不足しがちな成分補給方


『会いたい』

極めてシンプルな言葉が携帯に並んだ。
動く理由は、いつだってこんな些細なこと。


―――――


「遅い・・・僕10分も待ったよ?」

「距離考えたら早いモンやろ」

「ウン」


ベンチに座っていた不二は、ゆっくりとした動作で立ち上がると、5歩先の忍足に歩み寄った。10日振りだね、元気だった?そんなセリフはお互い持ち合わせていなかった。不二はただ、忍足の胸に自分の頭を預けた。忍足は一瞬戸惑ったのち、不二の肩を自分に押し付けるように抱き、自分より20センチ弱下の小振りの頭をもう片方の手で撫でた。不二は頬で忍足の暖かさを十分に感じると、目を閉じた。春といっても、まだ夜空は肌寒く、不二は公園のベンチで1人、寒さと切なさに堪えていた。だけど忍足にそれらは解消され、不二は本当に暖かくて、まどろんでしまいそうだった。


「どないしたん?」


忍足は穏やかな口調で問うた。それは子守唄の一節のようで、本当に不二は心地良くて、肩の力が抜けた。


「愛情不足・・・だったから」

「いつもぎょーさんあげてるやん、足りんの?」

「言い方間違えた、僕、忍足不足だったから」


刹那、忍足の胸は締め付けられ、腕の中の小さいものを大事に、でも力強く抱きしめた。


「ゴメンな」


寂しい思いをさせてしまった謝罪。


「でもアリガトウ」


自分と同じ想いでいてくれた感謝。


「何が?」

「ンー、何でもない」


夜しか、しかもほんの少ししか会えない彼らは遠距離で、携帯とメールが接触手段。だけどそれは間接的すぎて、時々どうしようもない不安が襲ってくる。いつもは我慢している衝動が、そういう時は抑えきれなくて、手が勝手に携帯を操作していた。


「会いたかった」


安堵のため息は、不安を捨てさせた。


―――――


些細なことでも、動いてしまう。
真っ当な理由も不必要だから、理由もいらない。