔を一瞥すると、彼の持つ傘の柄を奪うように取った。手塚が無言で歩き出すと、その背後から小さな足音が手塚の耳を撫でた。
二人は下駄箱を通りすぎ、あと一歩踏み出せば雨に打たれる、という所で手塚は足を止めた。霧のような飛沫が素肌に届き、その肌寒さに手塚は僅かに背筋を震わせた。その涼しすぎる寒さを払い除けるように、大袈裟な動作で灰色のジャンプ傘を広げると、不二は黙ってその中へ収納されるように入った。途端、洗いたてのような髪の香りと、体温の気配、触れていないのに熱を感じた。



僕、雨って嫌いじゃないんだよね



手塚の肩越しにある、自分より十センチがばかり小さな熱の塊は甘ったるい調子で囁いた。涼しさは寒さに変わり、寒さは俄かな熱に転換した。
雨量の増す霧掛かった世界に、二人は足を踏み入れ、水を跳ねさせながら足を進めた。手塚も不二も、お互い外側の肩がじわじわと濡れていった。ねずみ色の傘は、二人が収まるには小さく、肩を寄せ合うようにしなければ、雨は凌げない。手塚は傘を不二の方へ傾け、不二がなるべく濡れぬよう努めた。



だめ、君が濡れちゃう



不二は傘の柄を掴むと、そのまま手塚の方へ押し寄せた。体温が上昇する。
不二の肩が、手塚の左腕に、触れそうに――――






傘は地面へ落下し、手塚と不二の白いシャツは、みるみるうちに雨色に染まり、両者の間がセンチからメートル単位へと変化した。
手塚は接触する寸前、傘を放り出して、長い足を広げてその場から逃げた。雨音が急に激しく鳴りだし、手塚の思考の全てを奪った。全身を滴らせ、濡れた髪を拭いもせずに、不二は静止する手塚を哀れむような顔でそれを眺めていた。そして二言三言呟いた。手塚には雨の所為で、ただ口が動いただけにしか分らなかった。不二は飛沫を上げながら一歩二歩、と足を進め、手塚の目の前で対峙すると足を止め、白いしなやかな手を手塚のすっかり冷えた腕へと伸ばした。濡れたシャツが手塚の躯幹の自由を捕縛し、手塚はただそのこちらに向かってくる白いものへと視線を投じた。華奢で白い指先から水滴が幾粒も落ちていく。水溜りにその水滴が落ちて飛沫を上げ、波紋が広がっていくのを手塚は確認こそしなかったが、そうであることを知っていた。
華奢な指先は、蜜を求める蝶のように、迷わず求めるその先へと向った――――

 

 

 


























防腐剤を下さい。







































イイワケ
これは塚不二・・・というかなんというか・・・・モニョモニョ。
「触れられたら手塚は不二に抗えない」ってお話です(超自称だネ☆)
だから冒頭部分は手塚視点、ということになります。
01.06.16