「飛沫がとばねえか」

 雨音だけを耳に入れていたはずだったのに、
 突如その声がしたので、
 僕は聞きなれた声に身構えた。

 「今ならおまえのこと殺せてたな」

 口の端で笑う独特の笑み。

 嗚呼、視界にそれを入れながら、
 朽ちていくのも本望なのに。

 「いくら馬鹿でも風邪引くぞ」

 優しくされるから、
 惜しいとさえ思う。