吐 け な い ビ コ ウ ズ
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「ごめんね周助、でも残しておくのが悪いのよ。冷蔵庫は周助だけのじゃないんだから、好きなものは先に食べるべきよ。」
『そうか、ありがと姉さん。僕が悪かったね。これからそうするから、姉さん次からは食べていいからね。』
「周助ごめんね、次の授業参観には周助のほうに行くから。お兄ちゃんなんだから我慢できるわね?」
『そうか、僕はお兄ちゃんだから我慢しなきゃいけないんだね。大丈夫だよ母さん、僕は1人でも平気だから安心して。』
「周助、そんなに泣いていたら父さん行けないだろう。ほら泣くな、父さんに笑ってくれ。6ヶ月したら帰ってくるから、な?」
『うん、分かった。僕泣かない。ちゃんと笑うよ父さん。だから早く帰って来てね。』
「ヒロインぶってんじゃねぇよ兄貴のくせに。」
『 。』
我慢した。とっても我慢した。悲しくて、辛くて、泣きたかったけど、それでも我慢した。でも時には抑えられない時もあって、そういう時は抑制を解いた。弟だけに弱音を吐いた。うんざりするほど吐いた。まるで自分が中心に世界が回ってるかのような身勝手なセリフを永遠と吐いた。弟はそれをじっと聞いた。とにかく聞いた。何も語らなかったけど、聞いあげようと思った。でも段々駄目になってきて、今度は弟が我慢できなくなった。抑えられなかった。
「ふざけんなよ、いっつもいつも言うだけ言って。何でオレに言うんだよ、うぜぇよ。ヒロインぶってんじゃねぇよ兄貴のくせに。」
弟は吐いた。その代わり、今度は兄が吐けなくなってしまった。そしていっそう笑うようになっていった。
『これを言ったら思われるかな、被害妄想が激しい奴だ、情けない奴だって。じゃあ駄目かな?皆はこのぐらい平気って顔してるの?・・・・してるよね。じゃあこれも言っちゃいけない、我慢しなきゃ。じゃあ、あれも駄目だ。あれも言えない。言ったら嫌われちゃうよ。そんなの嫌でしょ?じゃあ閉じなきゃ、抑えとかなきゃ、我慢しなきゃ駄目だ、気付かれちゃいけない。
弱音は吐いちゃいけない、だからその代わり――ボクは笑おう。』
不二の心理は頑なになり、上辺だけの強さは完璧になっていった。同じ間違いをしたくない、嫌われたくない一心で不二は笑った。笑った。笑った。弟の前でも笑った。だから弟は兄を殴った。
「何してんだよ、何で笑ってんだよッ、やめろよ、やめろ――!」
「なァに今の音――裕太!?何してるの、ちょっと裕太――!」
弟は泣いた。涙を振り撒きながら兄の胸倉を掴んだ。後から姉が必死になってそれを抑えようと奮闘していた。振り上げられた拳が、兄の頬を殴打した。
弟は悔いていた。心から、自分の軽率な発言を後悔した。あの時言わなければ、あの時いつものように黙って聞いていれば。兄はこんな笑いをしなかった、こんなに苦しまなかった。より所は自分だけだったのに。自分だけに兄は弱音を吐いていたのに、なのに自分は兄から奪ってしまった。
だから本当に自分が嫌で、他人を頼らず未だ笑う兄を見るのが痛くて。現状を打破したくて。
「放せッ、殴ってやる、意識なくなるまで殴ってやるんだッ!」
「裕太やめなさいッ」
兄を解放したくて、でももうどうにも出来なくて。弟は兄の笑みを見るたび後悔するしかなかった。
「ごめんね裕太」
泣けない兄に代わって弟は咽いだ。
イイワケ
「キクフジ」文のとこにある、「吐いた〜」の前後、というか伏線、じゃないな、なんだろ。えー、サイドストーリー?すいません、分かりません(←バカ)
02.01.11