咳が出始めて、なんとなく、ぼんやりと、
  僕は成すべきことを成せぬまま、
  このまま朽ちていくのだと感じた。

  予感は見事に的中し、
  余命を宣告され、
  喉の奥から血が出たのだけれども。

  実感がわかなくて、
  まるで人事のようで、
  僕の代わりに土方さんが悲しんでいるみたいだ。



  僕の病症を知ってから、土方さんは僕を避けるようになった。
  だけどひとたび僕を見付ければ、
  土方さんは顔を歪ませて、
  そして僕をぎゅうと抱きしめる。

  「泣かないで土方さん」

  僕を抱く一目見れば頼りになる腕と見紛う腕は、
  身に触れる途端、震えていることを知らされる。

  「だって仕様がないよ土方さん」

  子どもの頃にだって抱いてもらったことがないのに、

  「僕は病以外の方法で、生を殺めてきたんだよ」

  こんな時分になって僕は土方さんの暖かさを知る。

  「ばちが、あたったんだよ」
  「なら罰がくだるのは俺だ!」

  怒っている、悲しんでいる、慈しんでいる、寂しがっている、

  「おまえじゃない」

  土方さんの搾り出された声色から伝わる色。

  「俺なんだよ総司、おまえは何も悪くない」

  土方さんは馬鹿だなあ。
  もし本当にそうなんだったら、
  僕はこれ以上ない尊い死を迎えられる。

  これっぽっちの命であなたが生き永られるのならば、
  僕はこの生を、初めて誇りに思えるよ。

  そう言おうとしたら、
  急に咳き込めて喋れなかった。

  土方さんは何も言わなかったけれど、
  僕を見る顔は、最早見るに耐えなかった。

  だって難しいよ土方さん。
  僕はいつだってあなたのためになら喜んで生を投げ出すけれど、
  あなたはこの消えかけた灯火を、そんな顔で見る。

  この病んだ身体が、己が罰だと本気で思い込んでいる。

  本当に難しいね、土方さん。

  「これは俺の罪だ、罰だ」
  「でなければおまえがこんな」
  「こんな」

  あなたの所為であればいい、
  僕は本当にそう思うよ。









  2006.2.21