逃避行は僕だけがする


片手でタバコの箱を開けて、1本取り出して咥えて火をつける、その仕草。


「あ、ワリ、煙った?」

「別に」

「じゃあ何でそんな酸っぱそうな顔してんの」


はっとして顔を伸ばす、けど今更だった。


「煙たかっただけだよっ」


大股で歩き出したら、気配が後ろからトコトコ付いて来た。


「何でおこってんのさ不二くん」

「怒ってないよ」

「しっかり怒ってんじゃんっ」

「おこってないってば」


タバコの匂いが鼻を掠めて、慣れない僕は少し咳をする。


「わ、ゴメン、不二くん煙草ダメな人?」


通り越したゴミ箱に、慌てて千石くんはタバコを捨てた。僕は立ち止まらないから、彼はまた後ろから僕を追う。


「ゴメンてば不二くん」

「だから怒ってないってば」

「ウソつけー」


別に、ウソじゃないもん。ただ、急に大人っぽい君を見るとね、僕は焦る。だけどね、それだけじゃないの。だから僕はとっても複雑なんだよ千石くん。


「君はズルイ、よ」

「えぇ?」


だって君は、いつもおどけてばかりいるのに、たまに僕を窒息死させるような素振りを平然とする。


「何だよそれ」

「僕だって分かんないよ、もう」


何か、割に合わない、とか思うのね。


「だから何でおこってんのってばさー」


君は、息が止まるほど、声が出ないほどたまに急にかっこいい。見蕩れてしまう僕がいる。そんな僕を君はまだ気付いていないけど、一生気付かれたくないと思う。だから、もうちょっとだけ、逃げさせて。


「全く不二くんは変なところで怒りんぼうだなー」


むくれる君に安心するなんて、君には絶対教えない。だから僕は取り合えず、君を怒らしてる。これが僕の避行法。

 



イイワケ
こいつらラブラブ(笑)文章でこの人たち書いたらこうはいかんぞなもし。
02.06.06