本当はこそばゆい手のひら




僕はムクレた。だってズルイんだアイツ。僕がこれ以上言えないって限度を知ってるから、ニヤニヤ勝ち誇ったように笑うんだ。なんてズルイヤツなんだ。


―――――


「ウフフ、不二クン、ゴメンね?」

「何が」

「なんか、俺が無理やり、って感じじゃん?」


一応、分かってるんだね。でも前言撤回とか、そうゆう四文字熟語は一度も使ったことないよね君は。そうゆーとこが、ホラ。


「でも約束だったもんね?ジャンケンで俺が勝ったら不二クンは俺に―――」

「バカッ」


口を、手のひらいっぱいでふさいだやった。だって何か、いい気がしないじゃない。でも言わせておいたほうが良かったカモ、なんて思ったのは、コイツの悪いお口の所為。


「やッ・・・!」


ペロリ。口をふさいでいた手のひらを、舐められて、反射的に手を離す、というか離せ、と僕の大脳は、僕のこの手にちゃんと伝達したのに、伝達が無意味に終わってしまったのは、僕より反射神経の発達したコイツの手!


「エヘヘ〜、不二クンの手のひら、舐めちっタ☆」


僕の腕を掴まれて、僕は手を引っこ抜けなかった。ボソボソと、手に息をかけながら話すものだから、僕の手は湿っぽくなった。そして何より熱くて適わない。


「チョット、離してよ」

「イ、ヤ、ダ、タダじゃ離さな〜い、絶対」


手に触れる息と声が、熱い。彼の呼気が、僕の手の中で湿る。熱くって、なんかヤだ。


「ヤだって―――ヤッ!」


舌がまた手のひらを這う。今度はさっきよりも長く、広い範囲を。ペロンがベローンに変わった。その不快感に、やっぱり手を自分の方へと力を入れるけど、やっぱり阻まれる。


「ジャンケン負けた子は何するんだって?」


僕の手の中で、意地悪く囁く息。ズルイ、コイツは本当にズルイ、ズルイ。ちゃんとルールに従わないと、ペナルティーを与えるつもりなんだ。しかも手酷いヤツに決まってる!だから僕は、仕方なく、分かりきった質問の答えを言う。


「――自分から、キス、する――」


半ばヤケになってる僕の声に、ちょっと不満になった?って思ったけど、どうやらそんなことはなかったようで、首を肩に付きそうなほど傾けて、口を開けずにニンマリ笑った。満足顔、ってやつだった。


「キーッス、キーッス、キーッス」


一気コールのようなキスコールに、ちょっとガクリ。何でこんなに喜んでるんだろこの人、って当たり前の疑問は強い。濃厚。


―――――


「ご馳走様デシタ!」


まるで園児がお子様ランチを食べ終えたような口振りに、何だかすっごく脱力。しかもご丁寧に腰まできてる。お子様のくせに、お子様のくせに!


「ふっふっふ、俺ってジャンケンめちゃつよだからサあ、悪いね〜」

「何がラッキー千石だよ、ほんとに名前通りじゃんよ」

「名ばかり、ってゆーわけでもないんだな、見直した?」

「呆れた」

「ウワッ、ケチだなー不二クンは!」

「ちゃんと負けのルールに則ったんだから、ケチ呼ばわりしないでよ」

「ルール無視しようとしたクセニ」

「・・・・結果オーライだからいーんだもん」


―――――


結局判定勝ちしたのは、どうしてか彼だった。コイン当てたほうが勝者ね!なんて彼の言葉と同時に天井に付きそうなほど高く投げられたコインは、弧を描いて彼の手の甲にパシっと音を立てて納まった。勿論もう片方の手で、コインの表面は隠されている。


「表!」


歯切れ良く答えるから、僕は仕方ないから裏、と小さく言った。