無関心を捕まえろ
「何か見えるの?」
背後からの呼び掛けには、応じなかった。その物腰には、心当たりがあったから、顔を見ずとも背後に立っている人物は知れていた。
「魚でもいるの?」
囁くようにそう言うと、呼び掛けておいた者をさっさと追い越して、池の柵に手を滑らせた。不二は忍足に後姿を向けたまま濁った池を、さっきまでの忍足のように眺めた。
「これだけ汚いんじゃ、いないか」
首を傾げて後姿だったかと思うと、不二はくるりと身軽に姿勢を変えて、忍足に向き合った。忍足は不二から5歩ほど離れて座っていたから、忍足が不二を見上げる格好になった。
「こんなとこに居ていいの?」
「自分はどーなん?」
にこり、不二は嬉しそうな笑顔になって、うふふと声に出して笑った。そしてそのまま真っ直ぐ歩み寄り、忍足の真ん前でしゃがんで、左右にに身体を揺らした。
「何わろとんの」
「ンーン別に、ちょっと嬉しかっただけ」
「何やそれ」
「君、無意識なんだね、ふふ、余計に嬉しいよ?」
「だから何がやって」
「ふふ、秘密」
不二は暫く笑うと、垂直に立ち上がり、怪訝そうな忍足をまた見下ろした。そして両手の指を腰の位置で絡ませ、そのまま手をぐっと頭の位置まで上げ、上体を前に突っ伏した。準備運動をしているようだった。
「君、次試合なんでしょ?いかなくていいの?」
「自分かてそうやん」
「ウン、だからもう行かなきゃ」
「何しに来たン?」
「ン、人探し」
「誰?」
「もう見付かったからいいの、じゃ、またね」
いつの間にか、不二は忍足の背後まで歩いていて、忍足はその軽い足取りに釣られ、首だけで不二を追ったものだから、バランスを崩して達磨のように倒れそうになった。不二はそんな忍足を遠目に、ひらひらと手を振ってバイバイをした。そして本当にいなくなってしまった。そして、静かな憩いの場だった空間が、試合前の合間の、他校のプレイヤーが緊張してて騒々しい試合会場の日陰になった気がした。
「次オレら対戦すんやって」
珍しく忍足は溜息を吐いた。