程好く適当によろしくお願いします


「俺と付き合わへん?」


いきなり何を言ってるのか、聞き取れたけど解らず、不二は極めて珍しい表情を見した。


「あかんか?」


不二は、口を半開きにして一瞬凍る。融解したのは、だけどすぐだった。不二は実に理性的に出来ていたから、すぐさま反応を返せた。だけど不二は柄にもなく少し動揺していた。場所のせいも少しあるかもしれないけど。


「ちょっと待ってよ、いきなり何言ってるの?しかも、こんな所でッ」


こんな所が指す場所は、要はベンチであたけど、2人の取り囲む環境は試合と試合の合間の会場だった。だから2人のすぐ目の前を人が通るし、お互い割とこの世界で顔が知れてるものだから、人目は多い。必然的に、不二はひそひそ話用の音量を出した。だけど隣りに座る大きい人はそれをしない。


「質問の答えは?」


何故か終始優位な忍足はにっこり笑って、甚だ当たり前の不二の質問は、答えでない応えに一蹴された。不二は妙に落ち着かなかった。いつもは絶対にしないのに、手に持っていたペットボトルの口を2、3度かじってみたり、大きく腰を掛けていた椅子に大きく座り直してみたり、自分の肩を小さく叩いてみたり、端から見ればそれは誰もがやるような光景だったりするけど、不二がそれをすると、やたらマヌケというか、目立つ。不二は明らかに動揺、というか挙動不審だった。忍足はそんな隣人にお構いなかった。


「カウント5秒前、5、4、3」

「だからちょっと待ってって、何なのほんとにいきなり!」


今度は一蹴されなかった。不二の挙動はおかしかったけど、そのせいでどうやら不二は頭の中の平静を取り戻した。忍足は常に冷静だから、上下関係や優位位置などをつければ、圧倒的に忍足が優勢だった。だけど劣勢に甘んじたのは、多分ムっとしたから。


「何でまんまの意味取らへんの」

「は?」


不二が大きく口を開くと、パサリ耳にかけた髪が風に揺れた。


「いきなりとか関係ないやろ?俺は不二と付き合いたいて思うから付き合お言うてるんやん」

「ウン、まあ、そうなんだろうけど・・・じゃあつまり、忍足、僕のコト好きってこと?」


瞬間、忍足の顔が爆発的に赤くなった。見てるこっちが恥ずかしいよと言わんばかりに、不二も顔や耳を赤くした。


「・・・じゃあ、ヨロシク」

「・・・こちらこそ」

「・・・ウン」


握手をして、2人はそのまま手を繋いでみた。見えないように、ベンチの上で。ものすごく、小っ恥ずかしかった。