暗夜へ行かば、汝がままに
「あれがデネブで白鳥座の首星、肉眼じゃ分からないけどね、白い星なんだよ。隣にあるのが琴座の首星ベガ、織姫なんだよね。下で輝いてるのがアルタイル、こっちが彦星。3つでこれ夏の大三角形ってね。東京の空でもしっかり星って見れちゃったりするんだよね、気付かないだけで」
指を方々に指して星空を仰ぐと、不二くんはウンと相槌を打ちながら聞いてくれた。
「星、詳しいんだね。僕は北斗七星ぐらいしか分からないよ」
星よりも綺麗な人が、俺の隣で夜空を仰ぐ。そうするとさ、顔がもっと近くなるんだよね。無意識に近い距離って、なんかやたら気恥ずかしいと思うのは俺だけなんだろうか。
「北斗七星、見える?」
一緒になって、最早俺の頭ん中にはきっちり記憶されてる夜空を見上げた。不二くんがこっちを見てるってのが分かったけど、俺は空に夢中になった振りをする。
「見えるはずだよ、北西のほう、ほらあれ」
「見付けたの?」
「うん、6つまで。目、細めれば見えるよ多分」
今度はちゃんと空を仰ぐと、星は綺麗だった。星がこんなにたくさん見えるってことは、つまり、真っ暗な所にいるってこと。不二くんは、どんな顔してんだか分からない。声と体感する温度、触れる肩が、でも不二くんを教えてくれる。
「見付けた?」
「ううん。ねえ、ほんとに見えるの?」
「見えますとも。だってアレよ?見付けんのヘタだね不二くん」
不二くんは悪かったねと言って、また空に顔を向けた。俺も7つ目を見付けようと薄目になって空を見た。ほらやっぱ今日は全部綺麗に見えてるじゃん。絶景だ。
「…千石くん、ぶっちゃい」
不二くんは急に小さく吹き出して、小さくクスクス笑い出した。
「この角度から見ると不細工だよ、今の顔」
「…そうゆーの傷付くよー?」
不二くんは1つけなすと1つけなし返してくる。スイマセンの意を込めて、俺は無駄に横に揺れて不二くんの頭に頭で小突くいた。不二くんはなにー?と言って笑った。割と、ご機嫌らしい。
「でも不二くん、よくこの暗さで俺の顔まで見えるね」
「千石くんは、僕見えない?」
「俺鳥目だからそこまではっきり見えない」
「でも僕はまだ星が見えない」
囁くように呟いて、俺の肩に頭を置いた。シャンプーの匂い、好きってわけじゃないけど、不二くんのだけは別だよって言ったら、バカ、って不二くんは笑いながら顔を赤らめる。どっちかっちゅーと、そんな反応が好きだから、また同じことを言ってみた。
「僕は、千石くんのほうがいい匂いだと思うよ」
首を動かして、不二くんはほっぺに触れた、唇だ。ああそうだ、この暗がりじゃ、不二くんの顔が見れないじゃんよ。今頃になって思い出した俺は、
「そうかな」
平静な声で答えてみた。いきなりの出来事の対処にしては、上出来と思うよ俺。だってこれって不二くんからの初チュウでしょう。ほんとはこうゆう時の君の顔が見たかったりするんだけど、俺に見えたのは瞬く星だけなんて、すごく勿体無いね。
イイワケ
星に詳しいキヨに萌えるのは私だけかしら。そんなマイ設定が私は好きよ?(笑)
不二は暗がりになると大胆になるっちゅー話でした。
02.08.28