比べる次元が違うのさ


対峙する2人は、どこにいてもとにかく浮世離れしていた。だから周囲の目がそこへ向けられるのは、別に不思議でもなんでもなかった。2人の外見が極端に整い過ぎだから当然のように注目は集中する、原因や理由は至極シンプルだった。彼らもそんな中で15年も生きてきたから、それなりに自覚はあった。だから一目を憚った。従って2人はいつものように自宅へなだれ込んだ。


「茶、出せよ」


人様のベットを占領した、浮世に反した片割れが不仕付けに言った。夢から現実へ、一気に引き戻される感覚を何度となく味わされた、もう1人の15歳はその一言を聞くと肩で溜息を吐いた。


「ンだよ、俺の前で溜息なんか吐いてんなよ」

「・・・・じゃあ吐かせないでよ」

「俺のせいか?」

「・・・・違うとでも思ってたの?」


不二がそう言い終わると、急激にぶすくれる跡部はベットで仰向けになった。


「あーあーあー」


抑揚を付けていきなり跡部は天井に向かって声を出した。不二はびっくり、というかぎょっとして手に持っていた手帳から目を離した。


「え、何?」

「・・・・何でもねーよ」

「何でもなくってそんな声出さないでしょ」

「ンでもねーよ」


そうポツリと漏らしてから、不二の部屋には沈黙が流れた。跡部は壁側に身体を向けて不貞寝を強行している。不二はものすごく困惑した。というか、飽きれて溜息しか出なかった。だから沈黙を沈黙ととらずに、ただ静かな時として不二は過ごした。その穏やかな不二の一時は、やっぱり長く続くものでもなかった。


「アルバム見せろよ」


やっと起きたと思って不二がベットを見ると、まだ不二には背を向けたままの跡部がベットに横たわっていた。何を唐突に言うんだろう、素直に不二がそう思うと、また同じ口調、同じセリフで急かされた。仕方なく、不二は霧吹きを棚に戻して、アルバムのある本棚へ寄った。


「いつの」


不二はなんかもう、どうでも良くなってきていた。一々反抗とか疑問とか投げ掛けるのも、この際無駄に思えたので、大人しく従った。


「テニス部が写ってるヤツ」


その要求を背中で受けると、不二は指で分厚いアルバムの表紙を探した。マメな不二は、色んなジャンルに分けてアルバムをとじていた。だから部活用のアルバムも、当然不二は作っていた。


「ハイどうぞ」


手を伸ばして、跡部に渡そうとしても、跡部は姿勢を変えようとしなかった。不二は何も言わずにベットの上にアルバムをのっけると、自分もベットの足元に上がった。ギシ、とベットの軋む音が部屋中に響く。不二は壁に寄りかかると、背筋を伸ばして跡部を覗いた。むくれているとばかり思っていた顔は、意外に普通で、目を閉じているから眠ってるように見えた。何故か分からないけど、とにかく不貞腐れているのは分かるから、仕方なしに機嫌をとってやろうと思った。


「ね、見てコレ、僕の入部したての時の。ふふ、可愛いでしょ」


そう言うと、跡部はのそりと上体を起こして、ハイハイをするように不二に近寄ってきた。


「ね?」

「・・・・可愛い」

「あ、コレは最近のだね、僕1年の時よりもね、身長10センチも伸びたの」

「あんま伸びてないのな」

「うるさいよ」


ペラリ、またペラリめくる度、2人の口調、態度、雰囲気は柔らかくなっていった。


「コレなんか、みんな若いよね、ホラ見てよ。あ、でも手塚は全然変わってないけどね」


ふふ、と和やかに笑う不二を、跡部は胡乱な目で見た。


「オマエさー・・・ほんと好きだよな、手塚のこと」

「そりゃ好きだよ、だってほんとに強いし、何かカッコイイじゃない、彼。見た目もいいし、性格も立派だし、人望もあるし、ほんと完璧だよね」


嬉々として語る不二の口調は、とても跳ねていた。弾んでいた。


「勉強も出来て、生徒会長も部長もこなせて、あんなにクールな人、他にいないよね」

「―――オレと」


はっと我に返った跡部は口をつぐんだ。そしてまたバタリ、壁側に向かってベットに倒れた。


「ね、さっきから何なの?今日ちょっと変だよ?」


また背を向けられた不二は、跡部の肩やら脇やらを転がすように揺さぶった。


「ウルセ」


跡部は心の中で吐き捨てる。どうせ俺は成長しないガキだよ、手塚みてーにクールじゃねーし、カッコよくもねーよクソ。


「もぉ、ほんとに何なのさ」


跡部の背中から溢れ出る強力なオーラを、不二は受け取らなかった。何故って結局不二の中の1番は言わずもがなだから、跡部が不安がる理由なんか、これっぽちも分からなかった。原因や理由は至極シンプルだった。