僕はきっとストローである


「カプチーノの真ん中サイズ1つと――不二くんは?」

「キャラメルフラペチーノの小さいやつ」

「甘くない?コレ」

「甘いから頼んだの」

「ふうん」


なんて、僕が日曜にも関わらず、往来の激しい日の当たるテラス席なんかでお茶してるのは、千石くんの電話から始まった。


「不二くん、これからデートしよう」


気まぐれにかかってくる電話は、大体こんな感じの内容だったりするけど、今日のはひどかった。千石くんは場所だけ告げて、待ってるねと言って電話を切ってしまった。それでおしまい。取り付く島もなかった。仕方ないから古着屋で買った、少しだけお気に入りの、緑の花柄のシャツに袖を通して、洗ったばかりのパリパリになったリーバイスのジーンズを穿いて、携帯とウォレットをポッケに詰めて、現場に向かった。シャワー浴びた後で良かったよもう、と呟いて。 指定場所に着いたら、千石くんらしき姿はなかった。僕は呼吸を整えるのに必死だったけど、それでも膝に手を付くなんてことをせずに千石くんを探した。


「不二くん」


5分ぐらいそうしていると、千石くんが走って近付いてきた。トイレにでも行ってたの、と言おうとしたら、


「ごめん、待たせちゃって」


くしゃっと笑って、両手を合わせて謝った。その言葉で僕は漸く気付いた。何だ千石くん、今来たの。


「不二くんこんな早く来てくれるとは思ってなくて」


千石くんが僕の顔を覗き込む。


「どしたの不二くん、顔赤いよ」


恥ずかしい。かなり、恥ずかしい、もう。まるで僕がうきうきしながらいそいそ来たみたいじゃない。別に、そんなつもりじゃ、ないのに。


「別に何でもないよ。…人に待たれるの、嫌なだけだよ」

「ン、何が?」

「だから、僕が早く来た理由」

「え?あぁ…ええと、俺そんなこと聞いたっけ」


…悔しい、かなり悔しい。


「聞いたの!もう、僕先行くから!」


背を向けて、歩き出したら、


「不二くん、どこ行くの」


と尋ねられた。僕が聞きたい。もう僕ボロボロ。


―――――


「千石くん」

「なあに、不二くん」

「そうしてて、面白い?」

「うん、つーか幸せ」


だから、そうゆうとこがウサン臭いって、どうしてこの人は分からないんだろう。僕は両手の親指で掴んでいたストローを唇でつぶしながら肩をすくめた。あと2口ぐらいで飲み干せちゃう千石くんの頼んだカプチーノのカップはテーブルの真ん中に放置されていて、千石くんはというとさっきっからスプーンでフロートをぱくぱく食べてる僕を観賞している。しかも、にこにこエクボなんか作っちゃいながら。


「良かったね」


と素っ気なく言うと、


「うん」


と嬉しそうに笑う。そんな顔してそんなこと言われちゃうとさ、僕にまで感染してきちゃいそうで、僕はストローでズズっとフロートを飲んだ。


「不二くん、おいし?」

「うん」


なんかもう、全てが恥ずかしいような気になってしまって、変に照れちゃうよ。結局好いように扱われてるのって、僕のほうだったりするってこと、だよね。なんて軽く思うけど、それでもいいよもう、って思っちゃうのは君のせいだよほんとにもう。





イイワケ
ダメフジコ。たまにはこんなフジコも良かろう(そうか?)甘々炸裂御免。
02.08.12