鬼になった男が言う。

今の僕がいるのは全部あなたがいるからです。

  大層柔い音調で男が言う。

感謝しようにも言葉で言い表すことができません。

  軽い足取りで真向かいに来る男。

僕にできることがある、僕はそれが嬉しい。

  そんな顔で、言う奴があるか。






  自分の罪を自覚して、
  その笑う顔を見て、
  正そうともせず、
  詫びのひとつも匂わせず、

  償う勇気のない俺は、
  ただただそれを鬼にする。

  感謝を垂れながら鬼になるそれに、
  ただただ鬼になる術と理由を与える。

  気違いになりそうな情緒、頭、手の冷え、吐き気。
  気違いになればきっと楽だ。
  その顔を見るのも苦じゃない、きっとそうだ。

  佯狂でも演じるもいい。


「土方さん ありがとう」



  目を背けても、許さない。
  己が罪はここだと、俺の罪が微笑んだ。






  2005.12.18